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銀色のアイオリア  作者: 天羽八島
第四章「流浪の英雄姫」
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第八十八話「北部動乱」

 直系皇族アレキサンダー・アイオリアによる謀叛勃発、新生アイオリア帝国と名乗る反乱軍は総参謀長に先日から失踪していたシア・バイエルライン中将を据え、同調したサラセナも帝国西部に数万の戦力で進軍。

 衝撃的な内容の本国からの報せをベッドの上でメイヤの口から起き抜けに聞いたセフィーナの表情は憮然としていた。


「間違いないのか?」


 その問いにメイヤが早馬の一報だから、細かな情報は無いけど概要には間違いないだろうと答えると、セフィーナはモソモソとベッドから起き出し、寝間着のまま窓際の小さなテーブルに座ると大きく息を吐いて組んだ両手を頭に当てた。


「遂に起きたか、それもシアがアレキサンダー兄さんの側についたというのは何なんだ?」

「……」


 メイヤは答えなかった、と言うよりも答えようが無かった、セフィーナも驚愕しただろうが、それは自分も一緒だからである。

 アレキサンダーの謀叛は予想できたが、シアのそれを予想する事はセフィーナにも予想外の出来事だろう。

 再び大きな息を吐くと、セフィーナは両肘をテーブルに付き手で顔を覆い沈黙する。

 一分、二分……

 朝の時間は過ぎ去る。

 メイヤはセフィーナの側に立ったままでいた。

 何をしているのか解っている。

 ショックは受けている、間違いなくショックは受けているのだが考えているのだ。

 今、自分がどう動くべきか、アイオリア帝国の為に自分がどうすべきなのかを考えているに違いないと思ったからこそ、傷心の幼馴染に声もかけないという非情が出来る。

 考えの気を散らさない様に努めているのだ。


「メイヤ……」


 立ち上がるセフィーナ。


「なに?」

「とにかく今は予定をこなす、本日の会見や大使としての予定は一切の変更無しだ、アイオリア帝国内では問題が起きているがあくまでも内部問題だ、南部諸州連合との政治的な関係は一切の変化はない」

「わかった、じゃあ着替えよう、それとも着替える前に軽く朝食を食べる? 食べるなら何がいい?」


 その決断に顔色一つ変えず、コクリと頷いてから朝食の有無を訊ねてきたメイヤに今日は忙しそうだからしっかりとした具のサンドイッチが食べたいな、とセフィーナは答えた。



            ***



 アイオリア帝国再びの内乱。

 それも今回は大貴族では済まない、西部に侵攻したサラセナと共同歩調を取りながらアイオリアの第二皇子がそれを起こしたのである、当然数日の内に南部諸州連合でもトップニュースとして情報や憶測が駆け巡る。


「セフィーナ皇女が全ての予定をキャンセルして、反乱軍と正規軍の両者を説得する為に帰国するらしい、共和党を通じて政府に許可を求めたらしい」

「連合政府が認めらないならば帰国を強行する可能性もある」

「セフィーナ皇女はフェルノール派、ゼファー派のどちらに付くかは明確にしていない」


 人々の関心は自国にて時の人となっている帝国の至宝セフィーナにも注がれ、数々の噂が立つ。

 上記の中でも初めの二つは完全な虚偽である、反乱の報からセフィーナは暗殺未遂事件からの連合政府からの強い希望を受けて周囲の警備を強化したが、予定は変えなかった。

 政治的な中枢であるアルファンス州の各地での公務をしっかりとこなし、もちろん帰国なども求めていない。

 そして三つ目に関しても殆ど虚報だ。

 セフィーナは反乱勃発の報が入ってすぐの連合政府からの政治的な立場の確認に対して、


「まだ情報不足、情勢不安定な所がありますが、セフィーナ・ゼライハ・アイオリアはパウル・ゼーディ・アイオリア皇帝陛下の皇女であり、臣下である事は変わりません、陛下に対して弓を引く所業には決して至りません」


 と、明確に返事をしていた。

 パウル皇帝を擁する東部首都に拠るフェルノール派。

 第二皇子アレキサンダーの所領中部のゼファーに拠るゼファー派。

 まさか新生アイオリア帝国と旧アイオリア帝国とする訳にはいかず、便宜的な意味で名付けられた両勢力の名前を出して答えなかっただけで、立場はハッキリさせたのだ。

 それでもこういう噂が立つのは、それほどに帝国内で起こっている対決に対して、南部諸州連合の民衆が戸惑いを覚えているからである。


「憎らしいほどに強大で尊大だった帝国が、戦に敗れて姫を人質同然で南部に送り、あまつさえアイオリア同士で戦いを始めようとしている」


 両国の長い歴史の中で起きなかった異質な状況に、一部の者は歴史という物が大きく動き始めているのを感じていた。




 元々静かではなかったセフィーナの周囲は更に騒がしさをました、皇帝を擁するフェルノール派への支持はハッキリしていたがマスコミの眼は国を出ている時に親兄弟達が戦いを始めようとしている状態の悲劇の皇女に注がれる。

 それでもセフィーナは公式な見解は変えなかった。

 あくまでもアイオリア帝国の内部の問題であるというコメントに徹し、サラセナの侵攻にしても自治領の反乱であるから、南部諸州連合との関係には何も影響が無い、と南部の様々な要人達に会食や会談の席で訴えていった。


「十七、八の少女が敵地にて祖国の危機をどうにか回避しようと努力する姿は哀しみを越えて美しかった、彼女は我々を説得する様にフェルノール派は必ず反乱軍を討ち果たし、アイオリア帝国はすぐに秩序を回復すると約束した、娘のような歳の少女の言葉だが英雄姫セフィーナ・ゼライハ・アイオリアの約束ともなれば我々も雑に扱える筈もなかった」


 とは、この時にセフィーナと会食した民主党のある議員の言葉であるが、実際にセフィーナは反乱の報を聞いた数日間、南部諸州連合の政治家達に必ず私が支持するフェルノール派が勝てるに違いないと積極的に発言していた。

 時の人となり、今や帝国、連合の両国で影響力を持ちつつあるセフィーナに衝撃の続報が入ってきたのは反乱軍決起の初報から二週間後だった。


「帝国北部ゼイン周辺にて大規模反乱発生、反乱軍を率いるのはアルフレート・ゼイン・アイオリア第三皇子、アレキサンダー第二皇子のゼファー派に同調をしている模様」


 その急報は南部地域のアルザード州の知事との会談を終え、壇上からの演説の最中、会場に駆け付けてきた記者からもたらされた物であった。

 まさかの内容に驚いた記者達や観衆の無数の視線がセフィーナに注がれる。

 

「……」


 壇上のセフィーナは言葉を発しなかった。

 唇を噛んでから、斜め下をしながら数秒見つめて演説用の小さなテーブルに両手をつくと……その場でゆっくり前のめりに倒れたのであった。



                           続く


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