第119話 静かな怒り
「すみませんが、みんなを預かって貰えませんか?」
「え? ご主人様はどちらへ?」
「ちょっと野暮用がね」
「……まぁ聞くなってこったろうよ。オメーらを心配しての事だ。察してやんな」
「……分かりました。ではお手伝いさせて頂きます!」
「そりゃ助かるぜ! よろしく頼む!」
「はい!」
「……味見は、任せて」
「そうだな、今日は味見を頼む!」
「!? ……最高の一日の、予感」
レミリアは少し納得していないが、割り切ってくれたみたいだ。カミラは既に良い顔をしている、本気で状況を楽しんでるな……器用な奴め。
「おい、無理はするなよ?」
「ありがとうございます、無理はしませんよ」
これでも元軍人で、今は能力もあり、力は練磨している。自惚れるつもりは無いが、簡単にはやられまい。ましてや、こんな毒なんかで店を追い込もうだなんて……許せない。
二度と同じ事はさせない。プラムを巻き込んだ事を後悔させてやる。
僕は一人で店を後にした。
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「さて、ここでいいか」
店から少し離れ、感覚を更に研ぎ澄ます。追跡する毒は把握した。後は同じ型を探すだけだ。
北から順番に、時計回りに感覚を向ける。まだ一気に全方位とはいかない。あれは【探知】と呼ばれる特殊な力で、適正がなければ上手く行使出来ない。
僕はその適正はなかった。普通の探知は出来ない。けど今なら……僕の支配する世界では、そのルールも例外だ。対象が毒であるなら、それを探知する事も可能。そして今回探知対象は解析済み。
逃しはしない。
「見つけたぞ、この型だ。……瓶に入れてるな」
やはり予想通り、それ程離れていなかった。これならすぐにでも向かえる。さて、どんな奴が現れるのか。
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「ここか、……馬鹿な奴だ」
例の場所に辿り着いてみれば、そこにはご飯屋さんが存在していた。やや寂れていて、世間にウケいる雰囲気はないが、普通にご飯屋さんの風貌をしている。
同業者で、狙いはやはりダギルさんの店か。先日のアレで目立った事で、妬みを買った訳か。善行もなかなか難しいね。
更に細かく店の中をサーチする。……あった。瓶だけじゃない。これは……粉か。更に強力な同じ型の毒素。これを水に溶いて野菜にかけた訳か。店内では今まさにその瓶を持ち上げながら動かしている雰囲気がある。人は探知出来ないが、毒の動きならお手の物。
窓から様子を見てみると……、あまり悪く言いたくはないが、悪人の風貌だ。顔が怖いだけならダギルさんも負けていないが、こいつは瓶を手に持ちながら終始ニヤケている。そんな悪人ヅラだ。
恐らく、まもなく起こるダギル亭のバイオテロを楽しみにしているのだろうが……運が無かったな。そこは僕のテリトリー、手出しはさせない。
さて、同じ事をこの店の店主にしてやっても構わないが、それだと無関係な客に申し訳ない。悪いのはあの店主のみ。であれば……やる事は単純だ。
今日から一ヶ月、彼には死なない程度にこの自身の用意した毒に感染してもらう。因果応報、自身の犯した罪を身をもって知るがいいさ。絶対に許さない。
そして……問題はこの粉の販売元か。こっちは探知してなかったから改めての探知となるが……さて。こちらには悪意は無かった訳だし、直接僕の家族に手を出した訳ではない。
どこまで続けるかな、この毒の追跡。
キリが無い気もするよね。