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「待って!」


するりと離れていこうとする彼を引き留めようと手を伸ばしたら、バサリと外套が落ちた。あわや露出魔になったかと焦ったが、辛うじて片手でバスタオルを握っていたから、痴女にならずにすんだ。

なんとか掴んでいた彼のズボンの裾から手が振り払われ、あっと思ったら頭から外套が被せられた。


既視感デジャヴですね、わかります。


「馬鹿野郎っ!」


「ぴゃっ!?」


怒鳴られたと同時に拘束される。

今度は彼の腕だとすぐに解った。


「グルゥ…お前ら、見たか?」


「「いいえ!何も見てません!」」


なんか肉食獣の唸り声が聞こえたような?

それよりも!痛い、苦しい、息が…。


声も出せなくて、外套の中からバシバシと彼を叩いて抗議するが、さらに締め付けられて意識が飛びそうだ。


「うぐぅ…、し、ぬ…」


私が最期の気力を振り絞って、死にそうだと言うと体が浮き上がる感覚がした。


ほぇ?昇天ですか?

死んでも息苦しいままだなんて神様ひどい…。


すごい速さで運ばれているのがわかり、まだ生きてると感じたが、もうどうにでもしてくれと、私は脱力した。





飛ばしていた意識をぐらぐらと揺すられて引き戻した。

誰かの「腕を離してください!」という言葉が合図になって、苦しかったものから解放された。


はぁ〜…、死ぬかと思った!


大きく息を吐き、気持ちが落ち着いたところで、もぞもぞと頭を覆う外套の出口を探すが見つからない。


「動くな」


低く否を許さない声でおっさんに動くなと言われ、一応止まるが、このままだと息苦しい。


「あの、か」


「街に戻るまでこのままだ」


人が話し終わる前にかぶせてきたよ。

ちょっとムッとして言い返していた。


「息が苦しいんです!暗いの怖いの!(あなたの顔が)見えないのイヤなんです!」


ぜぇぜぇ…、ゲホゲホっ!

一気に捲し立てて、本当に酸欠で咳き込むことになった。

おかげで、すんなりと頭の部分だけ出してもらえました。

グッジョブ私!


「ごめんね、大丈夫?」


覗き込んで声をかけてきたのは金髪の王子様で、うっすらと頬を染めはにかみ笑顔を見せてくれる。


ああ、御姉様には胸キュンものですね。

私的にはおっさんが良かったんだけど…。


おっさんでなかったのが残念だったけど、腕を離せって言ってくれたのは王子様の声だったと思う。窮地を助けてくれて心配してくれているから、へらりと笑っておく。


「ありがとうございます。大丈夫です」


お礼も忘れずに言うと、王子様は熟れたトマトみたいに真っ赤になった。真っ赤な顔でもごもご言って急に青ざめるという、よくわからない反応で王子様はフリーズした。

私ごときに真っ赤になるなんて、王子様は女性免疫なさすぎでしょうか?


「うちの隊長、力加減をしらなくて悪いねぇ」


フリーズしている王子様の後ろから茶髪のたれ目君が、あまり悪いと思ってない口調でにっこりと笑ってくる。

こちらにも、へらりと笑って返したら、「天使の微笑み」とか言ってウィンクしてきた。


そんなこと言われたことないです。

ちょっと鳥肌たったよ、イヤな意味で…。

たれ目君よりアダ名はやっぱりチャラ男ですね。


どうでもよいチャラ男より疵痕のおっさんが見たい、と半眼になったのは許容範囲のはずだ。


「あー、隊長。彼女の名前はなんていうんですか?」


ガシガシ頭をかきながら「隊長」と私の頭上に呼び掛けるチャラ男の視線を追いかけると、顔面凶器のおっさん顎が見えた。


「…しらん」


チラリと私を見て、すぐに目を反らすおっさんは素っ気なく言い放つ。


あれ?なんか嫌われた?

あっ!さっき、訊かれたときに私答えてないから?

だから?怒ってる?どうしよう…。

じわりと目頭が熱くなるのを感じた。


「あぁ〜、泣かないで?怒ってるんじゃないから、ね?隊長、ちょっと乱暴で残念なだけだから!」


私の頭を撫でながら、チャラ男がおっさんを貶めてるんじゃないかと思える、よくわからないフォローをしてくる。

隊長ってことはチャラ男の上官だよね?

その言い方って大丈夫なの?


「ダグ、貴様…」


地を這うような声音で隊長さんがチャラ男を睨み付けた。

ほら、怒られるよチャラ男。

おっさんのチャラ男を睨む眼差しも、いい。

あ、違う。ダメな方向に思考が走りそうになって自制心を働かせる。


「俺はダグラスっていうの。こっちのがロイスね。で、お嬢さんのお名前は?」


睨まれてもどこ吹く風といった様子で、チャラ男は私に問いかけてくる。

チャラ男はダグラスで、王子様がロイスと紹介されたが、おっさんから不穏な空気を感じるんだけど。


その態度でいいの?

そして、頭を撫でる手は止まらないの?


どうしたらよいのかと、助けを求めて見た金髪王子様は、青ざめたままひきつった笑顔をくれた。

頼りにならないね、うん。


ギリッと聞こえて、私に頭からチャラ男の手が離れた。

おっさん改め隊長さんがチャラ男の腕を掴みあげていたのだ。


「たいちょー、いたいっすー」


チャラ男は涙目で本気で痛がってるようだった。

隊長さんはチャラ男の腕にさらに力を込めているようで、ミシミシとやばい音がしていた。

頭上でスプラッタなんて見たくない、と慌てて私は口を開いた。


「あ、あの!紗綾さあやです!」


3人の注目が私に集まって顔が熱くなるが、隊長さんの力が弛んだのか、チャラ男がさっと腕を引いて逃げていた。


「私の名前、塚護つかもり 紗綾さあやといいます」


「ツクァモーリ=サーヤ?」


チャラ男が確認するように言うので、ちょっと違うけど頷いて肯定した。


「そっかぁ!ツクァちゃん、よろしくね!俺はダグって呼んでね?」


多少馴れ馴れしいが、チャラ男だからそんなもんかと思うことにした。

それよりも横で何やらぶつぶつ言ってる王子様がちょっとホラーなんですけど…。いったいどうしたんですか?


「つ、つ、ツクァモーリさん!僕はロイスです!」


言いきったぞ、と達成感溢れるトマト笑顔の王子様。

やっぱり、御姉様に激しく萌えを提供するタイプですね。

残念ながら私の萌えポイントではない。


「ダグラスさん、ロイスさん、よろしくお願いします」


何がよろしくなんだ、とセルフ突っ込みしながら愛想笑いと一緒に挨拶しておく。


それよりも隊長さんの名前なんでしょう?


今度は外套が落ちないように気を付けながら、手先を出して隊長さんのシャツを引っ張る。


反応がない…ただのしかb…(自主規制)。

わかってて無視してるよね?


くいっくいっ、くいっくいっ、ばしばしっ、ばしばしっ、ばしばしばしばしっ、こっち向くまで叩き続けてやると意固地になっていたら、観念したようにため息を吐いて隊長さんが顔を向けてくれた。


はぅ、やっぱかっこいい!


「隊長さんのお名前をお伺いしても?」


うっとりしながらも名前を訊くことは忘れない。

しかし、隊長さんは眉間に皺を寄せただけだった。その様子にチャラ男が困った顔で口を挟んできた。


「あー、ツクァちゃん、隊長はじゅ」


「もう名乗った」


「「「えっ!?」」」


チャラ男の言葉を遮る隊長さんに驚く3人がいる。

私はいいのよ、私は。チャラ男と王子様の2人まで吃驚しているのは何故ですか?

いや、まぁ、そんなことより、名乗ったって?

いきなり異世界トリップ、巨人遭遇、拘束擬き、もろタイプのおっさんと出会い等々で混乱していた私は彼の名前を聞き流していたらしい。


う〜〜〜ん?

……あっ!

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