第三十四話 輝いた世界
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今回は結局夕夏視点。
まだ分かりませんが、もしかしたら、夕夏とリドルの視点が交互になるかもしれません。
それでは、どうぞ!
(お茶会かぁ、楽しみだなぁ)
リド姉さんに鎖を外してもらって、自由の身になった私は、久しぶりに重くない腕と足を動かして、庭へ向かっていた。もちろん、側にはメアリーもララも居る。ついでに、リド姉さんも。
(そういえば、あの猫は居るかなぁ?)
庭に出てきたところで、以前、岩の上に寝そべっていた灰色の猫を思い出す。
(確か、この辺りだったよね?)
メアリーに手を引かれた状態でキョロキョロと辺りを探ってみるものの、その姿は見えない。
「……ユーカお嬢様。今日はきっと庭には居ませんよ」
「(そっか、残念)」
側に居たララは、私が猫を捜していることに気づいて、そう声をかけてくる。
(きっと、あの猫は飼い猫だよね)
そうなると、ララが居ないと言ったのは、今、その猫がどの辺りに居るのか知っているからだろう。
(まぁ、いっか。それより、この綺麗な庭はしっかり観察しておかないと損だよねっ)
猫が居ないのであれば、それはそれで別の楽しみがある。見たこともない色とりどりの花を眺めるのは、とても心が浮き立つ。と、そこで、視界の端にキラキラ輝くものを見つけ、ついついそちらの方へと視線を移す。
「それは、クリスタルフラワーよ。水晶のような見た目と、その硬質さからそんな名前がついてるの」
リド姉さんが説明してくれたその花は、不思議なことに、透明だった。
「(綺麗、ですね……)」
思わずため息が出てしまうほどに、そのクリスタルフラワーは美しかった。ララが通訳してくれるのを聞きながら、私はそのままクリスタルフラワーを見つめ続ける。
「ふふっ、そうよね。あぁ、後、ワタシに敬語は不要よ。友達として、仲良くしましょっ」
「(えっと、う、うん。努力する)」
流石に年上だろう男性(?)にタメ口というのは厳しいものがあるものの、要求されたからには従わないわけにもいかない。きっと、声が出ていたらしょっちゅう間違えるのを聞き咎められるだろうけれど、今は声が出ないおかげでその心配もない。多少間違えたとしても、きっと気づかれないだろう。
「このクリスタルフラワーは、属性魔力を流し込むことによって、様々な色合いの種を生み出すのよ。例えば、そうね……これは、ちょうど種をつける頃合いの奴ね」
口調を頑張ろうと決意していると、リド姉さんはクリスタルフラワーの丸い実らしきものに手を触れる。すると、なぜかその実は茶色に変色する。
「(わぁっ、色が変わったっ!)」
リド姉さんが見せたかったのは、この色の変化かと思いきや、どうやらまだ続きがあるらしく、その視線はじっとクリスタルフラワーに注がれている。そうして、あっという間に茶色が実の中心に集まったかと思えば、その実は自動的にパカリと割れて、茶色の粒だけが落ちてくる。そうして、その粒を拾い上げたリド姉さんは、良く見えるようにしゃがんで、私の前に手を寄せてくれた。
(うん、そうだよね。リド姉さんは二メートル以上ありそうだから、しゃがんでもらわないと見えないよね)
リド姉さんに限らず、ジークフリートさんも、ハミルトン様も、恐らく身長は二メートルを超えている。メアリー達は、多分、二メートルまではないけれど、一番低そうなメアリーでも百七十センチ以上はありそうだから、基本的に、全員高い。リド姉さんの何気ないしゃがむという行動に、多少コンプレックスを刺激されつつも、私はその手の中のものを覗き込む。
「この種からは、そっちにあるようなクリスタルフラワーが咲くわ」
よく見ると、茶色く透き通ったそれを、リド姉さんは種だと言い、種を持たない方の手でどこかの花壇を指差す。そして、その指の先にあった光景に、私はしばし見惚れる。
「(……すごいっ、ファンタジー)」
そちらには、茶色く透き通ったクリスタルフラワーはもちろん、緑や黄色、青や赤など、様々な色のクリスタルフラワーが花壇ごとに分けられて咲き誇っていた。それは、どこか幻想的な光景で、ついつい感想をこぼしてしまう。ただ……なぜかララは私の言葉を正確に捉えられていなかった。
「『ファンタジ』じゃなくて、『ファンタジー』って最後は伸ばすんだよ」
その瞬間はまだ、なぜララが言葉を正確に捉えられなかったのか分からず、私は馬鹿正直に説明をして、それをララがリド姉さんへ伝える様子を観察してしまう。
「『ふぁんたじー』ってどういう意味なのかしら?」
だから、そう聞かれて初めて、私はこの世界こそが、魔法に満ちたファンタジーの世界なのだということを思い出した。
(あっ……どう、説明しよう? 『魔法の世界』? 『夢みたい』? いやいや、現実なんだよね、この世界では)
改めて説明を求められると、咄嗟には出てこない。そもそも、こうして聞いてくるということは、ファンタジーという、概念がない可能性が高かった。
「あぁっ、難しいなら良いのよ。後で辞書で調べるから」
『幻想的』という単語が出てくれば良かったのだろうけれど、その場で考えられなかった私は、申し訳なくて謝罪する。
「ユーカお嬢様が謝る必要はございません。浅学な私とリドル様が悪いのです」
ララは私の謝罪にそう反論するものの、これは全面的に私が悪い。
「(ごめんなさい。きっと、この世界にはない言葉だった)」
「? それはどういう……? いえ、申し訳ございません。もうこの話はお仕舞いに致しましょう」
ララに一度は突っ込んで聞かれそうになったものの、難しい顔をしていたのが分かったのか、ララは即座に話を打ち切る方向へと持っていく。
(こうしてみると、ララはよく、私の感情が分かるなぁ)
私は、基本的に表情がない。それはきっと、度重なる虐待やいじめで、心を殺し続けた結果なのだけれど、そのせいで何を考えているのか分からないと言われることが多かった。
(ララは、どうして私の感情が分かるんだろう?)
まさか、ララは『読唇術』ではなく、『読心術』の方が使える、何てオチはないと願いたいところだ。
「何を話していたのかは知らないけれど、とりあえず会場に行くわよ」
「(は……じゃなかった。うん)」
「『うん』だそうです」
とりあえず、今はお茶会だ。マナーも何も分からないことは、前もってメアリーからリド姉さんに伝えてもらっているはずだから、多少は目こぼししてもらえるはずだ。『とにかく楽しんでくれれば良い』と返ってきた言葉を、今は信じよう。
そうして、少し歩いていくと、一ヶ所だけ、シャボン玉らしきものが浮かんでいる空間に出る。
「(わぁっ、すごいっ)」
『わぁっ、すごい』だそうです」
「ふふっ、気に入ってもらえて何よりだわ」
よく見れば、それはシャボン玉ではない。かといって、ガラス玉とか、そういったものとも違うようで、触ろうとすると色とりどりのその玉はフヨフヨと逃げていく。恐らくこれは、魔法で何かしているのだろう。
(随分、魔法に違和感がなくなってきた気がするけれど……大丈夫、だよね?)
初めて魔法を見たのは、リリが明かりをつけるために火を出した瞬間……いや、よくよく考えると、ジークフリートさんに初めて会った時も、もしかしたら私を魔法で眠らせた可能性はあるけれど、目に見える状態で使われたのは、それが最初だ。それから、頻繁に見るようになった魔法に、私はあまり驚くこともなくなっていた。現在は、毎日浄化魔法とやらを使用してもらっていることを考えると、驚くだけ損な気もする。
けれど、今回のシャボン玉もどきは、とっても嬉しかった。こんなに綺麗な光景を魔法で作り出せるなんて、知らなかった。こんなに、この世界が輝いているなんて、思ってもみなかった。
「さぁ、座りましょう」
そう、促されて、私は初めてテーブルへと目を向ける。丸テーブルに花柄のテーブルクロスがかかっていて、何だかとっても可愛らしい。それこそ、不思議の国のお茶会みたいだ。
私は、どこか夢見心地で、リド姉さんにエスコートされ、ゆっくりと席に着いた。
お茶会に入れなかったので、次こそは、ちゃんとお茶会に突入したいと思います。
それでは、また!




