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ユメの旅  作者: はるくマン
8/14

8月5日(2)

「さ、ユメちゃん、そんなしんみりした顔してないであそぼうぜ!今ババ抜きやってたんだけど…一緒にやる?」


タツキ君にそう声をかけられ、私はこくりと頷く。

改めて溜まり場の中を見渡すと、そこは林に囲まれた小さな空間で真ん中には木で作られた大きなテーブルが一つと、同じく木で作られた古びた椅子がいくつか並べられていた。

そのテーブルの上には、薄汚れたトランプが散らばっている。


「さ、改めてやり直そーぜ!ゲンキ、シャッフルよろしくー」


「俺かよ!ったく…」


「また私が勝っちゃうわよ!」


「今度は勝たせないぜ、ユウナ!」


「受けて立つわ!」


初めて出来た"仲間"との何気ない時間。

そんな時間が、私にとってはとても幸せだった。


ーーーーーーーー


「ちぇー、また負けかよ!ユウナ強すぎるぜ!」


「本当だぜ…一回しか勝てなかった…」


「ふふん!私に勝とうなんて100万年早いわよ!…でも、ユメちゃんもなかなか強かったわね!」


「そ、そうかな…」


「なんだかんだ毎回二番目に上がってたもんな…なかなかやるぜ…」


「ユメちゃん、トランプ強いんだね…」


ミッちゃんはニコリと優しげな笑顔を浮かべこちらを向く。

その笑顔に癒され、私もニコリと微笑み返した。


「ってか気づいたらもう夕方じゃん!あんま暗くなる前に今日はもう解散しようぜ!」


「そうね、ユメちゃんもいることだし…」


「なぁユメちゃん、明日暇?」


タツキ君からの突然の問いかけに、私は戸惑いながらこくりと頷く。


「うん…特に予定はないけど…」


「そっか…それじゃあ明日はみんなで(おく)(もり)探検に行こうぜ!」


「おー、それいいね!みんな明日予定は?」


「私はないけど…ミっちゃんは?」


「私も…暇だよ」


「よっしゃ!それじゃあ決まりだな!明日の朝7時、またここに集合!いいな、ユメちゃん!」


「う、うん、分かった」


「よーし!それじゃあ明日は奥ノ森探検だ!!今日は解散!!」


ゲンキ君の号令で、私たちはそれぞれ家へと帰ることになった。

明日は奥ノ森という所を探検するらしい。

想像するだけで、なんだかとてもワクワクしてニヤニヤが止まらなかった。


ーーーーーーーー


「すっかり暗くなっちゃったな…」


私がマサ兄の家に着いたころには、すでに周りは薄暗くなっていた。マサ兄の家の戸を開くと、そこにはハル姉の姿があった。


「あー!ユメちゃん帰ってきた!よかったー、帰り遅いから心配したんだよ!?変な奴に襲われたんじゃないかって…」


ハル姉は私の顔を見るやいなや安堵の表情を浮かべ、勢いよく抱きついてくる。


「あはは…ごめんなさい、心配かけて…」


「ま、こんな田舎じゃ変な奴もそういないか…。さ、ご飯できてるから早速食べよ!ね!」


ハル姉に手を引かれ、私はリビングへと向かった。


ーーーーーーーー


「…それで、今日はここら辺の子達に会えた?」


「えぇ、一緒にトランプまでしてくれて…」


「そっか、馴染めたみたいで良かったよ!ここら辺の子はみんな優しくて面白いからきっといい友達になってくれるよ」


マサ兄はこちらを向いてニコリと微笑む。


「ま、そのかわりみんな癖が強いから扱いはなかなか大変かもね…唯一フツーなのはヨシキくらい?」


「ヨシキくんって、確か私と同い年の…」


「そうそう!彼は高校生だけあって結構しっかりしてるのよね…今日会えた?」


「ううん、今日はいなかったみたい」


「そっか、ま、何かあったら彼に相談してみなね!頭も良くて、面倒見もいい子だから」


「うん、分かった」


「ユメちゃん、明日はどこか行くのかい?」


タケヒコおじさんは並べられたご飯を食べながら優しい笑顔でそう問いかけてきた。


「明日は…村の子たちと奥ノ森ってところに探検に行く予定です」


「へー、奥ノ森か…あそこ、自然がいっぱいでいいとこなんだよね。僕も良く散歩にいくし」


「あそこは草木が多いし、急な斜面とかもあるから気をつけるんだよ」


「はい」


「それじゃあご馳走様!」


ーーーーーーーー


「ふぅ…」


私は湯船に浸かり大きくため息をつく。


(仲間…か…初めてそんなこと言われたな…。ここの子たちはみんな私を仲間はずれにしないであっさり受け入れてくれた…こんな私なんかを…)


私は湯船に半分ほど顔をつけブクブクと泡を立てる。


(明日はみんなと奥ノ森探検…私眠れるかな…)


明日の探検に心躍らせ、私はひとりニヤニヤと笑みを浮かべた。


ーーーーーーーー


「さ、明日に備えて早く寝ないと…」


ベッドを整え眠る準備をしている時だった。

コンコン、とドアから音が聞こえてきた。


「ユメちゃん、入ってもいい?」


ドアの向こうから聞こえてきたのはマサ兄の声だった。


「うん、平気だよ!」


私の返答を聞き、ゆっくりとドアが開く。


「遅くにごめんね、少し話そうかなと思って」


「ううん、全然大丈夫だよ」


「ありがと、それじゃあ失礼して…」


そう言うと、マサ兄は部屋に入り私の横のベッドに腰掛けた。

それから少し沈黙が続き、先に口を開いたのはマサ兄だった。


「どう?こっちの生活。向こうに比べて…」


「…すごく楽しいよ!自然も多いし空気もご飯も水も全部美味しいし…何より、すごく温もりに溢れてる…。向こうじゃ感じられなかったいろんな温もりに…」


「…そっか。今度、母さんが君の両親に電話してみるって言ってたよ。ああ見えて母さん、結構怖いからビシッと言ってくれる筈だよ」


「そっか…ごめんね、色々迷惑かけて…」


「そんな、迷惑だなんて…むしろ君がここに来てくれて良かったよ。今年はいい夏色休みになりそうだな…」


窓の向こう…暗い夜空に無数に光る星々を見上げマサ兄はそう呟く。


「そうだね…私も、最高の夏休みになりそう」


同じように星を見上げ、私もそう呟いた。


ーーーーーーーー


「それじゃあおやすみ。明日、楽しんでおいでよ」


「うん、おやすみ。楽しんでくるね!」


マサ兄が部屋を出ていくと、部屋には静寂が訪れる。


「星、綺麗だな…。向こうに戻ったら、きっともう見られないな…」


その時何故か、私の両目から涙が二つ零れ落ちた。


続く。




投稿は不定期で行います。

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