第五十話 謝罪のために(ハミルトン視点)
ブックマークや評価、感想をありがとうございます。
今回でようやく五十話目です。(閑話を含めると、五十二話になりますが……そこは省略でっ)
記念すべき五十話目が珍しいハミルトン視点となりましたが、ハミルトンのちょっとした苦悩を読んでいただければと思います。
それでは、どうぞ!
ユーカには、随分と酷なことをしてしまった。その自覚があるからこそ、僕は、謝罪のための準備をしっかり行うことにする。
「まずは、お菓子、だね」
先日、ジークフリートが声の件を謝罪したことは、僕に勇気を与えるきっかけとなった。僕自身、少しずつユーカが今までの片翼達と違うことを認識していたし、鎖は解かなければならないと思っていたものの、そのきっかけが掴めないままだったため、渡りに船だった。
(でも、僕も受け入れてもらえるかは、分からないんだよな……)
むしろ、受け入れてもらえないと考える方が自然だ。いくら理由があったとしても、鎖で繋ぐなどという行為が許されるわけがない。
「……怖い、な……」
拒絶は怖い。それは、魔王と定められた時の恐怖などよりも、よほど堪えた。
しかし、謝罪すると決めたからには、動かなければならない。決めたことを先伸ばしにするのは、魔王としても、男としてもいただけない。震えそうになる膝を叱咤して、僕は馬車に乗り込み、城下町へと向かった。
ヴァイラン魔国の城下町は、白亜の町で、甘い香りが至るところから立ち込めていた。ヴァイラン魔国で最も有名な名産品は、お菓子だ。繊細な造りのお菓子を多く売り出すそこでは、綺麗な砂糖菓子や飴細工、可愛い焼き菓子など、様々なお菓子がある。
「ユーカは、どんなお菓子が好きかな?」
リドルに聞く限り、ユーカはお菓子が好きらしい。どれが好きなのかまではよく分からないものの、お茶会を毎回楽しみにしていたようだった。
「警備ももう大丈夫だろうし、お茶会も再開させてあげたいな」
愚妹であるアマーリエの襲来によって中止され続けてきたお茶会を、そろそろ再開しても良いだろうと考え、思考が逸れてしまっていたことに気づく。
「まずは、選ばなきゃね」
そうして、ユーカが今まで美味しそうに食べたというお菓子を思い浮かべながら、慎重に店を見て回る。大体の有名店は全て頭に入っているため、後は何を買うか決めるだけだ。
いくつかの店に顔を出して、店頭に並んでいるお菓子を見ていく。貴族を招き入れるような有名店は、ほぼ確実に、庶民と貴族で店を分けて売っているため、長蛇の列に並ぶようなこともなく、次々と見ることができる。
「これ、可愛いな。ユーカみたい」
と、五軒目の店で見つけたのは、ウサギが描かれたアイシングクッキー。そこは、クッキー専門店で、内装も可愛らしく、いかにも女性向けの店だった。
よくよく見てみれば、それは小動物をそれぞれに描いたクッキーの盛り合わせで、猫の絵も描かれている。
「うん、これにしよう」
決して、このお菓子にした決定打は、描かれていた猫が、自分の変化した姿に似ていたからではない。ただ、ユーカなら可愛いと喜んでくれそうだと思ったからだ。
そうして、一つのプレゼントを決めた僕は、もう一つを受け取りに行く。こちらは、謝罪に行くことを決めた時点で手配しておいたのだ。
馬車に再び乗り込んで向かった先は、美しい花々を店頭に並べた花屋。普段なら、店の者が城に来るものだが、直前までユーカに気づかれたくない僕は、直接店に取りに来ていた。
「お待ちしておりました。どうぞ、中へ」
ガチガチに緊張した様子の売り子の女性に案内されて、僕は手早く花束を受け取る。受け取った花は、ユーカが気に入っていたクリスタルフラワーの花束だ。全ての属性を揃えたクリスタルフラワーの花言葉は、『全ての愛を君に贈る』だ。普段、魔族が片翼に告白する時に使う定番の花だった。
全ての準備を終えた僕は、馬車に揺られてマリノア城へと戻る。今頃、ユーカはジークフリートと魔力コントロールの練習をしていることだろう。今回は、この準備のために、ジークフリートに訓練を一人で見てもらうようにしていたのだ。
「ふぅ……そろそろ、だよね」
時間からすると、そろそろユーカの魔力が少なくなって、解散になる頃だ。その後は、覚悟を決めて謝罪しなければならない。
「きつい、なぁ」
こんなにきついことを、ジークフリートはこなしてみせたのかと思うと、もう尊敬しかできない。僕は、今まさに挫けそうだ。
「嫌われたく、ないよ」
もう、鎖で繋いだ時点で嫌われていたのかもしれないが、その時はまだ、最初から嫌われていると思い込んでいたからこそ、ここまで追い詰められることはなかった。今は、嫌われていないかもしれないという、わずかな可能性がある。それを思えば、僕の行動一つで嫌われるかもしれないという事実が、とっても恐ろしかった。
「ハミルトン様。ユーカお嬢様はお部屋に戻られましたよ」
心以外の準備は万端。心だけはどうしようもなかったものの、僕はそんなメアリーの報告に、無理矢理覚悟を決めて立ち上がる。
「分かった。それじゃあ、行ってくるね」
「……ご武運を」
そうして、僕は戦場に向かうような心持ちで、フラフラとユーカの元へ向かうのだった。
ハミルトン、ビクビクしながらも逝ってきます!
次回は、夕夏ちゃん視点で、ハミルトンの訪問の話になるかと思います。
それでは、また!




