9 帝都脱出予定
ヤストリア帝国はセントライト大陸の中央に位置し、大陸で1,2位の力を持っている国だ。
帝都は国のやや北東部に位置しており、東部、西部、南部は辺境伯が、北部は第2皇子である大将軍が統治している。
ルーゲルダード公爵は現帝王の従兄弟であり、領地は帝都の南側にあった。
公爵の別荘はアイスフィールド辺境伯が統治している南部であり、通常馬車で15日程度掛かるらしい。
俺とシルフィーから、今後はその別荘で暮らすよう言われたため、シルフィーの私邸に戻ってからジジイを加えて協議する事にした。
「セバス、お父様から先ほど言われた形だと、今後どうすればいいと思う?」
ジジイは難しい顔をしながら。
「お嬢様、先ずは何人連れて行くか。でございますな」
「ふむ、人数か。・・・・団員はそれぞれに確認しなくてはならないな。執事やメイドもどうするかだな」
シルフィーも溜息をつきながら考えている。
大変だねー、2人とも。
俺は相変わらずのほほんと2人を見ていると。
「「颯太殿?」」
あれ?睨んでる?
「颯太殿、少しは協議に参加して欲しいのだが」
あー、シルフィーが今度は切なそうに俺を見ている。面倒くさいけど参加するか。
「ごめん、ごめん。困ったシルフィーさんが可愛くて見つめていたよ」
「そ、そんな」
くくく、たまらん。
しかしシルフィーだけ俺のスイッチが入ってしまう。気を付けないと。
それとニコニコ俺を見るなジジイ。
「ジジイ確認するけど、他の執事やメイドさん達は公爵様に雇われてるのかな?」
「そうですな」
「家は?」
「ほとんどが住み込みですね」
「実家は?」
「帝都が多いでしょう、彼らは優秀で有り、裕福な家庭ですから」
「ふーん、それならわざわざ南部の辺境地に付いて行くかな?」
「いや、無理でしょうな」
可愛いメイドさん、特にイリスちゃんは付いて来て欲しいんだけど。
「そうなると一応確認してもらうしかないよね」
「わかりました、颯太殿」
「後はシルフィーさん、公爵様の別荘なんだけど行った事ある?」
「あるぞ、まだ子供の時だが」
「どのぐらいの建物かな」
「んーーーーーーー、よくは覚えてがいないが。2階建で20人ぐらいは住めるんじゃないかな」
「そうか、それじゃ先ずは人数を確認してから次に行きますか」
俺はのほほんと2人に答える事にした。
▽ ▽ ▽ ▽
「なるほどねー」
確認した結果、執事、メイドさん達の内、シルフィー専用のメイド、アマルダさん(39歳)付いて行く事になった。
・・・イリスちゃん・・・ダメか・・・。
騎士団員は7人の内6人は付いて行く事に、公爵家の第5王女だった未亡人、クリスさんが行かないと思ってたら、一番若い16歳の侯爵令嬢だった。
本人は行く気だったらしいが、親が認めなかったみたいだ。
一応シルフィーが病気療養のため帝国騎士を辞め、南部の辺境地で療養すると正式に公爵が申し出をだし、了解されていた。
他の騎士団員6人は各貴族の親達に無理矢理納得させたらしい、やれ行けないなら死ぬとか、どちらにせよ嫁には行かないとか、団長と結婚するとか。(白薔薇の乙女騎士団員は全員百合だと言う噂が出ていた)
そして厨房をやっていたリリちゃんとお母さんのマーガレットさんは行く場所もなく、親戚もないため付いて行く事になった。
2人とも俺が変化させた魔道具に夢中らしい、特に温泉が。
▽ ▽ ▽ ▽
「さてとシルフィーさん、変化させちゃった物どうしようか?」
器具とかは持って行こうと思う訳だが、温泉とか上下水道、厨房やエアコンをどうするかだな。
「・・・・・・お父様に確認して貰うしかないわね」
「やはりそうなるよね」
結局見てもらう事にしたんだが・・・。
「颯太よ、これはなんだ」
公爵様が呆然としながら変化させた物を見ていた。
「あ、それは温泉ですね」
俺の答えを聞いてギギギギと頭だけこちらに振り返る。
「す・・・」
す?
「素晴らしいぞ、颯太!!!」
あれ?喜んでるぞ。だけどヤバいんじゃないのか。
「えーと、皇帝陛下にバレるとマズいんじゃないだしょうか?」
「あ!」
やっぱりダメだよね、困ってるし。
「・・・・・・よし、何とかするぞ。颯太そのままでいいぞ」
「いいんですか?」
「いいんだ、気に入った。無くなったら困るのではないか」
はいー、いいのかよ。公爵。久しぶりに自分が困っているんだが。
「では、こちらがトイレです」
「次は厨房です」
「次は・・・」
▽ ▽ ▽ ▽
「よし、全部そのままで構わん」
あーあ、公爵ウキウキしちゃってるよ。
結局全部そのままになっちゃたよ。
あ、あれはダメだ。
「公爵様、電動アシスト自転車とビッグスクーターはバレます」
「ん?他にもあるのか?」
屋敷の隣、M1151装甲ハンヴィーを置いてある場所に電動アシスト自転車とビッグスクーターがあった。
「ほほー、これも凄いではないか!!」
いや、外に出歩いたらマズないのか?
「公爵様?」
「公爵様?」
あーあ、聞こえてないし。
ツンツン
シルフィーさんが突っついて、やっと公爵が気が付いた。
「こ、これはダメか?」
「いえ、俺のいた世界の物なんで、勇者が見たらバレますよ」
「では私の敷地内であれば良かろう、な、な」
このオッサン、娘と同じ様に喜びやがる。
「バレますよ、ここには帝国の官僚や貴族が来るんでしょ?」
「・・・・・・・・・」
俺とシルフィーが公爵をジッと見ている。
「はあー、どっちにせよこの建物の中を見ればバレるでしょうからね、1台ずつ車庫の中に隠して下さい、それ以外は元に戻します」
「えー、1台だけかのー。電動アシスト自転車とビッグスクーターとM1151装甲ハンヴィー」
「え?M1151装甲ハンヴィーもですか?」
「もちろんじゃ、置いていけ!」
「・・・・・・わかりました」
「そうかそうか」
喜んでるんじゃないよ、おっさん。
「ただし、全部車庫に隠しますよ」
「わかっとる、ワシは公爵じゃぞ!!」
あー絶対に遊んでバレて公爵家潰れるぞ。
まあいいや、俺には知った事じゃないしな。
取り敢えず、さっさと逃げよう、帝都から。