第11話 閑古鳥は急に鳴く
「……ご主人様、今日はお客様が少ないですね」
「確かに、何かあったのかな?」
何気ない日常を過ごしていた僕らだったけど、今日は何だか様子がおかしい。どうも客入りが悪いのだけれど、悪いなんてレベルの話ではない気がする。
「うーん、ここにいても分からないですよね。様子を見て来ましょうか?」
「いや、今暫くはここで様子を見ていよう。気のせいかもしれないしね」
「そうですね!」
けれど結局待てども待てどもお客様は来られない。これはもう珍しい日を通り越して何かあったとしか思えない。
「やれやれ、本当に全然こなかったね」
「あぅー、お仕事出来ませんでした」
その日は終ぞ閉店までお客様が来る事はなかった。けれど、来店のない日はその日だけに留まらなかった。次の日も、また次の日も。
これはいよいよどうしたものかと頭を抱え始めていた時、一人の常連さんが来店してくれた。
「キャァァァレミリアちゃんを独占できるぅぅぅこれ差し入れのパンよ! 一緒に食べましょう! 今から!」
「今から!?」
受け付けでレミリアと雑談していたので必然的に隣にいる僕なんて最初からいなかったかの如く展開される状況。
「何なら医院長さんもご一緒にいかが?」
うん、何とか忘れられてはいなかったみたい。どーせ暇だと決めつけて、思いきって診察室で三人でパンを囲んでおやつタイムを取る事にした。
「ささ、レミリアちゃん! 好きなの選んで良いのよ?」
「え……あの……」
「うん? どれが良いのかしら?」
「この……フワフワで中にあんこが入ってるやつが……」
「はい、どうぞ!」
「良いんですか!?」
「それを選ぶと思ったから、それは三つ買ってます!」
何という抜かりのなさ。この人はすっかりレミリアの虜だなぁ。レミリアも小さいけれど、この人も大概小柄だ。でも決定的な違いが一点、マーベルさんは巨乳だ。幼い顔立ちなので余計に目立つそれに視線が行くのを禁じ得ない。不可抗力だよね。
「それにしても貴方達、厄介なのに目をつけられたわよねー」
「え?」
パンをむしゃむしゃと食べながら、日常会話の中に聞き逃し難い内容を含んでくるマーベルさん。この人はギルドの受付嬢をしているので結構事情通だったりする。
「なんか街の貴族の間でもここの利用者がいたとかでね、別のプライドの塊みたいな連中がワタクシたちの知らない間に下々がーみたいな。何かそれでお前ら行くなーみたいな。面倒くさいわよねー」
……そんな事になっていたとは。面倒くさいというか、死活問題ですよね。うーん、困った。