第六話 監禁、されてます?
ブックマークありがとうございます。
二十四時頃に更新予定でしたが、ちょっと眠いので一時間早めに更新してます。
(や、やっちゃった……)
目が覚めて、一番に思ったのはそれだった。
(私を助けてくれた恩人なのに、フラッシュバック起こして、過呼吸になるなんて……)
日が昇りかけている窓の外に視線を向けて、私は昨日起こったことを後悔する。
昨日、突如として入ってきた翡翠色の髪をした美青年を前にして、私は、その眉間にシワを寄せた表情と、どこからか漏れ出てくる威圧感でフラッシュバックを引き起こしたのだ。
元々、大人の男性が怒る姿がフラッシュバックの引き金になることは分かっていた。だから、フラッシュバックの原因はその美青年にもあるのだけれど、内心では失礼なことをしてしまったという思いでいっぱいだった。
(お礼をする前に、謝らなきゃいけなくなっちゃったなぁ)
もしかしなくとも、あの美青年は私に用事があったのだろう。フラッシュバックを起こした後のことは、記憶が曖昧だけれど、あの美青年が狼狽えている様子だけは覚えている。
(でも、分かったこともある)
全体的に情けない結果にはなったものの、一つだけ、確実なことがあった。
(絶対私、歓迎されてない)
きっと、何か事情があって私をここに置かざるを得ないのだろうけれど、その事情さえなければ追い出したいに違いない。それほど、昨日見た美青年の形相は凄まじいものだった。それこそ、鬼を見ているかのようで…………。
(あれ? そういえば、頭に角みたいなものが見えた気が……?)
気のせい、かもしれない。見間違い、かもしれない。けれど、獣人という種族が居ることを知ったばかりの私は、もし角があれば、あの人は本当に鬼なのだろうかと考えてしまう。
(鬼……食べられたりしないよね?)
……ないとは思う。いや、ないと思いたい。あの美青年がペロリと舌舐めずりする様子を思い浮かべて、少しだけ背筋がゾクリとするのを感じた。あまりにも、その妄想に違和感がなかったのだ。
(ないっ。ないからっ。もし、私を食べようとしてるなら、きっとあんな形相になったりしないからっ)
ブンブンブンと首を振ってその妄想を振り払うと、ホァーッとため息を吐く。
(これから、どうしよう)
少なくとも、メアリーさん以外の人から私は警戒されている。いや、もしかしたら、メアリーさんも表情には出していないだけで警戒しているのかもしれないけれど、そこら辺は分からないから、とりあえず警戒されていないことにする。
(少なくとも、ここに居る人達は何らかの理由で、私に滞在してもらおうとしてるんだよね)
その肝心の理由は、あの『かたよく』だとか、『訪れ』だとかが関係してきそうだったけれど、今となってはその内容を聞く度胸もなくなっている。どうにも、知らぬが仏のような気がするのだ。
(だって、滞在してもらおうとするからには、普通、理由を話すものだし……)
まさか、『片翼』という言葉がこの世界では広く常識的に知られているものだとは思いもせず、私はウンウン唸る。
(話さなかったってことは、私は聞かない方が良いってことだよね)
そう結論づける頃には、外はもうすっかり明るくなっていた。
(とりあえず、窓、開けよう。空気の流れを良くしたいし)
だから、その行動は本当に何気ないものだった。毎日家のことをこなしていたからこそ、自動的に空気の入れ換えという考えの下、窓へと歩み寄る。
「(よいしょっ……ん?)」
窓の造りは特に複雑なものではなく、簡単に開くかに思えたものの、いざ引っ張ってみると動かない。いや、五センチくらいは動いたものの、それ以上は何かが引っ掛かっているかのようで、全くビクともしない。
(建て付けが悪いのかな?)
こんなに豪華な部屋でも欠点はあったのかと考えながら、私はどうしても開かない窓を前に諦める。
(あまり開いてはいないけど、少しは違うよね?)
たったの五センチでも、空気の流れがあるのは良いことだ。そして、今までじっくり見ていなかった窓の外をじっと眺めてみる。
(高さがあるなぁ。三階くらいかな? あっ、庭らしい場所も見えるっ。……随分と広いみたいだけれど)
庭と思われる場所は、どう考えても普通の一般家庭にあるような規模の庭ではなかった。むしろ、これは庭園だ。
(もしかして、今、私が居る建物って結構大きいのかな?)
その庭の広さに対抗するのであれば、きっとこの建物もそれ相応に大きいことだろう。
(……部屋から出はしないけれど、ちょっと見るくらいなら良いかな?)
自分が大きな建物の中に居るのではないかと考えると、どうにもそれを確認したくなってしまう。この部屋にある窓は一つだけだ。一つの窓からだけでは、その全容を確認することなどできない。
(すぐに戻れば良いよね?)
別に、部屋から逃げ出すわけではない。ただ、ちょっと扉を開けてみて、近くの窓から景色を眺めてみたいだけなのだ。それさえ終われば、すぐにこの部屋に戻るつもりだった。
メアリーさんやララさん、リリさん達も出入りしていた扉の前にそっと立った私は、そのノブに手をかけてとりあえず引いてみる。
(? 押す方だったっけ?)
引いても開かない扉を前に、私は記憶違いかと思いながら今度は押してみる。
(……開かない?)
さすがにスライド式の扉ではなかったことくらい覚えていた私は、すぐにこれがどういうことか思い当たる。
(鍵をかけられて、閉じ込められた?)
そうなってくると、あの中途半端に開かない窓にも意味があるような気がしてくる。
(もしかして、私、監禁されてる?)
そうして、私はようやく答えを出す。理由は不明だが、私は確かに監禁されてしまったのだと。
ようやく気づいた主人公。
これからどうなることやらですが、案外のんびり進みそうです。
それでは、また!