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銀色のアイオリア  作者: 天羽八島
第三章「奮闘の英雄姫」
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第六十四話「帝国皇女全権委任」

 朝の会議室。

 セフィーナが会議の冒頭に切り出した話に目を見張ったのは黒髪麗しい副司令シアだった。


「私がサラセナに!?」

「そうだ、司令官の私が反乱軍と対峙している時に部隊を離れるのは問題があるという貴官の指摘は正しい、しかしサラセナに向かい反乱軍の背後関係を探り、関係があるならば矛を納めさせるという任務も難しく重要だ、それを任せるのには貴官が適任と考えた」


 セフィーナは説明する。

 アルフレートに言われた事から、ベッドで一晩考えた結果だ。

 ヨヘンであっても能力的には遜色がないが、ヨヘンは副司令のシアと違い、一万の実戦部隊を率いる立場という事と、サラセナの出方が強硬的であった場合の性格的な忍耐力はシアがあると判断したのである。


「かの自治領がもしもシュランゲシャッテン公の背後にいるとわかった場合は矛を納めさせると言われましたが、その方法は……」

「任せる、シアが恫喝が効くと判断したならすれば良いし、柔軟に行った方が良いと思ったならそうすればいい、あくまでも私の代理人としての任務だ、私は失敗を心配はしていないが万が一、結果に何が起ころうとも私が責任を負う、シアには何の責めはない、皇女として親衛遊撃軍司令官として全て任せる全権委任だ、もちろん経費等は気にしなくても良い」


 やや戸惑いの顔をしてのシアの問いに、力強い口調で宣言したが、


「ダメか? もしシアが断るなら、この工作自体を中止にしようとも考えているが……」


 と、シアが専門外と言って良い任務を断るのも無理がないと心配も見せるセフィーナ。

 そんな上官の表情を汲み取り、シアは顔を上げ首を振る。


「いえ、確かにこの反乱を力で解決しようとすれば百害あって一利なしです、さらに中西部の治安は怪しくなり、サラセナや南部諸州連合が利するだけです、私も微力を尽くす次第ですが……」

「どうした?」

「いえ、小耳に挟んだのですが、昨日城にお寄りになられたアルフレート皇子殿下は今度はシュランゲシャッテンに行かれるとか」

「うん、シュランゲシャッテンは代々良き領主と知られているし、皇室との縁もある、アルフレート兄さんも何が原因で謀反にまで及んだのか、どうにか平和的解決は出来ないのか、という思いありシュランゲシャッテン公に会いたいと言っていてな」


 セフィーナの口調には微妙な迷いがあった。

 アルフレートの気持ちが分からない訳では決してないが、シュランゲシャッテン公がその気になれば、帝国の第三皇子を人質に取る事だって出来てしまうのだ。

 裏で糸を操っているとみるサラセナに行くのとは直接的な危険度が違う。

 名目上、自治領であるサラセナは来訪した皇族に害をなす事は外交的な立場からは考えられないが、シュランゲシャッテン公は謀反軍であり、何をされるか判らない。

 セフィーナはそんな心配をしていた。

 

「私もアルフレート殿下に随員の一人としてシュランゲシャッテンに入らせてくれないでしょうか、それからサラセナに向かいます」

「な……サラセナに向かう前にシュランゲシャッテンに!?」

「是非とも」


 シアの是非とまでいう申し出に、セフィーナは初めは少し驚いたが、すぐにその意味を理解したようで、


「ああ……なるほどな、私もシアに全権委任と言った手前だ、それくらいの事は兄上にねじ込んでみよう、用意を早くな、兄上は昼にはここを発つと仰っていたからな、それにしても証拠を捜すなら少しでも困惑はしているであろう当事者の元の方が効率的と思った訳か、いささか大胆だが上手くいくと良いな、何度も言うが費用は糸目をつけんから、今の状態に不安を持ってる奴を見つけて上手くやってくれ」


 と、まるでシュランゲシャッテンで何をしようとするかが解っているような顔でそう言ったのがシアにとっては正解であったので、黒髪の美人将官は御推察、流石ですと帝国皇女に笑みを浮かべたのだった。 



         ***



 セフィーナの付けた約五十名の警備兵を含めた随員と共にアルフレートはシュランゲシャッテン公領に向かう為、コモレビトを出立する。

 始めアルフレートは随員は自分でここまで連れてきた者だけでいい、シュランゲシャッテン公を刺激したくないから、と言ったが、


「実は考えがありまして……随員の中に私の部下を混じらせたいのです、それに四万の兵を揃えたシュランゲシャッテン公は兄上の来訪自体に刺激を受ける事はあっても、決して五十名の随員を恐れる事はないと思いますよ」


 と、セフィーナが事を明かし、アルフレートの協力を得て随員の中の一人としてシアが混じり込んでいる。

 偽りの身分はアルフレート付の二等書記官。

 荷馬車に揺られ、西部特有の荒れ地を三日程かけて行くと、西部有数の大貴族シュランゲシャッテン公領に着く。

 荒れ地から景色は緑豊かになった。

 開墾して数代に渡って築き上げてきたのだろう大きな林檎農園が広がり、時期を迎えた実が虫除けの袋を被っている。  


「林檎か……シュランゲシャッテンの林檎は美味しいと聞くけど食べた事はないな」


 東部出身者が西部の特産品を口にする機会は滅多にない。

 ガイアヴァーナ大陸は広大で、中部を挟み西部と東部では特産品は全く違い、食だけでなく様々な文化も変わってくる。

 貴族にしても西部と東部では色が変わり、西部貴族は気取らないが田舎者、東部貴族は洗練されているが鼻が高い、と中部の貴族達は歴史的に相性が良くない両者を言う事が多い。

 歴代の皇帝達は誰もが少なからず、東部、中部、西部の貴族達の政治的な対立問題に直面してきているが、現在のそれは最悪に近い状態である。

 なにせ年に二度も謀反が起きているのだ。

 戦ともなれば目の前に広がるのどかなリンゴ農園も戦火を受けるかもしれない。

 帝国の臣民が努力して開墾した土地が帝国臣民同士の戦いで台無しになる、こんな愚かな事は世の中にはそうはない。


「どうにかしないといけない」


 シアは表向きは二等書記官補、実は護衛としてついてきたルフィナ兵長の横でポツリと呟いて切れ長の瞳に決意を込めるのであった。




 一団がシュランゲシャッテン公領に踏み込むとすぐに警戒部隊に接触を受ける、元々誤解を避ける為に姿を隠さずに行動していたので特に驚く事もなく、警備隊長が接触してきた部隊に使いを意味する旗を立てながらアルフレートが率いる一団だと説明すると、相手の隊長の方が狼狽した上に馬車から姿を現したアルフレートに対して土下座をする始末だった。


『やはりアイオリアの名か、それとも私兵の数はともかく謀反という意思統一を相手が欠いているのかしら?』


 シアは判断が付きかねたが、アルフレートが相手の隊長に使いなので交戦や偵察の意思は全くなく、シュランゲシャッテン公に会いたいという意思を伝えて、城までの案内を頼むとその願いは簡単に叶い、シュランゲシャッテン公領の本拠地であるマイラオス城に案内されたのだった。

 マイラオス城は巨大な城塞都市であり、高い城壁の中に数万の民が住み、その更に中央に本城がそびえ立っていた。

 少なくともここまで武器を突きつけられる事なく入ってこられたのは、シュランゲシャッテン公イアトスの性格か、アイオリアの為せる事なのかは別としてシアとしては反乱軍の敵意という物を強く感じる事は無く、拍子抜けと言ってしまっても過言ではない。


「随員の全員を通しての会見は不可能です」


 シュランゲシャッテン公の副官から告げられたアルフレートは、自分だけが行くよ、と答え会見に望んだので、随員は当然待機となり、何人かに分けて部屋を案内された。

 そこでも丸腰の随員に油断しているのか、こちらを敵と見なしていないのか、警備は薄くシアはその日のうちからルフィナを連れて見学宜しく城内を歩き回り、行動を開始する事が出来たのであった。



 一週間が過ぎる。

 シュランゲシャッテン公イアトスとアルフレートの話し合いの内容は極秘扱いで伝わってこず、アルフレートは二人の側近と城のもっと良い部屋に泊まっているので知る由もないが、話し合いが悪い方向には行ってないのが待機中の随員達には肌で解った。

 初めから警護は厳しくなかったが、待遇までも色々と良くなり、皇族の使節団随員という物らしい扱いになったのである、中には警備兵や城内の役人と挨拶や世間話をするまで親しくなった者も増えて、シアのやろうとしていた任務も考えていたよりも上手くいき、更に四日後にはシアはアルフレートの許可を得て、城側にはセフィーナに交渉の中間報告をするという名目でマイラオス城を数人の護衛と共に後にし、北のサラセナに向かったのであった。




                    続く


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