第14話 お仕置きの時間
「さーて今日もお店を頑張るか!」
「はい! 私入り口の掃除してきますね!」
トタトタと箒を片手に入り口の扉から外に出ていったレミリア。結局朝までずっと店にいたけど懸念していた襲撃みたいな事は起こらなかった。入り口のロウソクパワーなのかな。それとも……。
「や、あの、困ります!」
「話になりませんわ。店主を呼びなさい、汚らわしい」
……? 何やら入り口の方が騒がしい。お客様が来なくなって久しいが、それでも来店したという雰囲気には聞こえない。何かあったのかな。入り口に向かってみよう。
「お願いします、あの……」
「えぇい! 鬱陶しいですわ!」
「キャッ!! あっ、痛っ……」
……!?
成る程、あの人ですか。成る程成る程。
……成る程ね。
「やぁいらっしゃいませ、漸くお会いできましたね」
「あら、貴方が店主ですこと? 見窄らしい殿方ですわね」
「ご期待に添えず申し訳ない。今日はいかな要件でこの様な店へ訪れられたのでしょうか?」
「この店を辞めさせに来ましたわ」
「左様にございますか」
「……動じません事、何故なのかしら」
「一連の流れを拝見しておりますので、それくらいは予想の範囲内です。それにそのつもりは毛頭ございませんので」
「何を偉そうに、こんな汚らわしい店……!」
何処の令嬢だ?
隣には付き人がキッチリガードしており迂闊に手を出す事が出来ない。迂闊には……ね。
「私の知人や皆がこぞってこんな汚い場所に足繁く通っていたと思うと笑えてきますわ」
「そうでしょうね」
レミリアは……少し身体を打ち付けたみたいだけど大丈夫かな。でもゴメン、今はそれよりも。
「この私を差し置いてこの様な場所でコソコソと! 必要ありませんわ、潰してしまいなさい」
「ですが、私の所有物です。なので無理に壊せなかったのでしょう?」
「……貴方が認めればそれも可能。早く諦めて下さいまし」
やれやれ、本当にこんな人がいるんだな。私の知らない所でみんなが楽しんでいて仲間外れにされたからそんな店は潰してしまえって?
……成る程成る程。
ふーん、成る程ね。
「おや、手に何か付いてますね。ほらココ」
「ちょっと、何を……! 気安く触れないで……ちょっと!!」
「いいや、離しませんよ?」
「何を……!?」
「離しませんよ?」
「……離して、お願い、早く離して!!」
「いいえ、離しませんよ? 既に働いている店への狼藉の数々、そして営業妨害、あまつさえ従業員に怪我をさせて、この程度の事で僕に暴力を振るおうものなら……貴女もタダでは済まないでしょうねぇ」
「お願い! 分かったから離しなさい!」
「離しませんよ?」
ふーん、ガードマンたちは固まってるね。
成る程成る程。
ふむふむ、成る程ね。
「あ……やだ……あの……お願い、離し……」
「離しませんよ?」
僕は魔力を送り続けた。目の前のお嬢様らしき人は見るからに顔色が悪く、涙目でモジモジしておられる。
……離しませんよ?
「ちょっと! もう限界ですわ! 分かりました、分かりましたからひとまず離して下さいまし!」
「離しませんよ?」
「あ……あの……お、お願い……」
「離しませんよ?」
「あ……嫌……あ、あの……」
「何か、先に言う事がありませんか?」
「え? あ……あの……その……御免なさい……」
「何に?」
「え? えっと……店を荒らして……」
「他には?」
「もう限界……お願い……」
「離しませんよ?」
「えっと……利用しないよう各所に圧力をかけて……御免なさい」
「他には?」
「え? ……えっと……あの……も、もう……」
「そこにうちの従業員がいるんですけど、何故あの様な事に?」
「あの、ごごめ、御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい早く早くお願いもうトイレに行かせてダメですわもうダメですわお願いしますお願いしますもうしませんからもう二度とこんな事しませんから御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい!!!」
「離しませんよ?」
「嫌……あ……」
うーん、凄い雰囲気になってるな。引っ張り過ぎて余計な恨みになるのも困るし……仕方ない。少し甘いかもだけど、今日の所はここまでにしておいてあげよう。
「さて、では一緒にトイレに向かいますか。初回利用者はこちらに案内させて頂いております」
「あぁああぁあああぁぁぁああ!!!」
お嬢様はスイートルームのドアをものすごい勢いであけると、とんでもないスピードで飛び込んでいった。
やれやれ、少しはコリてくれましたかね。