第六十話 喧嘩勃発?(ララ視点)
ブックマークや評価、感想をありがとうございます。
今回も日常パート。
特にフラグらしいフラグは……一ヶ所それっぽいのがあるくらいの話ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、どうぞ!
ユーカお嬢様は、昨日、ご主人様と何やら進展があったらしい。そして、今日は、ハミルトン様との進展もあったらしい。
そんな、『らしい』と表現できていた頃の自分は、幸せだったに違いない。なぜなら……。
「ユーカは愛らしく、俺に抱き着いてくれたんだ」
「へー、でも、僕はしっかりと会話ができて、お菓子を作ってもらう約束もできたんだよ」
「ユーカは、何度も、力強く俺を抱き締めてくれた」
「僕だって、笑顔を向けてもらえたもんね」
今、目の前でくだらない言い合いをしているのは、ご主人様とハミルトン様だ。二人は、ユーカお嬢様と何があったのかを自慢し合い、お互いにお互いを羨んでいる様子だったが、何をどう間違えたのか、今は喧嘩に発展しかけていた。
「ハミル、ここは戦いで決着をつけるべきなのではないだろうか?」
「うん、奇遇だね。僕も、それを考えてたところだよ」
二人の威圧感に、情けないことに私は一歩も動けず、声も上げられない状態にまでなってしまう。
残念なことに、この二人を止められる可能性があるリドル様やナリク様はこの場に居ない。リドル様は片翼休暇中で、ナリク様は北西に位置する国、ヘルジオン魔国について調べているそうだ。つまりは、もう誰にもこの二人を止めることなどできないということだ。
(せめて、訓練場の破壊はしてほしくないところですが……)
この雰囲気では、それも望めなさそうだ。せっかく整えてある訓練場を破壊してしまえば、毎日、魔力コントロールの訓練をしているユーカお嬢様がどう思うか。それを考えるだけで、頭が痛かった。
じーっと睨み合って、殺気をたぎらせる二人。そして、それが最高潮に達して、二人が転移で訓練場へ向かおうとしたその瞬間だった。
コンコンコン。
それは、控え目なノック。ただ、確実に二人の威圧感が漏れ出して、普通の魔族は動けもしないであろうという状況の中でのそれは、恐ろしく異常だった。
しかし、それ以上におかしなことは、そのノック音を聞いた瞬間、今まで息をするのもつらいほどだった威圧感やら殺気やらが、全て霧散してしまったことだ。こんな事態は、あり得ない。
何が起こっているのか分からないまま、とにかく大きな息を吐くと、ご主人様が戸惑った様子で入室許可を出していた。こんなご主人様はとてもめずらしい。
しかし、入ってきた人物を見て、私はその反応は無理もないことだと理解する。
「(し、失礼します)」
緊張気味に入ってきたのは、ご主人様とハミルトン様の両翼であり、敬愛する私の二人目のご主人様。ユーカお嬢様だった。
「どうした? 何かあったか?」
初めて執務室を訪れたユーカお嬢様は、少しだけ物珍しげに周りを見た直後、心配そうに声をかけてきたご主人様へと向き直……りかけて、さっと視線を逸らす。その顔が赤いことから、別に嫌っているわけではないとは分かるのだが、視線を逸らされたご主人様はそこそこショックらしく、その瞳には悲しみが映る。
「(えっと、メアリーに案内してもらってたんですけれど、いきなりメアリーが動かなくなっちゃって……それで、助けを呼ぼうと思って)」
ユーカお嬢様からの言葉を通訳すれば、ご主人様もハミルトン様も気まずい顔になる。十中八九、メアリーが動けなくなった原因は、ご主人様とハミルトン様の威圧感と殺気だ。
(ハミルトン様はどうでも良いですが、ご主人様のためにフォローは必要ですね)
そう思って、私はユーカお嬢様へと話しかける。
「ユーカお嬢様、それは問題ございません。今はメアリーも動けるようになっているはずです」
「(ほんと?)」
「はい」
あの威圧感と殺気の中を動けるユーカお嬢様が不思議ではあったものの、そう伝えると安心したようにその表情が柔らかなものとなる。
「ところで、ユーカお嬢様? こちらの部屋には何か他に用があったのでは?」
そして、原因を追及される前に、私はそう話題を逸らす。それというのも、ユーカお嬢様は何やら可愛くラッピングされたピンクの袋を二つほど持っていたため、もしかしたら二人への贈り物かもしれないと思ったからだ。
すると、ユーカお嬢様はビクッと肩を震わせて、チラリとご主人様やハミルトン様の様子を窺う。ちなみに、二人はユーカお嬢様から視線を逸らさないままじーっと見つめていたので、視線が合った瞬間、ユーカお嬢様は慌てていた。
「(えっと、その……お菓子、作ったから……二人にあげたいって思って……)」
モジモジと告げるユーカお嬢様は、女の私から見ても可愛い。これを通訳などしたくはなかったものの、ご主人様のためだと言い聞かせて、必要事項だけを抜き出して告げる。
「『手作りのお菓子をお二人に差し上げたかった』だそうです」
そう告げた瞬間、二人は静かに歓喜する。片翼からの贈り物というのは、二人が今までの片翼から一度も受け取れなかったものだ。それを、二度ももたらしてくれるユーカお嬢様に、二人は完全に蕩けた顔をする。
「ありがとう。ユーカ」
「ありがとう。大切に食べるね」
そして、その顔を直視してしまったユーカお嬢様は、みるみるうちに真っ赤になって、慌て出す。
「ユーカお嬢様、お二人にそれを差し上げるのでしょう?」
「(あうぅ……う、ん)」
ギクシャクとした不思議な動きで、ユーカお嬢様はどうにかお菓子が入っているであろう袋を手渡す。そして、その様子に、ご主人様もハミルトン様も一瞬、『手が出せなくてつらいっ』と表情に出して、慌てて表情を取り繕う。
そうして、男二人の葛藤に気づくことなく退散していったユーカお嬢様だったが、片翼からの贈り物の効果はすごかった。
「ユーカが、俺に、贈り物を……」
「ユーカ、ユーカ、えへへ」
喧嘩をしかけていたことなど忘れた二人は、締まらない顔で二時間ほど、その贈り物を眺め続けるのだった。
もう少ししたら、次の章に移れるかなぁと思いつつ、この章は目一杯、日常パートを書こうと思います。
それでは、また!




