第137話 いち友人として、主人として
まずクラリスさんは今もコーラルカーンにいるらしい。当面戻るのは無理だと書かれている。
彼女の本名はクラリス・ラスウェル。ラスウェル家は国がより良くなるよう昔から尽力してきた大きな家で、王国との繋がりも発言力も持つ良識派の貴族として周りの支持も厚かったそうだ。しかしながら今代で跡取りはクラリスさんしか産まれず、彼女はやがてその家の全てを引き継ぐ存在となる。そうは言っても今はまだ家のアレコレは両親が主だって行われているみたいで、前に聞いた話だと幼い頃は良く友達とヤンチャもしていたみたいなんだけどね。
だがここ最近その両親の体調が優れず、良く色々な行事やイベントを懸命に代わりにこなしてきていたクラリスさんだったが、遂に父母共に謎の病に伏してしまい、向こうで身動きが取らなくなったらしい。
特に、一部の貴族の間では時折こういった病が流行る事があるらしく、心配している旨が綴られていた。どうも最近、アストレア家という貴族がそれと似たような過程を経た上で、家族揃って行方不明になっているのだとか。
それは心配になるよね。
病状も一向に良くならず、遂にクラリスさんはある考えに辿り着いてしまう。誰かが疎ましいラスウェル家を滅ぼそうと画策しているのでは……と。
そう考え始めていた中での両親の悪化は不安を増長し、そんな中貴族内部では謎のリークによる大混乱が。もう……追いつかないと。気持ちも状況も、どうして良いのか分からないといった、精神的な不安が後半に綴られていた。
正直、クラリスさんはかなり芯の強い人だ。ある程度の問題は自ら発生させて自ら解決する力を持つ、性格的にはバリバリの貴族だろう。最近は特にそれが大人の女性として良い意味で変わってきていた中だったので、この手紙を書いている弱気なクラリスさんは……。
今どれ程の不安の中にいるかは察するに余りあると言える。放って置く事は出来ない。
つまり僕自身としてもここでジッとしている訳にもいかず、レミリアの主人としてもこの件は聞き逃せない内容を含んでいる。
動かない……理由が見当たらない。
「レミリア、お待たせ」
「ご、ご主人様……」
「詳しい話はまた後でする。だから端的に今後の事だけ伝えるね」
「はい、如何致しましょう」
「まず今日、このまま帰りにギルドに依頼だけ出して帰宅する、護衛の依頼だ」
「護衛の依頼……ですか?」
「そう、二点な」
「二点?」
「家と……僕らと」
「……?」
「全員で行くのはリスクしかないからね」
「あの……行くというのは?」
店のお客様の健康には真摯に寄り添ってきたつもりだ。関わっていた人たちの健康状態は僕が少し店を閉め、ここを離れた程度ではどうこうならないだろう。
そうは言っても少し無責任だけど……これを無視しては一生後悔すると思う。動くしかない。
そうと決まればジッとしていても始まらない。
それに……動くなら早い方がいい。
「明日、コーラルカーンに向けて発とうと思う」