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episode2









 部屋に入ると、見たこともないような機材が隙間なく並べられており、枝真は入るなり物珍しそうにキョロキョロと首を振ってしまった。お世辞にも綺麗とは言えない室内は、まるで床にゴミ箱でも転がしたように荒れていた。


 老人は手近にあった椅子に座って、パイプタバコを口に咥える。そして、少女にも向かい側に置いてある椅子に座るように目配せをした。


 枝真は、散乱した床のゴミを踏まないようにゆっくりと歩き進めると目当ての椅子に腰掛けた。



「聞きたいこととはなんじゃ?」



 老人が、紫煙を吐き出しながら「何か飲むか?」と枝真に尋ねてきたが、少女は首を横に振った。



「今、西暦何年の何月何日ですか……?」


「20XX年の4月6日じゃ」


「20XX年……、じゃあやっぱりここは未来の世界なんですね……っ」



 そう言った途端、老人が片眉を上げて枝真を見つめる。



「お前さん、もしやと思っていたが過去から旭日に連れてこられたのか?」



 老人の言葉に軽い動揺が走った。そもそも過去から来たことを未来の人間に知られていいのかどうかさえわからないので、枝真は戸惑ったような表情になり老人から視線を逸らした。


 少女の様子に図星だと確信した老人は、左腕につけていた腕時計に指を走らせた。すると、空間に何層ものパネルが浮かび上がってくる。それをセレクトするように振り分けて、ひとつのパネルを指で軽くはじき枝真の目の前まで飛ばしてきた。



 空中浮遊して目の前まで運ばれてきたパネルを視界に移し、枝真は言葉を失った。そのパネルに書いてあったのは、捜索願いを出されている自分のものだった。依頼主は警視庁になっており、報酬金額は莫大なものだった。



「これは……っ」


「今、わしがお前さんの事を通報すれば多額な報酬金が手に入る。いくら旭日と知り合いだからと言って、わしらはビジネスライクな関係じゃ。かくまって置く義理もないからのぉ」



 試すような目を向けてくる老人に枝真は、無言のまま見つめ返した。



「お前さんはなんの為に、過去から未来へ来たんじゃ? 金儲けか? ん?」



 ここまで見透かされてしまっては、もう誤魔化すことは不可能だと枝真は判断すると無謀な賭けだったが自分の事をこの老人に打ち明ける事にした。



「私はっ……私は、この時代に作られたレプリカ……クローン人間なんです。訳あって過去の時代に飛ばされていたのですが……。この時代に帰ってきたんです」


「何のために?」


「新しく人生を始めるためです。誰かのコピーとしてではなく、一人の人間のとして、ちゃんとやりなおしたくて……それでっ」



 老人は「ふぅん」と枝真の話をつまらなそうに肩肘をついて聞いていた。



「なんじゃ、つまらん。私利私欲の為にわざわざ時をかけてここまでやってきたのかと思っていたのだが、普通の人間として生きるため、とは……興ざめじゃな」



 はき捨てるように言う老人に枝真は唖然とした表情を向けた。



「私にとっては、大事なことなんです……!」


「あー、悪かった悪かった。最近刺激のない平凡な日常を送っていたもんじゃから。ついつい期待してしまったんじゃ。気にせんでくれ」



 もう何も言うなという意思表示なのか、老人は咥えていたパイプを書類やゴミだらけの机の上に乱暴に音を立てて放った。



「あの、私のことはどうか旭日くん以外の警察の人には……」


「ああ、安心せい。最初からお前さんを警察に売る気はない。ただこうでもしないとお前さん自分の話をしようとしなかったじゃろうからな。旭日から聞いてもよかったんだが、わしは裏でこそこそかぎ回るのはあまり好きではないからのぉ」


「……そうですか。よかった」



 安堵したように枝が胸を撫で下ろしたのを見て、老人は軽く笑う。



「話はそれだけか? 用がないならお前さんは少し休め。アークが墜落したとき頭を強く打っておるし体もまだ本調子じゃないはずじゃ」


「いえ、もう全然。こう見えて体は丈夫みたいです。あの、挨拶が遅れましたが、いろいろとお世話になります。ここに置いて頂いたお礼といってはなんですが、掃除とか洗濯とか私にできることさせてください」


「病み上がりが何言っておる。とっとと寝ろ」


「いいえ! これくらいはさせてください」



 枝真は自分の胸をトンと叩いて微笑むと、椅子から立ち上がってゴミだめの室内を掃除し始めた。どうしたらこんなに汚くすることができるのだろうと思わず口走ってしまうほどに汚い部屋だった。


 老人は「勝手にしろ」と言いつつ、表情はどことなく嬉しそうだった。










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