第四十二話 報告(ジークフリート視点)
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今回は、話に出てきていただけの『リク』が登場します。
それでは、どうぞ!
「ユーカちゃんは、もうしばらくしたら図書室に向かわせるわ」
「む、分かった」
ユーカの部屋から執務室へと戻った俺は、リドルからそんな報告を受ける。さすがに、昨日の今日でお茶会をさせるわけにはいかなかったものの、城内であれば自由にさせても構わないだろうという見解の一致で、リドルにはユーカの希望を聞いてもらっていた。もし、何もなければ、リドルが城内の案内をするつもりだったらしいが、ユーカはよっぽど図書室に行きたかったらしく、リドルの問いかけに即答していたそうだ。
「まぁ、息抜きは必要だよね」
鎖をつけた張本人のハミルトンは、そう言いながらもやはり不安そうにしている。いつ自害に及ぶか分からない片翼と、寄り添うことすらできずにいたハミルトンの闇は深い。
「ところでジーク、ユーカちゃんの声なんだけれど……」
「あぁ、今は、魔力を初めて使った反動で何が起こるか分からないからな。魔力のコントロールが上手くいって、落ち着いたら戻す」
「そうっ、良かったわっ」
本来は子供の頃に発現する魔力。それを、大人のユーカが発現させて、しかもコントロールができないとなれば、無闇にユーカ自身へかけた魔法を解くことはできない。ただでさえ、アマーリエの魔法の発動に引きずられたユーカだ。どんな暴走を起こすか、予測ができなかった。
「ちゃんと事情の説明はするのよ?」
「……魔法を解くまでには、説明しておく」
魔力のコントロールができるようになれば、自身にかけられた魔法の解除の際、違和感を覚えるはずだ。それを何の説明もなしに行うことはできない。それは、分かってはいるものの、ようやくユーカと通訳越しでも会話できるようになった今、嫌われないかと不安が増す。
「できる限り早くなさい。でないと、ワタシ、ジークに鉄拳制裁をしなきゃならないから」
「分かっている。一週間以内に覚悟を決める」
リドルは武に秀でてはいないものの、その拳の威力は強い。一度げんこつでも食らえば、しばらくは悶絶して動けなくなるほどに。さすがにそれは勘弁してほしいため、期間を区切って宣言しておく。これで、俺自身の逃げ場はなくなったわけだ。
「それじゃあ、ワタシはユーカちゃんのところに――――」
リドルは言いかけて、扉の前に立った人物の気配に振り返る。そして、バンッと音を立てて、執務室の扉が開かれる。
「やぁやぁ諸君っ! 元気にしていたかいっ?」
そこには、銀の長髪をなびかせ、濃いピンクの瞳をした美しい男が、キラキラとしたエフェクトを背負って立っていた。
「……リク?」
呆然と呟くリドルは、久々に会った親友の一人、ナリク・シーカーの登場にパチパチと目をしばたたかせる。
「おやっ? これはこれはっ、リドではないかっ! 久方ぶりの再会だな」
大きく両手を広げて、芝居がかった動作をするナリクに、リドルは段々とその表情を苦いものに変えていく。
「ねぇ、何でまだ社交モードなのよ」
「あぁ、それは、前に執務室に他の者が居るのを知らずにリクが入ってきてな。その人物に、普段との落差を大層驚かれたからだ」
そう言いながら、俺はナリクに普段通りにして良いという許可を出す。すると、途端にキラキラとしたエフェクトは消え失せ、目の光も落ち着いたものに……というよりも、暗いものに変わる。そして、高らかな声は、低く暗い声へと変貌した。
「ん、分かった」
「いつ見ても、リクの変わり身はすごいよねぇ」
「本当に、そうね」
もはや似た姿の別人としか思えない変わり身に、ハミルトンもリドルも苦笑しかできていない。隠密部隊に属するナリクの変貌は、さすがに何度も見ていて慣れている俺ではあったが、それでも毎回毎回感心してしまうのだから、俺自身も似たような表情をしているのかもしれない。
「それで、どうだった?」
主語を省いた問いかけに、ナリクは暗い瞳をこちらに向けてうなずく。
「サクラ・ユーカ嬢の調査は、難航し、暗礁に乗り上げた」
そして、まさかの報告に俺達は絶句した。
「ちょっと待って? リクが、調べられなかったの? 嘘でしょ?」
「ジーク、リクは体調でも悪かったのかい?」
「いや、そんな報告は聞いていないが……?」
「体調は、悪くない。ユーカ嬢の痕跡はどこにも見当たらなかった。転移の跡さえ見つからない。本当に、唐突に現れたとしか思えない」
思わぬ報告に、俺達は混乱する。今まで、俺の片翼の環境調査はナリクが担ってきて、一度たりとも全くの情報なしなどという状況になることはなかった。大抵、どこに住んでいたのかや、その家庭環境、人間関係を調べ上げ、報告してくれていた。それが今回は全くの手がかりなしという結果。他国の情報ですら容易に取ってこれるナリクの失敗に、動揺を隠せない。
「ここまで情報がないと、異世界からの転移者ではないかとさえ思えてくる」
動揺する俺達に、自嘲しながら告げたナリク。ただ、それこそあり得ない話だった。
「それは、おとぎ話の、か?」
「確か、この世界とは異なる世界があって、そこからごく稀に転移してくる者がいるってやつ、だよね?」
「建国神話にもあったと思うわ。確か、初代魔王の片翼は、異世界からの転移者だったとか?」
まさか、ナリクがそんな荒唐無稽な話を持ってくるとは思っていなかったものの、そんな話が出るということは、よっぽど調査ができなかったのだろう。
「手がかりは、全くなしか?」
「あぁ、ない」
「今後調査をして、何か分かることがあると思えるか?」
「いいや。ここまで手応えがないのは初めてだ」
「……分かった。調査は一時中断だ」
「ジーク!?」
ナリクと問答をして結論を出すと、リドルが驚いたように声を上げたが、今回ばかりは仕方がない。ナリクがこう言うということは、調査をしても無駄なのだ。それよりは、ユーカから情報を得た方が早い。
「必要な情報は、ユーカから聞き出す。リクも協力してくれ」
「ん、分かった」
そうして、俺達は謎を残したまま、ユーカの事情に思いを巡らせるのだった。
もうそろそろ……多分、あと一話でこの章は終わりです。
それでは、また!




