第143話 進退の決断
そしてそれから数分後。
突然、カサビムさんが座っていた運転席から飛び降りて、遠くを見つめ始める。同じ方向を見てみるが何も見当たらない。何が見えてるんだろう。
「どちらですか? ……成る程。ナビリスさん、相談があります」
そんな彼に話しかけたルルリさんが、受け取ったジェスチャーから状況を理解する。相談?
「何か……ありましたか?」
「はい、どうもそもそも魔物の数がかなり多いらしく、この東の先にそれなりの数の魔物が存在すら上で、こちらに向けて移動しているそうです」
「え、まずいですよねそれ」
「こちらに気がついた意図的なものではないらしいので、ここを離れれば難は凌げるそうなのですが、そうなると問題が発生します」
「問題?」
「進んで森に入るか、撤退するかです」
「……!?」
成る程、そもそも現状には違和感があると。その上でこのまま森に入るとそれなりに危険が増す。ベテランの小隊が同行していてなお、用心するなら撤退も視野に入れる程の状況。
進むべきか、戻るべきか。
「ご、ご主人様……」
「大丈夫だよ、ほらこっちにおいで」
不安そうなレミリア。でもここで引き返したら……この機会は永遠に失われるかもしれない。それにクラリスさんも……。
退くという選択肢はないか。
「それは念の為、であって不可能な状況ってほどでもないから選択を促しているんですよね?」
「その通りです」
「おーい、森の様子見てきたけど、やっぱウヨウヨいるよ。多分戦闘は避けられないね」
「ニーナさんはこの状況をどう見ます?」
「うーん、何かね……魔物が多いって言うよりこっちに向かってるというか……何と言うか……」
「こっちに?」
どういう事だろう?
「コーラルカーン側からラベルカーン側に魔物が移動……いや、むしろ何かから逃げてるのかな?」
ニーナさんは視線をカサビムさんに向けるが、カサビムさんは首を傾げている。まだ彼の索敵範囲にそれに関する違和感はないらしい。
「つまり魔物が多いのは向こうからこっちに寄っているから、という訳ですか?」
「うーん、多分?」
要領を得ない回答だが、恐らく確信のない勘の様なものなのだろう。
「それは……この状況を断念する程の事態だと思いますか?」
「分からない、けど魔物が多いくらいなら僕らには問題ないけどね。どうする?」
カサビムさんもルルリさんも、それに違和感があると言うニーナさんさえも落ち着いている。恐らく彼らにはそれ程問題ではないのだろう。問題あるとすれば僕らの方か。
「レミリア、少し無理をして進む事になるかもしれないけど、頑張れるよね?」
「勿論です! ここで私のせいで帰ったら……後悔しか残らないと思います」
うん、僕もそうだと思う。やはり……撤退の二文字は無いね。
「進みましょう」
進路は、前だ。