表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユメの旅  作者: はるくマン
7/14

8月5日(1)

「綺麗だなぁ…」


私がみている景色。

それは、風の丘からの景色だった。

畑や田んぼ、その向こうの海は夕日に照らされオレンジ色に染まっている。

そんな美しい景色を眺めている時、「チリーン」とどこか儚げな鈴の音が静かに響いた。


「鈴…?」


私は音のした方へ振り返る。

その瞬間だった。

世界が明るい光に包まれ始める。

鈴の音の正体は分からないまま、私の視界は白い光に包まれた。


ーーーーーーーー


「んん…」


重い瞼を開くと、そこはマサ兄の家のベッドの上だった。


「あれ…さっきまでのは夢か…」


体を起こし、大きく伸びをする。

ふぅ、とため息をついた時一階からユキコおばさんの声が聞こえてきた。


「ユキちゃーん!朝ごはんよー!」


その声は家中に反響し、寝起きの頭にジーンと響いた。


「はーい」


私はベッドから降り、階段を下った。


ーーーーーーーー


「ユキちゃんおはよー…」


一階に降りリビングを見渡すと、そこにはユキコおばさんとハル姉の姿があった。


「あれ?マサ兄は?」


「マサトは今日大学の集まりがあって出かけてるのよ」


「ちなみに私もこれから友達とお出かけよー」


「そーなんだ…今日はみんなお出かけなんだね」


「うん。あ、そーだ!せっかくならユキちゃん一人でお散歩でもしてくれば?地元の子たちとお友達になれるかもしれないし」


「友達…かぁ…」


「そーしなよ!奥原村には女の子も住んでるし!」


「…わかった!今日は一人でぶらぶらしてみるね!」


「うんうん、それがいい!」


ーーーーーーーー


朝ごはんを食べ終えた私は、青いノースリーブのワンピースに着替えて家を出た。


(友達かぁ…私なんかに出来るのかな…)


そんなことを考えながら田んぼの間を通り抜けていく。

20分ほど歩いて行くと、海望大橋の下に着いた。

大きくそびえ立つ橋は太陽に照らされ、白く輝いている。

そんな橋を見つめつつ、私は歩を進めた。


ーーーーーーーー


それから5分ほど歩くと、奥原村へと到着した。

相変わらず人影は無く、あるのは古い木造の家と畑ばかり。

そんな田舎道を、私はゆっくりと歩いた。

改めて周囲を見渡すと、東京との景色の違いにまるで別の世界へ迷い込んでしまったかのように思えた。

私は、立ち止まり大きく深呼吸した。


「はぁー、空気が美味しいなぁ…」


目を閉じ、大きく息を吐いた時だった。


「…声?」


耳をすますと、どこからか人の声が聞こえてくるのが分かった。

私は恐る恐る、声のする方へと向かった。

声のする方にあったのは、屋根が崩れ、ところどころ蜘蛛の巣の張ったいわゆる"廃墟"と呼ばれるものだった。

どうやら声は、この裏の雑木林の奥から聞こえるようだ。

私は廃墟を横目に、雑木林の中を覗き込んだ。

すると、そこには大きな丸い空間が広がっていた。

その空間の中には、私と同じくらいの人が3人、年下に見える人が1人、集まって何かをしているところだった。

よく見ると、その中の1人は昨日会ったゲンキ君のようだ。


(何してるんだろう…)


私は気づかれないように少し背伸びをして集まっている人たちの手元を覗き込む。

…どうやら、みんなでババ抜きをしているようだ。

私は背の高い木に身を隠しながら、少しの間様子を伺った。

みんなとても楽しそうだ。

気兼ねなく冗談を言い合い、全員がとても満たされた笑顔を浮かべている。

そんな光景を見ていると、どこか虚しさと羨ましさを感じた。


(私もあんな友達、欲しかったなぁ…)


そんなどうしようもないことを考え、大きくため息をついた時だった。


「うん?そこに誰かいるのか?」


先ほどまでの賑やかな声は静まり、ゲンキの声と同時に全員の視線がこちらに向く。


(やば…ため息聞こえちゃったかな…?)


「何?どうしたの元気」


「いやーさ、今その木の裏から声が何か聞こえた気がしてさ」


「なんだなんだ?熊でもいんのか?」


「え!?熊!?怖いよぉ…」


「こらタツキ!ミっちゃんが怖がってるじゃない!」


「わりぃわりぃ」


「よし、ちょっと俺が見てくる。みんな待っててくれ」


「食われんなよー、ゲンキ」


「分かってるよ!」


元気は足下に落ちていた木の枝を拾い、こちらに向かってくる。


(なんかいろいろ勘違いされてるし…とりあえず逃げなきゃ…)


私は四つん這いになり、木の間をゆっくりと、慎重に進んだ。

後ろを振り返ると、先ほどまで私がいた場所を元気が覗き込んでいるところだった。


「ありゃ?何もいないぞ…?」


(危なかった…危うく変態と間違われる所だったわ…)


私はその場をそそくさと後にした。


ーーーーーーーー


私は雑木林を抜け、奥原村の道へと戻った。

服についた落ち葉や泥を払い、私はまたため息をついた。


(はぁ、結局話しかけられなかったな…)


せっかく近くまで行ったのに。

自分の勇気の無さに嫌気がさしてくる。

照りつける太陽を睨みつけ、私は昨日ハル姉と行った河原へと向かった。


ーーーーーーーー


照りつける陽射しの中、涼やかな風が私の体を包み込む。

私は川岸の大きな木の根元に座り、ぼーっと川を眺めていた。


「やっぱり、私に友達なんて…作れるわけないよ」


大きなため息を漏らし、私は自分の腕に顔を埋める。

何故だろう。

私の両目から、太陽に照らされキラリと光る雫がこぼれ落ちた。


「…はぁ」


私はもう一度ため息をつき、溢れる雫を拭った。

その時だった。


「あれ、ユメちゃん?こんな所で何してんの?」


どこかで聞き覚えのある声。

その声の方へ顔を向けると、そこには相変わらず薄汚れたノースリーブを着たゲンキ君の姿があった。


「あ、ゲンキ君…。ちょ、ちょっと考え事しててさ…」


「ふーん、そっか」


そう言うと、何を思ったのかゲンキ君は私の横へ座り込んだ。

それから少しの間、静寂が辺りを包み込む。

少し気まずくなり、何か話しかけようとそう考えていた時、ゲンキ君が先に口を開いた。


「なぁ、ユメちゃんって波風さん家の親戚なんだろ?」


波風…今お世話になっている、マサ兄やハル姉達の名字だ。


「そ、そうだよ」


「ふーん…言われてみればマサ兄君に似てる気もするな…」


「わ、私が?マサ兄に?」


「うん。ハル姉とは似ても似つかないな」


そう言うと、ゲンキ君は大きな笑い声を上げた。

その笑い声は静寂な森に響き渡り、次第にせせらぎと蝉の声にかき消された。


「そ、そうかな…?」


「そうそう。あの人はだいぶ変わってるからなー。あの家族の一員とは思えないぜ…」


「そんな事言うと怒られるよ?」


「い、今のは秘密にしてくれよ!怒ると面倒だし…」


「フフフッ」


何気ない会話だった。

だけど、わたしには何故か特別な、とても楽しい時間に思えた。


「あ、そうだ!ユメちゃんに俺の友達を紹介するよ!ついでに秘密基地もね!」


「え?友達?」


「あぁ!この奥原村には俺以外にも何人か子供がいるからな!


そういうと、ゲンキ君は私の手を優しく掴み歩き始めた。


「あ、あの…」


「大丈夫大丈夫!みんな優しいやつだからさ!すぐに仲良くなれるって!」


にっこりと笑みを浮かべるゲンキ君の顔を見て、私は何も言えずただゲンキ君の後について行った。


ーーーーーーーー


ゲンキ君に連れられてきたのは先ほどの廃墟の裏の空間だった。


「おっ、ゲンキ帰ってきたぜ。食われてなかったんだな」


「良かった!遅かったから心配したのよ!…それで、その子…だれ?」


「おう、紹介するぜ!この子はマサ兄のいとこのユメちゃん!16歳の高校一年生らしい!」


ゲンキ君の紹介で皆の視線がこちらへ向く。

少し緊張しながらも、頭を下げた。


「よ、よろしく…お願いします」


「へー、マサ兄いとこいたんだな…。それに高校生か!そんじゃあヨシキくんと同い年だな!」


そう声をあげたのは茶髪の、やんちゃそうな少年だった。


「そーだぜ!…あっ、みんなを紹介してなかったな。まず、こいつはタツキ!おれと同い年で、同じクラス!見た目通りやんちゃな奴だ」


「よろしくー、ユメちゃん」


タツキ君はおでこに手を当てると、こちらに向かって手を振る。

…少しチャラそうな人だ。


「そんで、こっちのポニーテールがユウナ。顔はかわいいけど気が強いのが難点!」


「余計なお世話よ!…ユメちゃん、よろしくね。分からないことがあったらなんでも聞いて!」


そう言うと、ユウナちゃんはニコッと優しい笑顔を浮かべた。


「う、うん。ありがとう」


あまりの笑顔の眩しさに、なんだかこちらが照れてしまう。


「そんで、このツインテールの子がミっちゃん!唯一の年下で、俺らの1つ下!…ってことは、ユメちゃんの3つ下だな!少し恥ずかしがりやで気が弱いとこもあるけど、優しくしてやってくれよな!」


「よ、よ、よろしく…お願い…します…」


ミっちゃんと呼ばれるその子は、ユウナちゃんの後ろから顔を覗かせか細い声でそう呟いた。


「うん、よろしく…」


私はその子を驚かせないよう、優しい声で挨拶をした。


「そんで…今いないんだけど、もう一人ユメちゃんと同い年のヨシキくんってのがいる!落ち着いた感じの人だけど、結構頼りになるお兄さんって感じだぜ!」


「へぇ、そうなの…」


「よし、これで自己紹介は終わりだな!ユメちゃんは夏休みの間だけこっちにいるみたいだから、みんな仲良くしてやってくれよな!」


そう言うと、ゲンキ君はこちらに向けニコッと笑顔を向けた。


「よ、よろしく…お願いします」


私は緊張しながらそう言い、頭を下げる。

すると、タツキ君が声を上げた。


「そんな堅苦しい挨拶は無しだぜ!なんてったって、今日から俺達は仲間なんだからな!」


「仲間…?」


その言葉を聞いた時、何故か胸の奥に暖かさを感じ目に涙が溜まるのを感じた。


「そうよ!私達は今日から仲間!もっとラフに行きましょう!」


そう笑顔を浮かべるユウナちゃんの影で、ミッちゃんはコクリと小さく首を縦に振る。


「そういうこと!俺たち今日から仲間なんだから、困ったことがあったら何でも言ってくれよな!」


その時、目に溜まっていた涙が一気に零れ落ちた。

我慢しようと思ったけれど、涙はどんどんと溢れ出してくる。


「ど、どーしたの?ユメちゃん…大丈夫?」


ユウナちゃんはすぐに私のそばに駆け寄ってきて、背中をさすり慰めてくれる。


「おいおい、ゲンキになんか嫌なことされた?なんなら俺が懲らしめてやるぜ?」


「おいおい、俺は何もしてないよ…変なこと言わないでくれ」


「ご、ごめんね…。私、人から仲間なんて言われたことなくって…。嬉しくて、つい涙が…」


私は腕で涙を拭い顔を上げる。

すると、みんなはとても優しい笑顔を浮かべこちらを見ていた。


「そっか…でも大丈夫!これからはもう一人じゃない!俺たちがついてるからな!」


「そーだぜ、ユメちゃんをいじめる奴はこの俺タツキ様が返り討ちにしてやるよ!」


「うんうん、私達を頼ってね!」


その言葉達は、私の心に優しく、暖かく染み込んだ。


続く。



久しぶりの投稿です!

これからは定期的に、ドリームワールドの間で書いていきます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ