8 ルーゲルダード公爵
従者に戻ってから俺は相変わらずせっせと変化させている。
まずは中古の2人用の荷馬車を大量に購入した。
これを変化させて10台ほど電動アシスト自転車にした、これで物を買いだしするのが楽だもんな。
ただメイドさん達に利用してもらって気が付いた。
俺が変化させた時に、前の世界で電力やガソリンを使ったものが魔力バッテリーに変わっている。
つまり途中で魔力が切れた時、魔力がない人は充電出来ない。
また、全員が当然自転車を乗った事がないため、今は屋敷の敷地内で練習しているみたいだ。
他にも騎士団が使える様にビッグスクーターを10台。
M1151装甲ハンヴィーを5台変化させて追加した。
そこまで変化させていた所、とうとう俺がやってる事が公爵家にバレたらしい。
まあ考えればバレるのが遅いぐらいだ、シルフィーの私邸は公爵家の敷地内で有り、公爵邸のすぐ近くだった。
俺はシルフィーさんとルーゲルダード公爵、シルフィーさんのお父様に行くことになった。
「シルフィーさん、バレるの遅かったな」
「いや、颯太殿、別段怒られるわけではないぞ」
そうか、ならいいけど。
「そ、それにな、お父様がわざわざ私を呼ぶのは、は、早く結婚するように言われるくらいだ、もしかすると颯太殿とわ、私が・・け、け、結婚す、するとかじゃないか?」
シルフィーさんが真っ赤になって妄想している。
あり得ないだろう、そんな馬の骨、つまり俺だな。
さすがにM1151装甲ハンヴィーで行くと、怒られると思ったのだが、シルフィーさんがそれを見せたいと言うので、わざわざそれで行くことにした。
しかし、歩いて行ける距離だぞ。
ほんの2,3分で公爵邸に着き、2人で車から出ると執事が待っていた。
「シルフィーお嬢様お久しぶりでございます」
「おー、久しいな。お父様はどちらに?」
「お待ちしております、こちらでございます」
「うむ」
俺とシルフィーは執事に案内されて屋敷に入った。
「侯爵様、お嬢様が来られました」
「入っていいぞ、シルフィー」
「失礼します、お父様」
ドアを開けて入ると60歳ぐらいの瘦せた男性だった。
この人が公爵か。
「シルフィーは相変わらず騎士服しか着んな、たまにはドレスで来い」
「いえ、私は帝国騎士です。ドレスなど着る気はありません」
「だから嫁に行けんのだ、お前は」
「うぐっ」
あーあ、シルフィーがストレートに言われてるよ。
「それでその男がお前の従者だな」
あ、公爵が俺を見ている。
「はい、この方が私の従者、颯太殿です」
「おい、シルフィー、お前は自分の従者を殿と呼んでいるのか?」
「は、はい」
あ、彼女がヤバい、て顔をしている。
それを見て公爵がため息をつく。
「構わん、勝手に呼べ」
「お父様、ありがとうございます」
よく見ても親子関係がわからんなあ。
「それでお前が颯太だな」
「はい」
俺はいつものように笑っている。
「それで、その馬も使わず動ける馬車を造ったのがお前だな」
「はい」
「お前は従者でありながら錬金術師でもあるのか?」
「そうですね、色々とやってます」
「なぜ従者をやる、普通、錬金術が出来る男は従者などやらんぞ」
「そうなんですか?でもシルフィーさんから従者もやってくれと頼まれたんで」
あ、シルフィーが黙ってて、みたいな顔をしている。
でも遅いんじゃないかな。
「シ・ル・フ・ィー」
「は、はい、お父様」
「お前は公爵家の王女だな?」
「・・・・・・」
「お前は自分で嫁ぐ相手を探す、と私が用意した男を全員断ったな?」
「・・・は、はい」
「その理由を何て言っていた?」
「わ、私は帝国騎士であるので嫁ぎませんと」
「そうだ、ではあらためて聞こうではないか?」
「?」
あれ?シルフィーは気づいてないのかな。
「あの男を従者にしてる理由を言ってみなさい」
「え、えーと・・・」
あーあ、赤くなってるよ、この子。
「ほれ、言うてみ。シルフィー」
あ、公爵がいやらしそうにシルフィーを煽ってる。
シルフィーはあたふたし始めている。
でも面白そうだから俺も知らんぷりしとこ。
「あの、お父様?」
「なんじゃ、わが娘よ?」
「喜んでませんか?」
「うんにゃ、しとらんよ」
いや、ニヤニヤ笑ってるよね。
あのオッサン、俺嫌いではないな。
「もー、お父様たら!!」
シルフィーは真っ赤なまま公爵に怒ってる。
ははは、可愛いねーこの乙女は。
「まあいいか、あまりからかうと私を嫌いになってしまうしな」
既に公爵は笑いが止まらないみたいだ。
「で、シルフィーよ。なぜこの男と結婚したいんじゃ?」
「えーと、私より強いからです」
「「?」」
俺強かったけ?
「シルフィー、あの男は強いのか?それにお前より強い男は山ほどいたぞ」
「お父様、颯太殿は異世界の転移者なのです」
「なに、勇者なのか」
「いえ、勇者ではありませんでした」
「しかし帝王陛下が召喚されたのであろう?」
「颯太殿は巻き込まれただけです」
「・・・巻き込まれただと!それではなぜ生きている!」
おー怖えーよ、公爵は俺とシルフィーを睨んでるじゃんか。
「召喚した勇者以外は処分されるはずだ」
「はい、帝王陛下から私が一任されました」
「いや、一任と言われても、それは始末しろ、という意味だ。分かっていてな。このままではシルフィーどころか、我がルーゲルダード公爵家自体が処分される可能性があるぞ」
「はい、しかし、私は処分出来ませんでした、それどころか好きになってしまったのです」
「お前は帝国騎士として失格だな」
「はい、お父様」
おいおい、俺処分対象だったのかよ。
しかし甘い子だな、俺をバッサリ殺しておければ良かったのに。
俺はシリアス展開になってる2人をボヨヨンと見ていた。
召喚された当初であれば簡単に処理されたと思うけど、今はスキルが有る。
簡単には殺されねーよ。
「シルフィー、処分した報告はしたか?」
「はい、既に」
「すぐにお前達は私邸から出ろ」
「勘・・・・当・・で・すか・・・」
「違うな、私は娘には甘いのでな」
「それでは」
「アイスフィールド辺境伯を知ってるな」
「それはお母様の実家ですね」
「そうだな、お前のお爺様でもある。そこに私の別荘がある」
「・・・・・・」
「お前はその男と騎士団を連れてそこで暮らせ」
「よろしいのですか?」
「ああ、ただし2度と帝都には戻るな」
「お父様!」
「帝王陛下や賢者にも近づくな」
「賢者もですか?」
「そうだな、特に賢者には気を付けるんだ、あの男は怖い、目に狂気が有る」
「狂気ですか?」
「そうだ、気を付けろよ」
「わかりました、お父様」
「それとなシルフィー、孫がほしいな」
「な!もう居るじゃないですか!?」
「ふふふふ」
公爵はニコニコ笑ってシルフィーを見ている。
「何せ、もう逢えないと思うとな」
「そんな事は」
「ならその男を処分するかい?」
「・・・・・・」
「代わりに私が処分してもいいんだよ」
「・・・」
「だったら逃げなさい、わかったかシルフィー」
「はい」
「それにもう帝国騎士も名乗るなよ」
「わかりました」
「元々騎士団はお前の私兵だ、彼女達は貴族の令嬢ばかりだ。連れていくかどうかは判断しなさい」
「はい」
シルフィーは既に泣きながら答えている。
「颯太と言ったな」
「はい」
公爵は俺を見ている。
「お前は図太いのか、のんびりしているのかよくわからんが」
「よく言われます」
「お前は従者としてやっていけるのだな」
「いやあー、どうでしょうか」
「それでは困るのだよ」
「まあ、やるだけやります」
「そうか」
「公爵様、俺が1人で居なくなってもいいと思うんですが」
「無論その通りだな」
シルフィーがビクッとして俺を見た、驚いたのか逃げられるのか複雑な顔をしている。
「おいおい、わが娘をからかうのはやめてくれないか」
「お互い様じゃないですじゃ、公爵様」
お互いニヤニヤ笑ってる。
「颯太よ、孫が欲しいな」
「わかりました、では今晩から」
「え!?」
シルフィーがびっくりして驚いてる。
ニヤニヤ、ニヤニヤ。
俺と公爵にからかわれてるにに気が付いた。
「もう、2人ともやめてちょうだい」
「そうだな、シルフィー、では達者でな」
「はい、お父様」
俺とシルフィーは侯爵領から出る事になった。