4.嘘つき遊戯
顔を俯かせて頬の熱を落ち着かせるため静かに深呼吸をしていると、くすくすと笑っていたハルの声がぴたりと止んだ。
……ん?どうしたんだ?
そろりと顔をあげてみる、と。焦がしたキャラメルのような色をした瞳に真剣さが加わり、じっとこちらを見つめていた。
「ハル――?」
「僕、キョウちゃんのことが嫌いだよ」
いつもニコニコしてるハルの顔は、最初から存在しなかったかのように表情が消え去っていて。本物の幽霊みたいだ、と変なことを思ってしまった。
「どうしたの?」 そう聞きたいのに突然の告白に身体が少しも動かない。ハルの目を見つめたまま逸らすことも出来ない。
ぴくり、ハルの下顎が少しだけ動き、そのまま唇がゆっくりと開く。
やめて、これ以上何も言わないで。
私の思いとは裏腹に、ハルはそっと息を吸い込み、そして。
「やっぱりキョウちゃんに嘘でも『嫌い』だなんて言えないよぉぉお」
私を抱き締めながらなんとも情けない声を出した。
「は……?」
「さっきキョウちゃんがエイプリルフールに付き合ってあげるよって言ったから、嘘で言ったんだけどやっぱり無理ぃ……」
「ごめんねぇ」と言いながら私の頭を撫で始めたハル。
…………。
「ぐえっ、いきなり何するのキョウちゃん!」
「あまりにも腹が立ったからつい」
「つい、でこんなに綺麗にボディーブロー決めちゃったの?!」
いや、今のはどう考えてもハルが悪いでしょ。唐突に嘘を吐くな、ついていけないんだから。
……あ、そうだ。
「ねぇ、ハル」
「いたたたたぁ…。うん?なぁに」
私に殴られたところを優しく擦りながらも、怒ったりせずに返事をするあたり流石ハルだなぁ、と思いつつ。
「私ハルのことが大好きよ」
ぽかん、と口を開けたままのハル。何だか石像みたい、と笑っていると目が見開かれていった。
「やっ、たぁぁぁあ!!!キョウちゃんがついにデレた……!!大好きだなんて……!」
「嘘だから、『大嫌い』になるのよ、馬鹿ハル」
「そんなあぁぁぁ」とこの世の終わりのような顔をして叫ぶ姿を見て、ざまぁみろと嘲る。最初に変な嘘をついたのはハルだから、ちょっとした仕返し。
だから"嘘の嘘"ってことも私だけの秘密にして、嘆く彼をそっと見つめた。