第129話 ウイングラビット
「キュゥ!」
「分かったから、逃がさないから……こらっ」
「キュゥ!」
「ちょっ……」
「ご主人様、何かあり……?」
「あ、レミリア。この子元気になったんだけどさ……訳あってうちで面倒見る事にしたんだけど……」
「良いんですか!?」
しっぽを振りながら足早に近寄ってくるレミリアは、その勢いのまま僕に絡みつくウィングラビットを引き剥がし、自身の胸元に抱き寄せた。
「うわぁ……元気になったんですね!」
「キュゥ!」
嬉しそうにスリスリと顔を擦り付けるウィングラビット、それを喜びながら満面の笑みで撫で回すレミリア。うーん、どっちも可愛いな。……じゃなくて。
「やれやれ、ひとまずなんだけど。今日連れて帰って、暫く様子を見て。これからの事はそれから考えようと考えている」
「……家族が、増える」
「うわっ!? ビックリした……いつからいたんだよカミラ……」
「……今しがた」
レミリアに気を取られていたらいつの間にか背後にカミラが。この子の気配の薄さはかなりのものだ。普段そこに頼っている分、こういう事をされると異常に驚くよね。勘弁して欲しい。
「……この子、家族?」
「うーん、まだ決定では……」
「キュキュゥ……」
「ご、ご主人様、あの……お願いします……」
うぅ、レミリアとウィングラビットがタッグを組んで、耳をしな垂れながらウルウルしてくる……どっちも可愛いな。くっ、これではもう解除して逃すのは……。
「……オス? メス?」
「え、性別はないんじゃないかな、そいつ魔物だし」
「……危険は?」
「ないね、そこは100%ない」
「……なら、ミール」
「みーる? ……まさか」
「……この子の、名前」
くっ、名前がついてしまった……。もう無理だな。困ったなー魔物か。ギルドにテイムした事を申請しないとなぁ。
「可愛い名前ですね! なんでミールちゃんなんですか?」
「……耳が、伸びる」
ウィングラビットの耳を優しくつまみ、軽く引っ張ってみせるカミラ。成る程ね。
「略してミールか、悪くないんじゃないかな」
「良いですね! 本当だミールちゃん耳が伸びますね!」
もう完全に二人ともミールにメロメロだ。まずは取り敢えず……。
「ミールは魔物だからさ、討伐されないようにテイムが完了している印をつけないと危ない」
「テイム?」
「えっと……僕の管理下にあるって事」
「成る程、印は何か特別な物ですか?」
「一応正式な物はあるけど、まずはパッと見で分かればなんでもいいんだけど……」
「……なら、これ」
カミラがそっとスィートルーム用のピンク色のタオルハンカチを取り出して、おもむろにミールの首に巻きつけた。バンダナみたいだけど色が合ってて可愛い、成る程ね。
「よし、それで今は大丈夫だから、今日登録してしまおうか。それまでは念のため、誰かが抱っこしててあげてね。せめて移動中くらいは」
「任せて下さい!」
「キュゥ!」
この子の、言葉も理解してるみたいだな……。やれやれ、まさかこんな形で家族が増えるとは。
分からないものだね本当に。