1/8
-000-
「おうち、おうち、あたらしいおうち」
と。
その女は、フローリングの床にぺたぺたと手を当てがいながら、ブツブツとつぶやく。
時刻は深夜の手前。
真っ暗なリビングには、奇妙な音だけが木霊している。
彼女――椎名いのりは豹変してしまった。
この世の者ではない、“それ”に取り憑かれてしまったのだ。
人は“それ”を幽霊か、亡霊……または怨霊か霊体と呼ぶだろう。
呼び名は様々だが、しかし、“それ”について語るまえに、まずは細井竜虎の恋のエピソードから語ることにする。
……と、まあ。
これだけだと興味もクソもないだろうから前もって言っておくと、
本書は『怪奇録』である。
いまから語らうは、背筋が凍り、身の毛がよだち、
子供なら夜中にトイレに立てなくなるような怪譚の数々――
……よろしいだろうか?
ならば、心して掛かるがよい。