第八十八話 憂いをはらって
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、夕夏ちゃん視点で、ちょっとだけ悶々?
それでは、どうぞ!
驚いた。本当に、驚いた。目を覚ましてすぐ、目の前に美しい顔があったら、誰でも驚くはずだ。しかも、その人は私を想っている相手で、ことあるごとに甘く蕩けるような表情を浮かべる人なのだ。顔に熱が集まるのは仕方ないことだと思う。
最初は逃げようとしたものの、倒れたことや、魔力過多症のことを聞いて、私は覚悟せざるを得ない状況に追い込まれた。
(悪夢を見ないためには、ジークさんやハミルさんと添い寝しなきゃならないって……別の意味で寝不足になりそうなんだけれど!?)
それでも、悪夢がつらいのは確かで、ジークさんが側に居てくれた今、悪夢を見なかったことも事実だ。
私は悩んだ。散々、悩んだ。そうして出した答えが、くーちゃんとあーちゃんの姿であれば大丈夫というものだった。
(着ぐるみの中の人も、サンタクロースの実態も、気にしなければ夢を見られる日本人だもんねっ!)
そんな無理矢理な納得をして、そのための約束事を早口でジークさんに告げれば、どうにかうなずいてもらえた。
「随分、心配かけちゃったのかな?」
書類と机を片付けて、ひとまず執務室に戻るジークさんを見送った私は、わざわざ仕事をここにまで持ってきたという事実に、そんな結論に至る。
(でも、何でだろう? この前までは、ジークさんもハミルさんも目を合わせられない状態だったのに……今は、何だかホッとしてる?)
猫姿のジークさんやハミルさんを抱き締めて眠っていたという事実が、私を悶絶させる原因となっていたのに、今はそれが恥ずかしいと思う以上に安堵していた。
(何でだろう?)
何となく、あの女の人を目撃したことが原因のような気はしたものの、確信が持てないし、どう繋がるのかも分からない。
「ユーカお嬢様、起きていらっしゃいますか?」
部屋の中でぼんやりと考えごとをしていると、ふいにノックとともにララの声が届く。
「起きてるよ。どうぞ」
入室を促せば、ララはワゴンを押しながら入ってくる。
「ユーカお嬢様。お腹は空いておりませんか?」
「えっ? あっ……ちょっと、空いてるかも」
今の時間は、すでに夜と呼べる時間。朝ご飯を食べてから、その後に倒れた私は、それまでずっと何も食べていない状態だ。
「こちら、ゴッツお勧めのドラゴン肉のステーキと、ドラゴンのテールスープ、フルーツサラダに、ナッツ入り丸パンです」
テーブルの上に手際良く食事を並べて説明するララに、私は素直に美味しそうという感想を抱く。
「ユーカお嬢様。体調が大丈夫なようでしたら、明日、レティシア様との面会を入れようかとのことでしたが、いかがなさいますか?」
「うん、延ばし延ばしにしちゃったから、明日こそは体調万全で会うよ」
「では、そのように伝えておきます」
そうして、ララは部屋に待機して……なぜか、いつも以上にジーっと私を見つめる。
「どうかした? ララ?」
さすがに食べにくいと思って問いかけるけれど、ララはただ一言、『お気になさらずに』とだけ告げる。そして、そう告げた後も、ジーっと私を観察する。
(うーん? もしかして、ララにも心配をかけたせいで、過保護になってる、とか?)
それはないだろうと思いながらも、試しに頭に手をやれば、ララが慌て出す。
「どうしました? ユーカお嬢様? 頭が痛いのですか!?」
「えっ、いや、ちょっと痒かっただけだよ」
(……どうしよう。予想が当たっちゃったよ……)
あからさまにホッとした様子のララを見て、私は素直に食事を摂ることにする。
(ふわぁっ、ドラゴンのステーキって、どんなのかと思ってたけれど……肉汁がすごいっ、美味しいっ)
噛み締める度に溢れる肉汁。その濃厚な味わいに、私は目を見開く。こんなに美味しいお肉は初めてだ。
ドラゴンのテールスープは、普通のテールスープとは違って、随分とスパイシーで、ピリ辛でもあったけれど、独特な味わいのあるテールととても良く合った。
(多分、ドラゴンのお肉自体が味わいのあるものなんだね)
口の中をさっぱりとさせる効果があったフルーツサラダと、テールスープに合わせると止まらなくなりそうになった丸パン。それらも一緒に食べながら、心配をかけたララにどう対処しようかと考える。
(……そもそも、ララはどこまで知ってるんだろう?)
ララのことだから、私が倒れた原因くらいは聞いていそうだ。けれど、ちょっと前にジークさんに解決策を話したとはいえ、その内容が内容だから、まだそちらは知らないのかもしれない。
いつもより少し多めだった食事を平らげた私は、ララが全てを片付け始める前に、話をすることにする。
「ララ」
「はい。どうなさいましたか? ユーカお嬢様?」
食器を全てワゴンに乗せたタイミングで話しかけると、ララは勢い良く振り返る。
(うん、完全に、平常心じゃないよね)
「ちょっと話をしたいから、そこに座ってくれる?」
そう言って、目の前の椅子を示せば、ララは少し思案した後に素直に椅子へと腰掛ける。
「ララは、私が魔力過多症だったってことは聞いてる?」
「はい。一応は。そして、その解決法が困難であることも聞いております」
そんなララの言い方に、やはり、まだ解決策を示したことまでは知らないのだと感じる。
「私は、ユーカお嬢様の意思が大切だとは思っておりますが、それでも、できることなら、ご主人様達と添い寝をしていただきたいと思っております。もちろん、縛り上げる際は、協力させていただきますので」
(……うん、きっと、鞭で縛るんだよね……じゃなくて、ちゃんと話さないと)
「それなんだけれど、実は、もうジークさんと話をしてるの」
「承知いたしました。今夜は、ご主人様を縛り上げて、ユーカお嬢様の元へ送り届けましょう」
「いや、縛らなくて良いからね!?」
大真面目な顔でとんでもないことを言い出すララに、私は少し慌てる。けれど、言葉が足りなかったことも事実で、私はゆっくり、くーちゃんとあーちゃんの姿で受け入れることにしたという話をする。
「それは、本当ですか?」
「うん」
どこか食いぎみに尋ねるララに応えれば、ララはほんのわずかに微笑みを浮かべる。
「承知いたしました。それでは、今夜はくーちゃんをお届けいたしますね」
「うん。ありがとう」
私の心を優先して、『ご主人様』ではなく『くーちゃん』と言い切ったララに感謝しつつ、倒れる前に見た白猫と黒猫のことを思い出す。
「あの猫達なら、この城で飼うこととなりました。名前は、黒猫がタマで、白猫がシロなのだそうです。もちろん、別の名前をつけることも可能ですが、どうなさいますか?」
「うーん、じゃあ、そのまま、タマとシロで」
「承知いたしました」
そうして、ある程度の憂いを解消した私は、元の態度に戻ったと思われるララを見送る。
後からやってきたくーちゃんを相手に、私はしばらく悶々としたけれど、しばらくにらめっこ状態になったけれどっ、『くーちゃんは猫、くーちゃんは猫』と繰り返し暗示をかけたことで、ようやく安眠できるようになったのだった。
次回は、やっと、やっと、レティシアが出てくる予定です。
それに関連して、番外編の方も更新できるよう頑張りますね。
それでは、また!




