第三十八話 乱入者(リドル視点)
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今回もリドル視点で、ちょっとした事件が起こります。
それでは、どうぞ!
ユーカちゃんの様子を報告した後、ハミルからも報告を受けた。内容は、少し触れ合えたけれど、ほとんど話せなかったこと、そして、今までの片翼と違って、極端に怯えなくて驚いたことを話してもらった。進展らしい進展はあまり見られないものの、意識が変わったことを考えればそれで十分とすべきかもしれない。
そうして、翌日、ワタシは張り切ってお茶会の準備をして、ユーカちゃんを迎えに行っていた。
「ユーカちゃん、今日も来たわよー」
「(――――)」
「『こんにちは』だそうです」
部屋に入ると、窓からもれる光が暖かく室内を照らしていて、椅子に座ったユーカちゃんは、持っていた本を閉じてペコリと頭を下げてくれる。相変わらず鎖はついたままではあるものの、これからのお茶会ではきっちり外す予定だ。
「じゃあ、今日もお茶会をしましょうね。あっ、先にお散歩の時間も取っているから、昨日見られなかった場所も見にいきましょうね」
ルンッと調子良く告げて、さっさと邪魔な鎖を外してしまうと、ワタシは通訳のためのララと、給仕のためのリリを連れて庭へ直行する。
「あっちは薔薇園だけれど、今はまだ見頃じゃないから、こっちのリトルナイトの園に行ってみましょう。あれはかなり見ごたえがあるわ」
ユーカちゃんをエスコートしながら、勝手知ったる他人の家の情報を告げて進んでいく。
「(――――)」
「『これが、リトルナイト……』だそうです」
ゆっくりと歩きながら案内した先にあった花は、濃紺色のどこか高貴な雰囲気を醸し出す小さな花達。花弁には、それぞれ中央付近に一つだけ、小さな黄色が入っており、所狭しと絨毯のように並ぶその花の様子は、まさに小さな夜だ。
「(――――)」
「『とっても素敵』だそうです」
「うふふ、喜んでもらえて何よりだわ」
花弁の色合いが夜の色と星の色を表しているように見えることから、リトルナイトの名前がついた小さな花。こうして大量に咲き誇っているところを見れば、ユーカちゃんは必ず気に入ってくれると思っていた。
「後は、姫雪花とか、スイートフラワーとかがあるけれど、そっちはまた明日以降にしましょうか」
目を輝かせるユーカちゃんを眺めながら告げると、ユーカちゃんはコクリとうなずく。
「(――――――)」
「『楽しみがたくさんあって、嬉しい』だそうです」
「うふふ、そうね。それじゃあ、もうしばらくしたら、お茶会の会場に行きましょうか」
リトルナイトで感動している様子のユーカちゃんには、たっぷりと堪能してもらい、ワタシ達はお茶会の会場へと移動する。
「(――――――――)」
「『これって、昨日のクリスタルフラワー!? どうなってるの?』だそうです」
今日のお茶会の会場は、ここの庭師に手伝ってもらって、巨大に成長させたクリスタルフラワーを各所に配置していた。おかげで庭師はフラフラだったけれど、地面からさほど離れていない位置に人が寝そべることもできそうなくらいに大きく花弁を広げたクリスタルフラワーがいくつもできたのは良かった。興味津々でそっと花弁に触れて喜ぶユーカちゃんを見ていれば、苦労した甲斐があったというものだ。
「『すごい、すごい』だそうです」
ユーカちゃんの感動を、抑揚のない口調で告げるララに、ワタシは早くちゃんと声が聞けるようになりたいなと思いながら、席の方へとユーカちゃんを促す。
「今日も色々なお菓子を取り揃えているわ。好きなものをどうぞ」
「(――――)」
「『ありがとう、リド姉さん』だそうです」
表情らしい表情は分からないものの、その目が如実に感情を表していることに気づいてきたワタシは、どことなく嬉しそうなユーカちゃんに満面の笑みを送る。
「うふふ、どういたしまして」
そうして、お茶会は和やかに始まる……はずだった。
「ここですのっ? お兄様を傷付ける片翼が居るという場所はっ!」
幸せなお茶会は、突如として現れた乱入者によって乱される。そこに居たのは、灰色の長髪を一つに結び、赤い目でユーカちゃんを睨み付ける魔族の美女だった。
唐突に響いた怒声に、ユーカちゃんはビクッと体を震わせて、可哀想なくらいに震え出す。
「っ、ユーカお嬢様っ。大丈夫ですよっ」
給仕に回ろうとしていたリリは、即座にユーカちゃんへと駆け寄ると、その震える体を抱き締める。
「ちょっと、貴女っ! その女をこっちに寄越しなさいっ! わたくしっ、そいつに言ってやらないと気がすまないのよっ」
キャンキャンと喚くその女性は、残念なことにとっても見覚えがある。
「アマーリエ嬢、これはいったいどういうことかしら?」
ユーカちゃんを庇うように前に出たワタシだったけれど、正直、魔力の差が激しすぎる。早くジークなり、このアマーリエの兄であるハミルなりを呼ばなければ、ワタシなんて簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。
「あら? リドル、貴方も居たの? でも、今は貴方なんかに用はないの。その女をこっちに渡しなさい」
高飛車に言いつけるアマーリエは、魔力を辺りに放出して、よりワタシ達を威圧してくる。ワタシもそうだけれど、ここには魔力が弱い者しか居ない。このままでは遠からずワタシ達は動けなくなる。
「っ、ユーカちゃん、ここはワタシが足止めするから逃げなさいっ!」
何としてもユーカちゃんは守らなければならない。そう思って、後ろを振り返ることもなく告げたのだけれど……なぜか、そのユーカちゃんはワタシの前に出てきた。
「っ、ユーカちゃん!?」
「(――――)」
あり得ない事態に、ワタシが必死に呼び掛けると、ユーカちゃんは何事かを告げて、震えながらアマーリエへと向き合う。
「あら? 殊勝なことね。自ら出てくるなんて」
そして、その様子に、アマーリエは予想外だとでも言わんばかりに動揺しながらユーカちゃんを睨む。
(あんのバカどもっ、早くこっちに来なさいよっ!)
とうとう一歩も動けなくなった自分が情けないと思うと同時に、とにかくユーカちゃんを守れるだろう二人が早く来ることを祈る。
始めこそ動揺したアマーリエは、すぐに調子を取り戻して、声が出ないユーカちゃんに対して好き放題言い始める。
「……ユーカ、お嬢様は、そんなん、じゃ、ないですっ!」
あまりの威圧感に声すら出せずに見守っていると、ふいに、背後からユーカちゃんを守ろうとするリリの声が響く。
「ユーカお嬢様、を、悪く、言わないで、くださいません、か?」
それに続き、ララの声まで響いてきて、ワタシは自分の魔力が最弱であることを後悔する。もう少し魔力があれば、この二人のように、言葉だけでも援護できたかもしれないのに。
けれど、その二人の発言は、どうやらアマーリエの怒りに火を注ぐ形となったらしい。
「こんのっ、吹き飛びなさいっ!」
さすがに魔法を行使してくるとまでは思っていなかったワタシは、とにかく標的になったであろう二人を守ろうと、微弱な魔力でも結界を構築しようとする。そして……。
「きゃあぁぁぁあっ!」
吹き飛んだのは、なぜか、アマーリエの方だった。
次回、夕夏ちゃん視点!
それでは、また!




