第八十六話 倒れた原因(ジークフリート視点)
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倒れた原因は、寝不足?
心労?
といったところですが、ここにきて、まさかの原因発覚っ、となりそうです。
それでは、どうぞ!
ハミルトンと、建国祭には、ぜひともユーカを呼びたいが、今の状況で呼べるだろうかといった話をした。しかし、結局結論が出ないまま、仕事のために帰っていくハミルトンを見送り、しばらく経った頃だった。
「ご主人様っ!」
血相を変えたララが、ノックもなしに執務室へ飛び込んできたのは。
「何があった?」
ただごとではないと、すぐさま考えた俺は、とにかく冷静でいようと思いながら問いかける。
「ユーカお嬢様がっ、倒れましたっ!」
「何だと!?」
ただ、その冷静さは、ララの一言で吹き飛ぶ。
ユーカが倒れるなど、予想外であり、俺は、何かの病気だろうかと真っ青になる。
「医師はっ!」
「すでに呼んでおります。到着までに、しばし時間がかかるようですが……」
「すぐに、ユーカの元へ向かうっ!」
仕事を放り投げて、俺は執務室を出る。これが、城の中でなければ、自由に転移もできるのだが、城には転移防止の結界が張られているため、それは不可能だ。そのため、俺は魔族としての身体能力を活かした全力疾走で、一分もかけずにユーカの部屋まで辿り着く。
「ユーカっ!」
扉を開け放って入室すれば、そこにはメアリーとリリがユーカの看病のために控えていた。
「ユーカ、ユーカっ」
「落ち着いてください。ご主人様。ユーカお嬢様に障りますよ」
「くっ、分かった」
メアリーに止められて初めて、俺は冷静さを完全に失っていたことを思い知り、一つ、深呼吸をする。
「とりあえず、ベッドに運んではおきましたが、意識を失った理由まではまだ……」
いつも元気なリリが、意気消沈した様子でユーカを心配そうに見つめる。状況を詳しく聞けば、眠れていない様子のユーカのために、本物の猫を連れてきて話をしている最中に、唐突に意識を失ったらしい。
「眠れて、ない?」
「はい。その……ユーカお嬢様は何もおっしゃってはくださいませんでしたが、最近の様子を見る限り、恐らくはそうではないかと」
そう報告するメアリーも、詳しくは分かっていないらしく、随分と歯切れが悪い。
「なぜ、報告しなかった?」
「申し訳ございません」
問い詰めても謝罪を返すメアリーに、俺はつい、怒りそうになって思い留まる。
「……そうか、俺達のせいか……」
ピクリと反応したのは、リリ一人。ただ、その反応だけで十分だった。恐らくは、俺達がユーカを思い悩ませたせいで、ユーカは眠れなくなってしまったのだろう。
「すまない。ユーカ」
報告義務に関しては、もう一度確認する必要はあるものの、今回はあまり責められない。報告したところで、きっとメアリー達以上の対処が俺達にできたとは思えない。
ひんやりとしたユーカの手を包み込むように握った俺は、どうか、重大な病気ではないようにと祈る。
「ご主人様。医師がお越しになりましたっ」
「入れ」
ララの言葉に、すぐさま医師の入室を許す。代々、魔王に仕えてきた家系の魔族の医師は、魔族には珍しく老人の姿で、すぐにユーカの診察を開始する。専属侍女達にもいくつかの質問をしながら記録を取っていく医師の姿に焦れていると、ほどなくして、医師は俺へと向き直る。
「ユーカは、何かの病気なのかっ?」
不安を押し殺して尋ねれば、医師は首を横に振る。
「いいえ。症状としては、ただの寝不足ですな」
「……寝不足、か……」
どうやら、大した病気ではないと分かり、安堵はするものの、それでもユーカの体調が優れないのは確かで、詳しく尋ねてみる。
「そうですな……寝不足の原因は、はっきり申し上げますと、彼女の魔力が、彼女の器ギリギリの量まであるからでしょうな」
「魔力が、原因なのか?」
いまいちよく分からない説明に、俺は続きを促す。
「えぇ、原因といえば、原因でしょうな。これは、魔力過多症ですな。器ギリギリの魔力は、起きている間は良いのですが、眠っている間、魔力の持ち主に不快感を与え、悪夢を見させることが多いのです。恐らくは、そのせいで寝不足に陥ったものと思われますな」
ユーカが悪夢のせいで眠れなかったのだということを聞かされて、俺は自分の不甲斐なさに怒りが沸く。
「ユーカが苦しんでいる時に、俺は……」
そう嘆いていると、医師はまだ続きがあるとばかりに話し出す。
「この寝不足を解消するには、魔力の相性の良い者に添い寝してもらうことが一番なのですが……一般的に、片翼は相手の魔族と相性が良いと言われております。ですので、何か、添い寝ができなくなった理由などがおありなのではないですかな?」
医師の問いかけに、俺はピタリと動きを止める。
「ほっほっ、添い寝さえできれば、このお嬢さんも回復することでしょうな。それでは、他に質問がないようでしたら、失礼いたします」
朗らかに笑い、立ち去っていく医師を、俺は引き留めることなどできなかった。
「ユーカと、添い寝をしなくなったことが原因……だと?」
確かに、添い寝はしていた。猫の姿で。
「ただでさえ避けられているのに、添い寝……いや、俺は歓迎だが、しかし……」
猫の姿での添い寝は、それはそれは天国と地獄であったが、できるというのであれば、大歓迎だ。大義名分もできたのだから、ユーカを説得することもできる、かもしれない。
「……嫌われるのを覚悟で……?」
ただ、ユーカがうなずいてくれるかどうかは全く分からない。むしろ、うなずかない可能性の方が高い。そうなると、俺達は嫌われるということになる。
「ぐっ……俺は、どうすれば……」
ユーカのためには、添い寝をしないという考えは全くないものの、それで嫌われるのはどうしようもなく怖かった。専属侍女達が居る前で、考えを口に出してしまっていることにも気づかないまま、俺はユーカの手を握り、考え込むのだった。
添い寝をしていないことが悪夢の原因だった!?
と、いうことは、普通の猫じゃあ意味ないじゃないかっ!
なんて状況ですが、さぁ、ジークは苦悩して、どんな結論を出すのか。
それでは、また!




