オチ
その日、天木流はいつものように寺を訪れた。
挨拶もなしに勝手に家に上がり込んで真嵩の部屋の戸を開くと、
「……南無阿弥陀仏……」
と、真嵩が3DSを前にお経を唱えていた。
「……なにしてんの?」
訊いてみた。
流に気が付いた真嵩は顔を上げ、
「ランポス、殺しちまった」
「……は?」
「だから、ランポスだよ。モンハンの」
真嵩のいうモンハンとは、いまちびっ子に人気のハンティングアクションゲームの略称で、ランポスとはそこに登場する、いわば雑魚モンスターだ。
流も当然それは知っていて――流が訊いているのはつまり、なんで3DSに向かって手を合わせてお経を唱えているのか、ということなのだが。
「0と1の世界でも殺生は良くないだろ? だから何も殺さないようレウス捕獲ミッションに挑んでたんだが……間違ってランポス殺しちゃったんだ……」
「はあ……」
「いや、ちげーんだよ。殺すつもりなんてなかったんだ。本当だ。逆鱗が欲しかったから尻尾狙って攻撃してたら、あっちから飛びかかってきたんだ」
「はあ……」
「……そしたらあいつ、真っ二つに……エフェクトも残さず消えちまった……」
「はあ……」
「殺しちまったんだ……俺が、あいつを殺しちまったんだよ……」
「で、悲しみを覚えてお経を唱えていた、と?」
「……うん」
流は思った。
……なんでこいつモンハン買ったんだろう?
「それより、お金の話していい?」
と、流は要件を促す。
「今回の除霊で使った小道具……吊るし紐、フラッシュペーパー、ウィッグ10個にマネキンの首……もろもろしめて十五万五千円。はい、これ請求書」
「え……ちょ、高くねーか? お前、ボッてんだろ」
「工作費と人件費も込みだからね。あの細井ってやつから五十万受け取るんでしょ?」
「だとしても高すぎる。客を釣ってきたいのりならともかく、てめーは特に何もしてねえ。十万だ。これ以上は払えねえ」
真嵩は腕を組んでそっぽを向いた。
「だいたいよ、幽霊の生首作って、振り回して、ちょっと演技しただけで十万でも破格過ぎんだろ。それで文句垂れるとか、ふざけんな。商売なめてんのか?」
「そのぶん仕事持ってきてるでしょ? ギブ・アンド・テイクってやつだよ。実は次の仕事もあるんだけどなー? 払わないんだったらその仕事もなしだねぇ……」
「……いのりも大概だが、テメ―も金の亡者だな」
真嵩は舌打ちをし、しぶしぶといった様子で、請求書を懐に入れた。
流は満足げな笑みを浮かべ、
「そういえば、いのりちゃんは? まだあいつと付き合ってんの?」
ふと思いついたように訊いた。
「しらね。けど、居心地がいいからしばらくは付き合うとか言ってたな」
「ふーん……いのりちゃんにしちゃあ、めずらしいね?」
「まあ、あの細井ってやつ、良い奴そうだったからな。まったく、いのりに憑かれるなんてあいつも大変だ――……ところで、さっき言ってた仕事ってなんだよ?」
「あ、それもう訊いちゃう?」
「勿体ぶんな、さっさと言え」
流は持ってきたカバンから書類を取り出す。
「えっと、次の仕事はね――」