episode5
旭日によって通された部屋は、高級ホテルのスイートルームさながらだった。調度品も全てそれなりの物が揃えられている。
「わあー! 今日はここに泊まるの?」
「今日から、な」
玄関扉が閉まると自動でオートロックが掛かったのか、短い電子音が聞こえた。
「なんだか、高そうだけどお金平気なの? 私、あんな状態でここまで来ちゃったから一銭もないんですが……っ」
枝真は、指をもじもじとさせながら旭日の顔を覗き込む。すると、何かを思い出したように旭日が口を開いた。
「ああ、言ってなかったけど、ここ警視庁の寮なんだ」
「は?!」
「うちの警察官なら、志願すればだれでも入れる。階級によって部屋の質に多少違いは出るだろうが。悪くないだろ? 三食ついて、メイドが部屋の掃除から洗濯からベッドメイキングから何から何までやっといてくれるから、独身の男には嬉しい条件だよ。まあ、基本俺は寝に帰ってくるだけだったけど」
枝真は口をあんぐりと開けて固まった。
警視庁の寮ということは警察関係者がこのホテルに五万といるということ、そして警視庁と言えば、枝真を殺そうとした組織であること。いわば、敵の巣窟でこれから生活していくことになる。
旭日のたまに見せるこの大胆な行動は、天然なのかなんなのかと枝真は脱力する。
「これからこの部屋を出る時は、必ず俺と一緒の時にしてくれ。枝真は、指名手配されてるし身分証もパスポートしかない。さっきは、馴染みの支配人相手だったから、なんとかあれで誤魔化せたが。万が一外で職質でもくらった日には、色々とめんどうだ。当分の間は、俺と一緒に行動。OK?」
「うん、わかった」
「わかればいい。明日、午前中俺は仕事で家を空けるけど午後には戻るから。お前のデバイスと、……そうだな。服とか……生活用品の買い出しに行くか」
「うん! ところで、何で旭日くんと一緒の時だけ外に出ていいの?」
「街中に警視庁を介して、端末のひとつひとつを監視する検知器が仕掛けられてる。迷子の子供や、徘徊してる認知症のじいさんばあさん、犯罪者もこれでスキャンされれば一発で居場所が知れる。デバイスを所持していない人間も例外じゃない。不法行為者として捕まるだろう。俺は内部の人間だから、それを掻い潜る道順を知ってる、だから一緒に行動しろってこと」
「わっ……わかった」
枝真は、げんなりとしながらため息をついた。
これから旭日と二人きりの甘い同棲生活……が始まるわけだが、今の話を聞いた後ではとてもときめく気持ちにはなれないのであった。
「とりあえず、風呂沸かしてくる。食事はルームサービスでいいか?」
「うん、ありがとう。旭日くん」
「部屋はどこでも好きに使っていいから」
「うん」
バスルームの方へと旭日が歩いていくのを確認して枝真は、リビングのソファに腰かけた。辺りを見回すと、一室ドアが半開きの部屋を見つける。なんとなく気にかかりその部屋へと足を向ける。
踏み入れた先は、寝室だったようで。ベッドやクローゼット等が置いてあった。
枝真は、明かりをつけると辺りを気にするようにキョロキョロとしながら、床に膝を付けてベッドの下を覗き込んだ。
「こーゆう所に、いかがしいものがきっと……」
自分でも何をしてるんだろうと情けなくなるが、年頃の男子の部屋と言うのは異性にとっても気になるものである。
「うーん何もないかぁ」
何も発見することができず、渋々退散しようとした枝真の瞳に、何かフワフワした丸いものがとまった。




