閑話 分かち合うお茶会(リドル視点)
ブックマークや評価、感想をありがとうございます。
今回のお話は、アルファポリスの方でリクエストされたお話……になるのかな?(結構言われたリクエストから変えた自覚あり)
とりあえず、楽しく読んでもらえると嬉しいです。
ちなみに、このお話の時間軸に関する設定は、深く突っ込まないでもらえるとありがたいです。
それでは、どうぞ!
その日もワタシは、恒例となったユーカちゃんとのお茶会のために、マリノア城を訪れていた。
(今日は何を話そうかしら?)
最近は、お茶会があることが分かっているユーカちゃんは、ワタシが来ると出迎えてくれるようになっていた。扉をノックすると、返事を待たずして、扉の方が先に開く。
「(こんにちは、リド姉さん)」
目をキラキラ輝かせたユーカちゃんは、そう言って部屋に迎えてくれる。さすがにワタシも少しは唇が読めるようになってきたため、挨拶とワタシの名前の時くらいは分かるようになっていた。
「こんにちは。今日は随分とご機嫌ね」
ユーカちゃんの機嫌が良いのは良いことだ。すぐにでも無粋な鎖を外して、外に連れ出そうとすれば、その前に服をチョンチョンと引っ張られる感触がする。
「(――――――?)」
「……ララ、お願い」
「『リド姉さんは、心も乙女なの?』だそうです。ユーカお嬢様、随分直球ですね」
まだまだ文章を読み取れるほど慣れてはいないワタシは、すぐ近くで待機していたララに助けを求め、思いがけない言葉を聞くはめになる。その質問は、ここ三百年くらい聞くことがなかった質問だ。
「そうねぇ、その質問は久々だわ。答えを言うと、ワタシのこの、性格と姿、口調は全て片翼のためであって、心まで乙女ってわけじゃないわね」
「(――――――?)」
「『なら、もしかして甘いものが嫌いだったりする?』だそうです。ユーカお嬢様にいらぬ心配をさせるなど言語道断。滅んでください、リドル様」
「ちょっ、誤解よ誤解っ! 甘いものは元から大好物よっ。って、ちょっ、ララ? 何で鞭を構えてるわけっ!?」
「(――――)」
「……『そっか、良かった』だそうです。命拾いしましたね」
荒ぶるララが落ち着いて、ワタシは心から安堵のため息を漏らす。最近、リリとララのユーカちゃんへの忠誠心が強すぎて怖い。
「(――――――?)」
「……『それなら、ケーキを分け合って食べるのも平気?』だそうです。何を吹き込んだんですか? リドル様?」
可愛らしく上目遣いでコテンと首をかしげるユーカちゃんに癒されたのも束の間。ララから向けられた絶対零度の視線に、ワタシは思わずブルリと震える。
「人聞きの悪いことを言わないでちょうだいっ。何も吹き込んでないわよっ」
「……さようですか」
疑いの目で見てくるララは、とりあえず今はどうしようもない。今できることは、ユーカちゃんから事情を聞くことだけだ。
「えぇっと、どうしてケーキを分け合いたいって思ったのかしら?」
そう尋ねると、何だかユーカちゃんの瞳が沈んだ色に変わった気がして、内心焦る。ついでに、ララからの視線がどんどん痛くなってきている気もする。
「(――――――――)」
「『ケーキ、いつもあまり食べられなくて、二人で分けたら色々食べられるんじゃないかって思って……』だそうです。ならば、フォークを二つずつご用意致しましょう」
「(ほんとっ? ありがとう)」
最後だけはちゃんと読めたワタシは、律儀に通訳してくるララの言葉を聞きながら、これは確定事項なのかと少し考え、今日のお茶会の主旨を思い出してニヤリとする。
「そうね。先にたっぷり食べさせ合いましょうか。ワタシはそれなりにケーキなら食べられるから、六つまでなら選んでも良いわよ」
「(ほんとっ!? やった!)」
(うふふ、この可愛いユーカちゃんを見られないなんて、残念ね、ジーク、ハミル。でも、これからはもっと地獄を味わわせてあげるわ)
そうして、ワタシはユーカちゃんと軽く散歩をした後、お茶会の会場であるテラスへと向かう。
「(――――?)」
「『今日は庭じゃないの?』だそうです」
「えぇ、今日は、ちょっと趣向を変えようと思ってね」
そう言って、ようやく見えたテラスに、ユーカちゃんは目をキラキラと輝かせる。
「(――――)」
「『猫づくし……』だそうです」
そう言ったユーカちゃんの言う通り、今日のお茶会は猫をメインとしたお茶会だ。猫柄のマットに、猫の肉球柄のテーブルクロス、猫のスリッパに、ジークとハミルが化けた猫二匹。
「はい、今日はこれを着けて?」
そう言って渡したのは、黒い猫耳付きカチューシャ。もちろん、ワタシ達も猫耳を付ける。今日は、徹底的に猫に染まったお茶会だった。
ちょっと恥ずかしそうに猫耳付きカチューシャを受け取ったユーカちゃんは、すぐにそれを頭に付けて、『どぉ?』とでも言うかのように首をかしげる。
「うふふ、とっても似合っているわよ」
「(ありがとう)」
そう言うユーカちゃんをこれでもかと見つめる二つの視線があったのは、言うまでもない。そうして始まったお茶会で、ユーカちゃんは膝に灰色の猫であるハミルを乗せてご満悦だった。
「はい、それじゃあ、あーんっ」
ただ、その猫どもが大人しくしていたのは、ワタシがそう言うまでだった。事態を理解した猫どもは、カチンと固まる。
ユーカちゃんはといえば、そんな猫どもの様子に気づくことなく、ワタシが差し出したフォークの先のケーキに釘付けだ。
嬉しそうにパクッとケーキを食べたユーカちゃんを見た猫どもの反応は傑作だった。まず、マットの上に居たジークが、八つ当たり気味にワタシが座っている椅子をテシテシテシテシと叩き出す。そして、ユーカちゃんの膝の上に居たハミルは、ユーカちゃんを引き留めようと、必死に鳴き声を上げてアピールする。
ただ、そんな猫どもを、ユーカちゃんは不思議そうに見るだけで、続けて別の種類のケーキを差し出せば、すぐにそちらへ意識を向けてくれる。
(う、ふふ……これ、かなり楽しいわっ)
幸せそうなユーカちゃんと、血涙を流さんばかりの猫どもの対比が、とんでもなく面白い。給仕と通訳のために着いてきて、ワタシと同様猫耳を付けたララとリリは、いつもとあまり変わらない様子に見えるものの、途中途中でユーカちゃんにケーキを勧めてみせることが多いことから、十中八九楽しんでいる。
さすがに、間接キスになると不味いどころかこの猫どもに殺されかねないので、切り分けるフォークと差し出すフォークは別にして、また新たなケーキを差し出す。段々と猫ができるレベルじゃない力で椅子が叩かれ始めているようだったけれど、ワタシはそれを無視してユーカちゃんを餌付けする。
そうして、楽しい楽しいお茶会は、いつもよりも少し長く続いたのだった。
血涙を流す二匹はいかがでしたでしょうか?
次回は本編の続きとなります。(前回は、本編を続けて書くつもりで、予告した気がしますが……すみません、次回こそ本編です)
それでは、また!