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ユメの旅  作者: はるくマン
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8月3日(2)

心地いい風と、ひぐらしの鳴き声で目が覚めた。

虚ろな目で横を見ると、マサ兄の寝顔が見えた。

どうやら二人とも眠ってしまったようだ。

体を起こし前方を見ると、周囲の森や遠くの海はまるで沈んでゆく夕陽に燃やされてしまったかのように紅く照らされていた。

その景色は美しいだけではなく、どこか恐怖すら感じるほど雄大で神秘的なものだった。

真正面に見える大きな夕陽は、このまま目の前の景色だけではなく世界の全てを焼き尽くしてしまうのではないかと思えるほど紅く、眩しかった。

眠っているマサ兄を起こそうと顔を近づけた時、何故だか胸がキュッ、と締められる感覚がした。

それから、鼓動が早くなり、顔が熱くなるのを感じた。


「なんだろう…この気持ち…」


こんな気持ちを持ったことは今までなかった。

一体私はマサ兄にどんな気持ちを持っているのだろう。

そんなことを考えていると、マサ兄の瞼が開いた。


「あ、ユメちゃん…先に起きてたんだね…」


マサ兄ははぁー、と大きなあくびをして起き上がった。

私は、その時何故かマサ兄への気持ちを悟られたくないと思い、顔を背けてしまった。


「ユメちゃん?どうかしたの?」


「ううん、何でもない!それより綺麗だね、夕陽」


「そーだね…いつ見ても綺麗だよ、ここの夕陽は…」


さわやかな風が私達を包み込む。


「よし、そろそろ帰らないとお母さんが心配しちゃうから行こう!」


「うん、そーだね」


私とマサ兄はその場で立ち上がり、森に向かって歩き出した。

その時だった。

チリンチリン…と優しい鈴の音が聞こえた。

とっさに後ろを振り返ると、先ほどまで私達がいた場所に、白いワンピースに麦わら帽子を被った少女が立っていた。

その少女の真白な肌は夕陽に照らされ、美しく輝いていた。


「どうしたのユメちゃん?」


「マサ兄、女の子が…」


そう言って振り向くと、そこにはもう誰もいなかった。


「女の子って?誰もいないけど…」


「あれ…見間違いだったのかな…」


「きっとまだ寝ぼけてるんだよ、さ、暗くなる前に帰ろ!」


「…そうだね」


私とマサ兄は森を下った。


ーーーーーーーー


「ただいまー」


結局、家に着いたのは当たりが暗くなった8時ごろだった。


「遅かったわねぇ、どこ行ってたの?」


「風の丘だよ、ユメちゃんを案内してたら寝ちゃって…」


「なーんだ、そういうことか!てっきりマサトがユメちゃんをどこかに連れ込んで…」


「母さん、僕がそんなことすると思う?」


「うーん、できないか、マサトだもんね」


「そーだよ、僕だもん」


「ふふふ」


「あ、ユメちゃん笑ったな?」


「ごめんごめん、面白くて…」


「もー…」


「さ、イチャイチャしてるとこ悪いけど、晩御飯出来てるわよ!」


「イチャイチャしてないよ!」


ーーーーーーーー


「ごちそーさまー!」


私はご飯を食べ、お風呂に入った。

お風呂に入り、先ほどのことを思い出した。

マサ兄に顔を近づけた時に覚えたあの感情はなんなのだろう。

胸がキュッとして、鼓動が早くなって、顔が熱くなって…。


「まさかこれが…いやいや、それはないそれはない…」


まさか私がマサ兄にそんな感情を持っているはずが無い。だっていとこだもん。

だって、だって…

私は一度そのことを忘れようと湯船に顔を沈めた。


「ぶはぁ…やっぱりそーなのかな…」


その時の私の顔は、真っ赤に染まっていた。


ーーーーーーーー


お風呂から上がり、熱を冷まそうとベランダに出ると、そこにはマサ兄が立っていた。


「あ、ユメちゃん…」


「マサ兄…」


私はマサ兄の横に立った。


「そうだ、明日僕の姉貴…ハルコ姉ちゃんが帰ってくるんだ。久しぶりに休みを取ったから遊びに来るんだってさ」


「ハルコお姉ちゃんが?」


「うん」


「ハルコお姉ちゃんって今何してるの?」


「今は東京で小説家をしてるらしいよ、しかも結構人気だとか。あんなだらけてる人がそんなことになるとは、人生わからないもんだよねー」


私はハルコお姉ちゃんの顔を必死に思い出そうとしたが、どうしても思い出すことはできなかった。

それから一呼吸置いて、私はマサ兄のほうを向いた。


「…ねぇ、マサ兄」


「ん?どうしたの?」


「実は…実は私マサ兄のことが…」


「僕のことが?」


「…やっぱり何でもない!私そろそろ寝るね、おやすみ!」


「えっ?あ、あぁ、おやすみ…。どうしたんだろ、ユメちゃん…」


ーーーーーーーー


私は布団に潜り、大きな緊張を抱いていた。

まだ早い…伝えるにはまだ早いよ…。

もっと…もっと時間が経ってからにしよう。

そんなことを考えている間に、私は寝てしまった。


ーーーーーーーー


ブルルルル…という車のエンジン音で目が覚めた。

ベランダから下を見下ろすと、白い車が停まっていた。


「あ、ハルコお姉ちゃんかな…」


私は少し小走りで1階に降りた。


ーーーーーーーー


「いやー、ただいまただいまー。マサト、あんたでかくなったわねぇ」


車のそばに立っている茶髪の二つ結びの女性。

彼女こそ、マサ兄の姉…ハルコお姉ちゃんだ。

確か年齢は22歳くらいだった気がする。


「あー!ユメちゃん!本当にこっち来てたんだー!」


ハルコお姉ちゃんはこちらに近づいてくる。

そして、私の手をぎゅっと握りしめた。


「お久しぶりです、ハルコお姉ちゃん!」


「あらー、こっちもこっちで大きくなっちゃって…でもやっぱりかわいいわね、ユメちゃんは!」


「そ、そんな…」


「照れてる顔もかわいいー!!」


「ハル姉、ユメちゃん困ってるよ」


「あ、ごめんごめん、久しぶりの実家でテンション上がっちゃって、ははは…」


私は、この人のテンションについていけるのだろうかと少し不安になった。


「さ、ハルコも帰ってきたことだし朝ごはんにしましょ!」


ーーーーーーーー


「ハルコ、東京での暮らしはどうだい?」


「うーん、まぁぼちぼちかなぁ」


「ハル姉、今どんな小説かいてんの?」


「今はねぇ、ちょっぴり寂しい恋愛小説」


「へぇー、恋愛から程遠い人がねぇ…」


「あんたもでしょ」


「いてて、耳引っ張るなって!」


「あははは、元気いいなぁ、二人とも」


ーーーーーーーー


「ユメちゃん、今日は私がここらを案内してあげるよ」


「本当ですか?ありがとうございます!」


「あー、敬語なんてなしなし!親戚なんだから!それと、呼び方もハル姉とかでいいよ」


「わ、分かった、よろしくね、ハル姉」


「うんうん、それでよし!それじゃ、探検スタートね!!」


「ハル姉、ユメちゃんを変なとこに連れてかないでね」


「当たり前じゃない、心配ご無用!」


「ハル姉だから心配なんだよ…」


「それどういうことよ!」


「いてて、耳引っ張るなって!!」


こうして、私とハル姉の探検が始まったのだった。





投稿は不定期で行います。

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