第120話 踏み込みの度合い
まずは毒の状態を完全に把握した上で、同じ物を探知する。範囲は拡げられないので、円を描く様にゆっくりと……見つけた。少し遠いが……これは地下か?
探知してみたはいいが、あまり深く関わるべきではないかもしれない。見極めが必要だ。ひとまず様子を見つつその場所へと向かう。
辿り着いたのは一見普通の民家にしか見えない家と家の間。そこには不自然な路地があり、恐らくこの先に地下へと続く何かがあるのだろう。
入るべきではないな。
ここに来るまでは普通の道だったから特に隠れる素振りも見せず来たが、立ち止まらずにその場を素通りする。下手をすればその動作だけで目をつけられる可能性すらある。人も流れているので今は大丈夫だと思うが、これ以上はやめておこう。
この下には、かなりの量の色々な毒が保管されている。今日僕が触れたのはその片鱗に過ぎない。
関わるべきではない。
この道の人種にはこの道のルールがあり、それが僕の家族に直接危害を加えたのなら話は別だが、今回のそれは逆恨みに近い。
そして、この毒をどうにかする事は容易だ。だが……明らかに不自然だ。それにここのこの程度の毒をどうこうしたところで、この手の類いの輩は街からいなくなったりしないだろう。
つまり、藪蛇を招くだけだ。
いつか奴隷商人が言っていた独自のルートというのはこういう所なのかもしれないな。あの程度の食事処の二流店主が入手出来るんだ。
一応チェックだけしておくに留めておこう。
いつか何かの役に立つかもしれない。
探ってみないと分からないものだ、こんな身近な所にこんな場所があっただなんて考えもしなかった。
ひとまず今日の目標は達した。
ここまでにしよう。
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「おっ、戻ったか。やれやれテメーの気紛れのせいでうちは大助かりよ! どうしてくれんだよ!」
「えぇ……僕にどうしろと……」
「取り敢えず飯を食って貰おう。話はそれからだ」
「あ、はい」
「おかえりないませ、ご主人様!」
「……既に、満腹」
「先に食べちゃったよ?」
「あー悪い悪い。僕もすぐ頂くよ」
ダギル亭に戻るとみんなが出迎えてくれ、店はそろそろ閉店の準備へと移ろうとしていた。僕の食事がテーブルに運ばれたのを機に入り口は閉められ、今日の営業はおしまいに。
「さて、話を聞かせて貰おうか」
そしてダギルさんに詰められてしまった。まぁ……こうなるよね、覚悟はしていたよ。それに、みんなともちゃんと話せてなかったけど、やっぱり僕といる以上、こういった話は付いて回るだろう。流石にそろそろ……レミリア、カミラ、プラムにも説明は必要だ。
「さっきも言いましたが、他言は無用です。ダギルさんにはプラムを預けていて、信用もしている。僕の家族の延長線みたいなものだと考えてます」
「お、おぅ……そりゃ……まぁそうかよ」
「なので、少しだけ事情を説明させて貰いますが、お願いがあります」
「何だ? 他言ならしねーぞ?」
「いえ、質問は無しでお願いします」
「……分かった、納得させろよ?」
「ぜ、善処します。それにみんなにも聞いて欲しいんだ」
「クラリスさんの時もそうでしたよね?」
「そうだね、あれと同じ話になるかな」
「……レミリアの、治療」
「レミリアさんを治した不思議な力が関係してるんだよね?」
「みんな薄々は勘付いてたよね、黙っててゴメン。危険な事に巻き込みたくなかったんだ。でもやっぱり見て見ぬ振りは出来ないし、きっとまた何かあると思うから……聞いて貰ってもいいかな?」
「勿論です! 私も気になってました!」
「だね!」
「……説明、不足」
ダギルさんの件に関わらず、やっぱりそろそろこの話は必要だと考えていた。でも……なかなかタイミングがね。皮肉な機会だけど、順序が逆になっちゃっただけだから。
クラリスさんとライバックさんに伝えたのと、同じくらいの説明はしておこう。
必要以上は伝えなくてもいいだろうからね。