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銀色のアイオリア  作者: 天羽八島
第一章「帝国の英雄姫」
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第八話「たっての希望による」

 戦争とは政治の延長と、よく唱えられる言葉である。


『だが、この場合はそうは言わんな』


 リンデマンは僅かに眉を動かした。


「カーリアン騎士団を殲滅せよと?」

「そうだ、それが君の復帰の任務だ」


 南部諸州連合軍統合司令官執務室。

 その主であるモンティー・オーソン元帥は夕日が射す窓際に立ち頷く。

 両手を後ろで組んだまま、座る者がいない執務机の前に立つリンデマン。


「ヴァルタ平原でセフィーナ姫に負けすぎましたな、このままでは共和党が勢いづいて選挙で負けてしまう、そんな所ですか?」

「そんな事は関係ない、下手な詮索は止めたまえ」


 リンデマンの容赦の無い言い方に、オーソン元帥は太めの身体を振り向かせ、不機嫌な口調で答えた。


「ですかな? 閣下はかなりの民主党支持者と事情に疎い私でも知ってますが」

「リンデマン中将、君は軍人だ、軍人ならば上官の命令を速やかに遂行すべきだろう」

「了解しております、無論、命令不服従などという事は致しませんが、私は作戦には必ず軍事戦略が付随すると信じてまして、元帥にその説明をして頂きたいのです」

「私は君と考えを同じにしている訳ではない」

「なるほど、さすが閣下は軍事戦略に置いて、今までの常識を超越していますな」


 リンデマンの顔に浮かぶ明らかな嘲笑。

 身体は外を向いているが、窓ガラスに映るそれがオーソンに見えているのはわかっている。


「行きたまえ、作戦準備等は編制補給担当をそちらに向かわせる」 

「畏まりました、元帥閣下」


 明らかにお前の顔などもう見たくないと言いたげな元帥に、リンデマンは余計くらい立派な敬礼をして見せ、執務室を退室した。


「御主人様」


 統合司令本部玄関からの広い階段を歩いていると、建物の前で待っていたヴェロニカがリンデマンに駆け寄ってくる。


「今日のお勤めは終わりでしょうか?」

「まだだ、私が赴任する新しい師団の本部に顔を出す」

「では馬車を呼びます、ここでお待ち願えますでしょうか?」

「わかった、頼む」


 互いに笑みを見せ合う訳でもない。

 短い会話を交わし、階段を降りきった石畳の路上に脚を止めるリンデマンの側で、ヴェロニカは待たしていた馬車を手招きで呼び寄せる。


「御主人様、新生師団の本部はハンフクリフトで宜しいしょうか?」

「そうだが、なぜだ?」

「ヴァルタ平原会戦でほぼ全滅した第八師団の施設をそのまま使えという事なのでしょう?」

「そういう事だ、勘がいいな」

「勘という程では、推測できることです」

「頭の良い子だ」


 フッと笑いを見せ馬車に乗り込むリンデマンに頭を下げ、ヴェロニカは馭者にハンフクリフトの前の第八師団の本部のあった場所に、と行き先を告げ、主人に続いて馬車に乗り込み、正面に座った。


「ヴェロニカ」

「どうされましたか?」

「モンティー元帥は頼もしい、私には一切理解がし難い軍事戦略を持っている」

「そうなのですか? 何か変わっていられたのでしょうか?」


 素直に疑問を呈するヴェロニカ。

 軍事には知識の乏しい彼女だが、主人の言い方からそれを文面通りの意味には取らなかった。 


「ああ、相手の姫に痛い目に会わされて国民に責められたから、今度は名のある敵を叩き返さないといけないという事だ、こういうのをヴェロニカはどう思う?」

「やり返す必要はあるのでは? やられっぱなしでは国民も意気消沈でしょう」

「確かに……しかしまた返り討ちをあったら目も当てられないだろう、必ず勝てる根拠はない、今回は負けたなら、きっと次は勝てると何も作戦なしに金を積み上げるポーカーみたいな物だ」

「それはそうですね」


 対面に座り主人の指摘に頷くヴェロニカ。


「戦いはやったやり返したの綱引きでは無い、動機が自国のごく個人的政治理由にあるのならもうそれはもう戦略ではない、ただの自己保身だ、モンティー元帥は退役後に上院議員を目指しているらしいからな、不名誉な敗戦は勝利で塞ぎたいのだ、こうなると滑稽で笑えてしまうよ」


 自身のメイド相手に、痛烈なモンティー元帥批判を展開するリンデマンだったが、


「まぁいいさ……軍人は命令に従わなければいけないからな、復帰したばかりはせいぜい大人しくしていよう」


 と、矛をおさめ腕を組むのだった。



         ***



「それはそれは、鉄面皮リンデマンも丸くなったわね、元帥閣下の個人的な政治動機に基づく作戦と察しながらも指令には従うと?」


 新生師団第十六師団本部。  

 師団長室の執務机に座る相手に、アリス少将は遠慮なく言い放つが、


「当たり前だ? 軍人は征けと言われたら征かなければいけないのだ、違うかね?」


 両手を顔の前で組み薄笑いを浮かべたリンデマンはそれに答え、逆に問う。


「確かにそうだけど……今、カーリアン騎士団に手を出す意味は無いんじゃないの?」

「だろう? しかし戦略的意義があろうがなかろうが将来に向けた自己保身の前には関係ない、というせっかく新たな戦略眼を統合司令官閣下は示してくださったのだからな、言われたらやるまで、我々は軍人だからな」

「そうね……命令ならば、私に下命された新生師団の副師団長への就任とかも甘んじて受けなければいけないわね!?」

「そうだ」


 鋭さを増したアリスの瞳の剣を、リンデマンは素手で軽く払い退け、


「ちなみにその人事は新生師団長たっての希望から出た物だよ」


 と、付け加えた。


「これはこれは光栄の至り」

「気にするな、これでも私は君の軍事的な手腕をある程度の評価に値すると見ているのだ」


 皮肉に対しても、平然とこう返答が出来てしまう同期の出世頭にアリスは言葉の戦闘を諦め、彼の後ろに控えるメイド姿の少女に視線を送る。


「ヴェロニカを師団長室に入れてしまって問題は無いわけ? それとも許可を得たの?」


「許可とは? 彼女は私の副官だよ」

「え?」


 素直に驚くアリス。

 そんな彼女にヴェロニカ自身が微笑んだ。


「特務として許可を得ました、あくまでも御主人様が勤務、作戦中のみの特務少尉としてです」

「な、なんていう……」


 リンデマンの復帰条件にヴェロニカが噛んでいたとは感じていたが、それは副師団長に自分という人事だと思い込んでいたアリスは呆然としてしまう。

 いかに限定的な特務少尉としてもヴェロニカが軍人になるまでは予想外だった。


「さてアリス少将……我々のさしあたっての任務であるカーリアン騎士団の殲滅について、互いに知恵を出そうじゃないか?」


 リンデマンは唇の隅を僅かに上げて笑う。

 その笑い方は士官学校時代から変わらず、人の感情を逆撫でする類いの物であった。



続く

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