第二十六話 訪れた者
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さて、今日から新章突入です。
それでは、どうぞ!
あれから数日経って、私は鎖に繋がれた生活に慣れてきた。いや、本当は慣れちゃいけないと分かっているけれど、実際慣れてしまったのだから仕方ない。ただ、この生活に慣れた背景には、リリとララの尽力あってのものだ。
(猫、可愛いよなぁ)
毎晩悪夢に魘されていた私は、一度、猫と添い寝をした。そしてその時、悪夢を見なかったことに味をしめて、毎日猫と添い寝できるように二人に求めたのだ。二人はすぐに私の要望に応えてくれて、その日から翡翠色の猫と灰色の猫が交互に添い寝してくれるようになった。今は、そのおかげで、夜はグッスリ眠れている。
(後は、あの人達と会ってないこともあるかな?)
それ以外に変化があるとすれば、ジークフリートさんやハミルトン様と、私はあれから一度も会っていないということだろうか。恐怖体験をせずにすむという現状は、私の心を大きく安定させてくれた。『訪れ』という名目で会いに来ていたジークフリートさんや、鎖までつけて私を捕らえたハミルトン様が全く音沙汰なしになったのは少し不気味ではあるものの、平穏であるなら問題ないと今は放っている。どんなに考えたって、あの二人の行動理由を理解できるほど、私は二人のことを知らない。
椅子に深く腰かけて、メアリーからもらった恋愛小説を一通り読みきると、私はパタリと本を閉じる。
(……やることがなくなっちゃった)
一応、文字は読めるようになった。書けと言われたら少し自信がないものの、ちょっと練習すればなんとかなりそうな状態だ。
(でも、紙は用意してくれても、ペンは用意してもらえないんだよね)
理由を聞けば、先が尖っていて危ないからとのことだったけれど、ペンごときで危ないと言われるのは少し複雑だ。そんなに私は危なっかしいのかと。
ジークフリートさんやハミルトン様は読唇術が使えないそうなので、せめて筆談ができれば良いと思ったのだけれど、それはしばらく無理そうだ。
(はぁ……うん? 何か、外が騒がしい?)
机に突っ伏してだらけていると、ふいに扉の外が騒がしいことに気づく。普段、静かに廊下を通る専属侍女達やジークフリートさん。それなのに、なぜかその声は揉めているように聞こえた。
(誰だろう? 一人は、メアリー?)
さすがに何を言っているのかまでは聞き取れないものの、その声はどんどん近づいてくる。
(えっと、えっと……どうしよう?)
ここに入ってこなければ何もないのだけれど、最近ララに聞いたところによれば、この辺りの部屋はあまり使われていない部屋が多いそうで、私の居る部屋が唯一、良く使われる部屋なのだそうだ。つまりは、私が居る部屋に用事がある可能性が高いということ。
(……メアリーと話してる声の主に、心当たりはないなぁ)
メアリーだけならそこまで警戒する必要はないものの、別の誰かが居るとなれば話は別だ。ひとまず、私は扉から一番遠い場所に位置するベッドへと駆け込んで、その後ろに回り込む。そうして、しゃがんで、頭だけをちょこんと出すと扉をじっと観察した。
「入るわよー」
「ちょっ、リドル様っ!?」
そうして、中性的な声が入室を告げると、引き留めるメアリーの声を無視する形で扉が開きかける。私は、戦闘態勢を整えるべく、枕をしっかりと腕に抱き込んで警戒を強める。すると……。
「お待ちください」
「ユーカお嬢様のご用意を先にさせていただきますっ」
開きかけていた扉は、急にその勢いを止めてしまう。そして、ララとリリの声が響いたかと思いきや、二人揃って『失礼します』という言葉を発して中に入ってきた。
「(ララ、リリ)」
いきなり不審者が入ってくるわけじゃなかったことに安心して、枕を抱き締めたまま二人を呼べば、ララは小さく微笑み、リリは満面の笑みを浮かべる。けれど……。
「ユーカお嬢様、ご安心ください。けっして、お目汚しになるものを見せることはございませんので」
「お客様を見るのはダメですからねっ」
久方ぶりに、わけの分からない言葉が二人の口から出てきた。鞭の時も問答無用といった雰囲気があったものの、今日はそれ以上かもしれない。
「(えっと? お客様?)」
「はい。ですが、けっしてその姿を見てはなりません」
「そうですよっ、ユーカお嬢様っ」
なぜかは分からないけれど、二人はその『お客様』の姿を私に見せたくないらしい。
「(えっと……)」
「申し訳ございません。時間が押しているので、失礼します」
「失礼しますっ」
どういうことなのかを聞こうとした途端に、二人は何か黒い布を持って動き出す。そして、さっと私の後ろに回ったかと思いきや、鮮やかな手つきで私に目隠しをしてしまった。どうやら、あの黒い布は目隠し用の布だったらしい。
「あぁもうっ、今度こそ、入るわよっ」
そして、目隠しが完成した直後、扉が開く音が聞こえる。
「って何で目隠ししてるのよっ!」
「もちろん、リドル様の凶悪なお姿をユーカお嬢様に見せたくないからです」
「ダメですよっ。存在そのものが凶器だって言われてるんですからっ」
(凶悪? 凶器? いったい、目の前に居る人はどんな姿をしてるのっ??)
あまりにもあんまりな言い様に、混乱と好奇心が入り交じる。
「あらあらまぁ、ですが、対応としてはとてもよろしいと思いますよ」
「ありがとうございます。メアリー」
「ありがとうございますっ」
「ちょっと!? どういうことよっ、それっ!」
目隠しされているため、良くは分からないものの、リドル様と呼ばれた人が荒ぶっていることだけは分かった。
(……大丈夫かなぁ)
「はぁっ、ここの使用人はいったいどんな教育をされてるんだか」
「この国一番の教育でございますよ」
「……はぁっ」
メアリーの返しに盛大なため息を吐いたリドル様は、次の瞬間、私へと鋭い視線を注ぐ。
「……ふぅん? なるほど、ね?」
「リドル様。もうユーカお嬢様を見たのですから、早々に退出をお願い致します」
「リドル様がそんなに見つめたら、ユーカお嬢様が減りますっ」
「ちょっとっ!? 客人に対する態度じゃないわよねっ!?」
容赦のないララとリリの口撃に懸命な反論をするリドル様。
(……目隠し、外しちゃダメかなぁ?)
ララとリリが何かしらの気遣いをしてくれたのは分かる。けれど、私はリドル様の姿に興味津々だった。
(ちょっとだけ、ちょこっとだけ……)
鎖はつけられていても、手が動かせないわけではない。目隠し程度なら簡単に外してしまえる。そうして、私は好奇心に負けて目隠しを外す。
「「あっ」」
ララとリリが気づいた時にはもう遅い。目隠しは完全に外れ、その視界には……………………とっても派手なドレスを身に纏った、オネェさんが居た。
「あら? 目も黒いのね」
「(そういう貴方は、真っ赤ですね)」
真っ赤なロングヘアーに、真っ赤な瞳、真っ赤なドレスを纏った彼女(?)の姿はとてもインパクトがある。化粧もバッチリとした彼女(?)は、とても逞しくて、違和感が恐ろしいほどにあった。
「初めまして。ワタシはリドル・テイカー。リド姉って呼んでねっ」
それが、私とリド姉との出会いだった。
新しい登場人物はまた、随分とあくが強いキャラクターになってしまいました。
でも、基本的にオネェキャラって好きなんですよね。
これからリドルを自由に動かせると思うと、とっても楽しみです。
それでは、また!




