第10話 いらっしゃいませ②
「いらっしゃいませ、順番にお待ちいただければ順次お声かけさせて頂きます!」
初めて店に来たのはもう一ヶ月くらい前の事かしら。仕事でやってるギルドの受け付けはとっくに終わってたのに会議だなんだってなかなか帰れなくて……疲れ果てて家に帰って。お気に入りのソファーにダイブしてはお酒を飲んで眠る日々。
身体はダルくて重たくて飲んでも食べてもしっかり出ていかないからお腹は張るわ胃はもたれるわで何も良い事がなくてイライラしていた。たまにギルドの冒険者の変わってるコがチョコやクッキーをくれるけど、楽しみなんてそれくらいで、後は専らストレスワーク。
そんなある日あの子に出会ったの。
「レミリアちゃーん! うぇーん会いたかったよー、キャー可愛い可愛い可愛い!!」
「まっ、ちょっと! マーベルさん!?」
とある医院の看板娘、ちっちゃくてフワフワしてるのにしっかりさんで働き者で、疲れた果てた私の数少ない癒しの一つ。ここに通ってはレミリアちゃんに抱きついてスリスリしてギューってしていい子いい子して、医院長さんとパッと握手して出す物を出して帰宅する。
最近ではここに寄り道するのが日常のルーティンになりつつあるから、本当にわからないものだ。ここは料金も属性魔法による治療医院に比べると遥かに安くて、回数を通うには財布に優しい仕様にも関わらず、最高に可愛い看板娘ちゃんまでいてくてる。まさに致せり尽くせりね。身体にも優しくて財布にも優しい素敵な医院。
最近なんてもう何の為に通ってるのかわからなくなってきて、レミリアちゃんがパンが好きって聞いたからパン屋でパンを買ってから医院に向かって、時には服を、時には小物を買ってはレミリアちゃんに届ける日々。
「ねぇねぇレミリアちゃん、今日はこんなの見つけたの!」
「え? ……うわぁー! 素敵な帽子……」
「いいでしょ? はい、プレゼント! 大事に使ってね?」
「そ、そんな……こんな綺麗な帽子、私なんかが貰っても勿体ないですよ……」
「そんな事ないない! ちょっと被ってみせて?」
「え……こう、ですか?」
超可愛い、鼻血で倒れるかと思ったけどなんとか踏み止まって理性を保つ。何この子、天使なのかしら。
「さいっっこうよ! 超似合ってるわ!」
グッと、親指を立ててナイスなアピールをすると、ホッとしたようにハニカミながらモジモジして、エヘヘと笑ってくれるレミリアちゃん。
あーもう、可愛いくて仕方ない。最近は身体の調子も良いからお仕事も頑張れちゃうし……こりゃがっつり働くしかないわね! もっともっとしっかり働いて、また何か素敵なプレゼント探して見つけて、レミリアちゃんに持ってこなきゃ!
「あ、医院長、握手ね」
「……最早ついでですね」