表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で監禁されました!?  作者: 星宮歌
第二章 訪問者
30/173

第二十九話 お説教(ジークフリート視点)

ブックマークや評価、感想をありがとうございます。


今日は更新できないかもしれないと思っていましたが、何とか更新できましたっ。


……見直しを一回しかしていないので、どこかおかしなところがあるかもしれませんが、何かあれば、後日修正をかけます。


それでは、どうぞ!

 リドルがユーカの元へ行ったのを見送ったのは、数十分前。そして、今は…………ハミルトンと揃って正座させられていた。



「だいたい何なのよっ、あの鎖はっ!」


「えっと、その、自殺防止?」


「客観的に見ても、犯罪臭しかしないわよっ」



 ビクビクと答えるハミルトンに、リドルはピシャリと正論を言ってくれる。ただ、俺自身もぼんやりと見ている場合ではなかった。



「ジーク、あんたはあの子の声を奪ってるわね?」


「…………罵倒されるのは、きついんだ」


「だからといって、勝手に声を奪って良いわけないでしょっ!」



 そうリドルは叫んでくるが、こちらにもこちらの言い分がある。片翼からの罵倒は、魔族にとって何よりもつらいものだ。それこそ、毎晩のように夢に出て、眠れなくなることだって少なくはなかった。それに、喉を酷使する片翼は、徐々に血を吐くようになっていった。声を奪うことは、片翼を守るためでもあるのだ。


 説教をしながらでも、俺達の意見を聞いてくれるリドルは、ハミルトンからの情報と俺からの情報とをしっかり考えてくれた。



「まず、ハミルの言う自殺防止だけれど、実際に自殺した片翼はどのくらい居たの?」


「……五十を超えてからは数えてない。それに、未遂も含めたら、倍以上だよ」


「……それで、あの鎖をつけてからは自殺率が減ってるわけ?」


「うん、さすがに舌を噛まれるとどうしようもないけど、それ以外の自殺は防止できてる。僕は……片翼を失いたくないだけなんだ」



 絞り出すように告げるハミルトンは、これまで何度も何度も片翼を失って、辿り着いた結論が鎖での拘束だったのだろう。その気持ちは、痛いほど良く分かる。



「で、ジークは声を奪ってからどう変化したのかしら?」


「俺の場合は、夢に出てくる片翼の罵倒に声が伴わなくなった。それと、片翼が喉を痛めることは完全になくなった」


「そう」



 正座をしながら、答える俺は、声を戻せと言われないか不安になる。俺は、片翼が傷つくことが許せない。ただ、魔族である以上、どうしても片翼に会えない時間が続けば飢餓状態になるため、片翼に会わないままでいるという選択肢はない。けれど、そのせいで片翼が喉を痛めてしまうというのならば、俺は、俺のためにも、片翼のためにも、声を奪うという手段を取るしかなかった。この選択が間違いだったとは思わない。



「……話は分かったわ」



 何らかの結論に達したらしいリドルの様子に、俺もハミルトンも情けなくビクリと肩を震わす。



「とりあえず……とりあえずではあるけれど、鎖と声の件はそのままで良いわ」


「本当に?」



 まさか、リドルがこの件を許容してくれるとは思っても見なかった俺は、ハミルトンの尋ねる声に大きく同意しながらじっと言葉を待つ。



「えぇ、本当よ。そうでもしないと、あの両翼ちゃん自身もだけれど、あんた達も危ういでしょう?」



 そう言われ、俺は声を無理矢理戻したらどうなるだろうかと考え、身震いをする。ほとんど考えるまでもなく、俺は暴走するだろう。どんなにあの子が嫌がっても、どんなに罵倒されようとも、どんなに喉を痛めようとも、あの子の側に居続けてしまうだろう。あの子を失わないためなら、どんな非道なことでもしてしまいそうだ。


 その結論は、隣に正座するハミルトンも同じだったらしく、その瞳にはうっすらと狂気が宿っている。



「ワタシは、誰も失いたくなんてないわ。これは最善ではないと分かってもいるけれど、そうせざるを得ない状況でもあると知ってる。だから、今は『とりあえず』よ」


「あぁ」


「うん」



 真剣な表情で告げるリドルに、俺達は自分を呑み込みそうな狂気を抑えて返事をする。

 きっと、俺達は今回の両翼の子を失えば狂ってしまう。それがまざまざと感じられて、グッと拳を握り込む。



(失いたくない。振り向いてほしい)



 彼女が居てくれるなら、それだけで俺達は幸せだ。だから、どうか、振り向いてほしい。



「それで、今後の方針だけどね。まずは、あんた達、本来の姿でちゃんと会うようにしなさい」


「ぐっ」


「うっ」



 猫の姿で会っていたことを指摘された俺達は、ついつい言葉を詰まらせる。けれど……。



「別に猫の姿で会うなとは言ってないわ。ただ、ちゃんと本来の姿でも会うようにしなきゃ、慣れるものも慣れないでしょう?」



 確かに正論だ。これには、俺達も素直に聞き入れるしかない。



「それと、情報収集を急ぎなさい。あの子本人から得られるものがあれば、それでも良いわ。とにかく、今は情報が足りなさすぎるから、あの子が何に怯えるのかが分からないわ」


「? ちょっと待ってよ。あの子は、僕達、魔族に怯えているんだろう?」


「……あんたの片翼は、昔、ワタシが来た時も、怯えて布団を被っていたでしょう? でもね、今回会った両翼ちゃんは、ワタシには怯えなかったわ。もしかしたら、条件をどこか勘違いしてるかもしれないでしょ」


「「えっ?」」



 まさかのここに来て、条件が違うかもしれないという可能性に、俺もハミルトンも思わず固まる。



「ジーク、あんたの片翼も、昔会った時は皆、ワタシに掴みかかってきたけど、今回の両翼ちゃんは、大人しいものだったわ。だから、そこも何か違うかもしれない」



 俺の片翼の条件、『魔族に恨みを持っている者』という条件が違うかもしれないなんて、今まで考えたこともなかった。それはきっと、隣に居るハミルトンの『魔族に酷く怯えている者』という条件も同じことだ。その条件の存在を疑う余地もないほどに、俺達の片翼は魔族を恨み、魔族に怯えた。



「条件が違う……?」



 それは、希望の活路となるか、絶望への道となるかは分からない。けれど、今まで絶望に閉ざされ続けた俺達からすれば、まごうことなき希望だった。



「そうね、その可能性があるわ。だから、まずは情報が必要なのよ。実際に動くのはそれからね」



 『もちろん、今の姿で会う練習はちゃんとするけど』と付け足して、リドルはニヤリと笑う。



「ジークのことだから、リクは動かしているんでしょう? だから、今はワタシ達にできることを目一杯やるわよっ」



 その宣言とともに、リドルは拳を上に突き上げる。どうやら、俺達以上にリドルの方が燃えているらしい。



「さぁっ、さっさと立って、準備するわよっ」



 ただし、正座を三時間強要された俺とハミルトンは、リドルの言葉通りに立ち上がることなどできず、しばらく悶絶するのだった。

次回は多分、またリドル視点です(夕夏ちゃん視点が中々出てこない……)


それでは、また!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ