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銀色のアイオリア  作者: 天羽八島
第一章「帝国の英雄姫」
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第五話「ー戦略教授復活ー ある退役中将の帰還」

「敵軍が何の考えもなしに砦に放った出火が偶然にも軍を混乱に落とし込んだ? 五万をもってして八千に負けたのは偶然だと言いたいのか!?」


 その口調は懐疑に満ちていた。

 飲みかけのティーカップをテーブルに戻し、男は安楽椅子に背中を掛ける。

 三十代後半。

 金髪をバックに上げた男の口元には余裕の笑み、彼の後ろにいる若く可愛らしいメイドまでもそれに倣ったのか、薄い笑みを見せているように見えてくる。


「そんな馬鹿な話を私に信じろと?」

「いや、その、リンデマン教授にしてみれば別の見方も御座いましょうが……」

「別の見方もではないよ、ベルリーニ中尉、私は真実しか見ていない」

「はぁ……しかし軍の広報部は」

「酷い仕事だな、広報部も現場もだ、遺族には何と詫びる? 偶然で三万もの兵達の命を失い、それに数倍する遺族を作り上げてしまったと言うのか?」


 声を荒く上げたりはしなかったが、男の問い詰めるような言葉に、まだ二十代後半の青年将校ベルリーニ中尉は応接ソファーで返答に窮する。


「ベルリーニ中尉、君は作戦参謀としての勤務はないだろう?」

「ええ、まぁ、自分は人事畑でして……」

「そうか、なら君に話しても仕方ないが、エリート軍人という者は大した意味もなく負けず嫌いなんだ、敵に自分の意図を見抜かれての敗北という単純で明快な理由を複雑化して、回避しようとする、今回の戦は状況と結果を観察すれば一目瞭然、ただ単に全てしてやられたんだよ」

「は、はぁ、なるほど」


 ベルリーニ中尉も失礼な事を言われた事には十分に気づいてはいたが、彼には任務という仕事があり、ここでソファーを立ってしまう訳にはいかなかった。


「説明してあげよう……」

「御主人様、冷めてしまっています、コーヒーのお代わりをお持ちします」


 戦況判断について述べようとする男がコーヒーを口に運ぼうとした所に、メイドが彼のコーヒーカップを盆の上に取ってしまう。

 ショートボブカットをした黒髪、黄色系の肌の美少女。


「ヴェロニカ、そんなに時間が経ったか?」

「ええ、中尉が見えられてからかなりのお時間が経っています、差し出がましい事を申し上げますが、早く結論を告げて差し上げた方が中尉には宜しいかと思います」

「そうだな、中尉に戦術を講義しても意味のない事だ、私も大人げない事をした」


 彼はメイドの忠告に素直に頷きつつ、また失礼な物言いをして安楽椅子から立ち上がり、ベルリーニ中尉を見下ろした。


「当然として幾つかの条件を呑んでいただくが、宜しい、このゴッドハルト・リンデマンも一度は一線は退いたとはいえ、軍学校に籍のある身、軍が望むのならば、戦略戦術講師は一時期休ませてもらい現役に復帰しようじゃないか」


 あくまでも尊大な態度を崩さない男であったが、総司令部たっての希望であった退役軍人の復帰という任務を果たせたベルリーニ中尉は心の中でホッと息をつき、二度と目の前の男とは関わり合いになりたくないと思うのだった。 



         ***



 ゴッドハルト・リンデマン退役中将。

 南部諸州連合アリエス州の出身の現在三十八歳の独身。

 軍士官学校を次席卒業、候補生時代からその英邁さを知られ、典型的なエリート軍人の線路に乗るかと思われたが、その知性と引き換えに彼には幾らか他の要素が欠乏していた。

 必要以上の協調性を一切見せず、士官学校内での暴力的な上下関係をことさら嫌った。

 相手の考えが自らの知性から導き出された答えと外れた場合などは、教官が相手であっても、罵倒という料理に嫌味という調味料をタップリかけて頭から被せるのだ。

 それが無ければ、教官連中にも睨まれず、首席卒業だったに違いないとは、首席卒業者自身も認めている程であり、士官学校で行われる数百人単位での作戦演習では、卒業前の演習までに四回の司令官を務め、その戦い全て見事に勝利し、注目されていた。

 五回目である卒業前の最後の演習は、南部諸州連合士官学校では今でも伝説となっている。

 天才士官候補生リンデマンの噂を聞いた軍司令部が参謀本部が当時、若手参謀のトップであったエリクソン少佐を指導役として演習に参加させ、リンデマンと対決させたのだ。



 士官学校にやって来たエリクソン少佐はいくら噂のリンデマンとはいえ、所詮はまだ士官学校生である、机上と実際の戦術用兵の違いを見せると演習が始まる前から周囲に吹聴していた。

 少佐はオーソドックスではあるが、ダイナミックな勝利を上げる両翼からの包囲作戦でハッキリとした差が出る殲滅を企図する。

 リンデマンの陣に対し、漢数字の三を描くように三枚の薄く長い横陣を並べ、第一陣が戦闘状態に入った後、タイミングを見計らい二陣、三陣が左右に別れて迂回し包囲を敷くという物だ。

 一見は三段に構えた防御陣からの一気の攻勢包囲という念の入った物だった。

 そして、いよいよ開戦直後、エリクソン少佐の三段陣に対して大人しいと言っても良い程にやや鶴翼に開く程度の陣形で応戦するリンデマン。


「相手を警戒しすぎで、対応が優先して後手後手に回ってしまう、良くあるミスだよ」


 リンデマンの奇策を警戒していたエリクソンだったが、あまりにも大人しい立ち上がりに部下にそう自信満々に告げると、いよいよ二陣、三陣に包囲行動を開始するように指令した。

 動き出す二陣、三陣。

 だが、リンデマンはそれを待っていた。

 二陣と三陣が左右に別れ始めたその時、リンデマンの鶴翼の陣は、急速に鋭い鋒矢の陣形に変わり、薄い第一陣を突き破ってしまったのだ。

 典型的な中央突破。

 破砕された第一陣は散々となった。

 包囲行動を行っていた二陣、三陣だったが、その急激な展開に互いの動きが鈍る。

 指揮官のエリクソン少佐は第一陣に位置しており、大歓声を上げたリンデマンの同級生達に捕まってしまったのが原因だ。

 リンデマンの部隊は第一陣を突き破った勢いのまま第二陣に襲いかかる、予想外の展開に第二陣もあっという間に蹴散らされ、そこに冷静さを取り戻した第三陣が助けに来たが遅すぎた、すでに兵力差三対一はどうにもならず決着はつく。

 実際の戦闘では無かったので、怪我人はともかく戦死者はいなかったのだが、判定役の教官は実際の戦だったらエリクソン少佐の部隊は三から四割の犠牲を出した上、指揮官は戦死か捕虜という判定を示しリンデマンの勝利を告げた。


「左右展開包囲を隠していたエリクソン少佐の策をなぜ看過出来たのか?」


 勝利に沸き上がる級友達の疑問にリンデマンは僅かの含み笑いでこう答えたという。


「エリクソン少佐は私との差をことさら強調して勝ちたがっていたそうじゃないか、ならばあの陣形が単なる三段防御で有り得る訳がない、目に見えてドラスティックな勝利に酔った者がやりがちな戦術といえば包囲戦術だ、あの三段陣形ならば中央突破後方展開包囲は考えにくい、というなら両翼展開包囲は自ずと出る答えだ、敵軍の先手を打つばかりがいつも出来るとは限らない、敵側が打ってくる手段を見極めてなるべく単純な手段で対応するのは基本中の基本だろうに」


 彼の説明に多くの同期生達は感心したまでだったが、同期の成績首席者であったアリス・グルタニア候補生は、


「相手を歯牙にもかけてない振りして、ちゃっかり戦いの前の相手の様子も探りをいれての判断だったのよ、情報もキチンと得た上で相手の展開の瞬間の隙を逃さない一点突撃、一見は派手に見えても基本を押さえてる……まったくニクい遣り口だわ」 


 と、それを複雑な表情で評したという。



         ***



 それから士官学校を卒業したリンデマンは戦場でも様々な功績を上げ、二十八歳で大佐という階級を得て参謀本部の一員となり、三十歳で参謀本部作戦課長と歩を進め、将来の参謀本部長にと見られていたが、その迎合が出来ない性格と他人への歯に衣きせられない言動が災いし、参謀本部内で味方を得られなかった。

 そして、三十二歳の時には少将への昇進と共に前線の旅団司令官へという実質的な左遷を受けてしまう。

 中央の作戦本部から前線に出された事をあんな程度の低い奴等と仕事を続けずに済んだ、と言い切った彼を周囲は憐れんだ部分もあったが、当の本人は全くショックを受けた様子なく、旅団長を大過なくこなし、その数ヵ月後、名前が大陸全土に轟くような戦果を上げて見せたのである。




 のちに第五次ディスアニア会戦と呼ばれる中規模会戦は、リンデマン率いる六千の旅団がアイオリア一族であるタミカス・アイオリア大将率いる二万の部隊に競合地域である北ディスアニアで攻撃を仕掛けた事から始まった。

 皇族の直系のみが与えられる皇族領の名をつけるミドルネームこそ持たないが、タミカスは現皇帝の甥に当たる立派な皇族であり、当時二十四歳の意気軒昂な男子だった。

 少数からの仕掛けを受けたタミカスは、北ディスアニアの自らの居城に防御の兵力三千を残して、一万七千を率いて出撃する。

 仕掛けてきた六千に対して約三倍。

 南部諸州連合軍は仕掛けてきた癖に及び腰になり、タミカスとしてはストレスの溜まる小競り合いが展開される。 

 結局、互いに被害もない小競り合いに全て勝利したタミカスは素早くリンデマン旅団を圧しまくって南下を進め、三日の間に南部諸州連合ラーシャンタ州と帝国領土の境であるディスアニア河の北岸に陣取る。

 南岸にはタミカスの渡河を防ぐ為に造られたいかにも急造の防御陣があった。

  

「仕掛けてきたのに逃げ回った連合軍の奴等も間一髪で防御陣の用意は間に合ったようだな、ラーシャンタ州の奴等もディスアニア河を我々が越えたとなれば震え上がり連合からの脱退も検討するんじゃないのか? そうなれば……直系ばかりを優遇する本家の奴等に目に物を見せてやれる」


 連勝で勢いづくタミカスはお家事情の複雑な内面も通した苛立ちに吠えたが、それとは裏腹な冷静さを見せ、急激な南下の後の渡河作戦を前に部隊には二日の休養を命じた。

 もちろん一万七千程で、南部諸州連合を形成する一つの州を陥落はさせられないのはわかっていた、彼もそこまで調子づいてはおらず、目の前の六千の旅団が連敗で追い詰められて用意した防御陣を突破したら、一週間ほど連合軍領内を荒らしまくり帰投するという予定も立てていた。

 敵地で十二分に暴れまわり、分家の存在もアピールするという政治的な意図は大きい。

 ただ渡河作戦は兵力で優勢であっても危険であるし、急造の防御陣に頼らず敵軍が夜半に逆転を賭けた夜襲の恐れもあると河から少し北側に陣を移し休養をした。  

 二日が経過する、対岸の連合軍陣地は小規模な補修工事の様子が見えただけで逆襲などの動きは

無かった。

 タミカスは連勝の後に、休養も取った士気の高い麾下部隊をいよいよディスアニア河に近づけて渡河作戦を開始した。

 兵力の半分を渡河、半分を援護という編成で対岸の急造陣地に部隊を近づけたのだが、そこで計った様に渡っていたディスアニア河が上流から一気に水かさが増し氾濫したのである。

 水の勢いは凄まじく速かった、渡河作戦中の部隊の多くが急激な流れに呑まれ、三分の一の二千程の兵があっという間に流された。

 命からがら北側の味方の元に戻ってきた者達も武器を失い消耗し、援護で残っていた半分のタミカス部隊も水が襲ってくる川岸に立っている訳にはいかずに慌てて北側に退却した。

 決壊をタミカスは偶然とは考えなかったが……


「あ……あいつらは何なんだ、対岸に防御陣を敷いている味方がいるというのに河を氾濫させたのか!?」


 そう混乱してしまう。

 もちろん対岸にも平等に氾濫した水が襲いかかり、恐ろしい勢いで連合軍の防御陣を押し流していたのだ。


「敗北必至な状態で敵軍の指揮官がおかしくなってしまったのでは……」


 あまりにも陳腐な参謀の推察が終わるか終わらないかの時、急流からの生き残りを受け入れていた帝国軍の背後から南部諸州連合の旗をなびかせた敵軍が急襲してきたのである。


「背後だと? 敵軍は南側の対岸にいたんじゃないのかっ!?」


 タミカスと司令部は茫然と背後、北側から迫る南部諸州連合軍に振り返る。

 幻ではない、南部諸州連合軍は氾濫した河のある南側ではなく北側から襲いかかってきた。


「どういう事だっ!?」

「敵軍には援軍がいたのではっ?」

「昨夜の間に上流で渡河をしていたのか?」

「背後に回った少数の陽動だ!」


 参謀達はざわめくがどれもハズレだった。

 リンデマン率いる六千の部隊はこの戦いが小競り合いから始まってから、一度もディスアニア河の南岸には戻らなかった。

 リンデマン部隊が河の南岸に逃げ込み急造で造り上げたような防御陣は何の事はない、初めからリンデマンがそれらしく造り上げ、数百にも足らない兵士を配置していただけの物であった。

 北ディスアニアの小競り合いにことごとく負けたのも偽装、彼は味方の兵士にも真相は告げす損害の殆ど受けない敗北という器用な嘘を繰り返し、南下してくるアイオリア軍を夜半と地形を利用してやり過ごし、ディスアニア河まで誘い出すと、敵軍の渡河に合わせ、上流で用意していた堰を壊し、渡河部隊を押し流したのだ。

 全てがリンデマンの掌の上だった。


「敵軍は想像以上に多数の部隊だったのでは? そうでなくては三倍の我々に仕掛けてきた理由がわからない!」


 ここに至っても、タミカスは事の初めからリンデマンの周到な罠に気づかず、間違った状況判断をしていた。

 数の上ではまだ帝国軍の損害は三千にも達しておらず敵軍の倍以上の一万三千の兵力を有している、作戦により背後を突かれたとはいえ逆転は可能だったが、置かれた状況が普通では無い。

 味方のうち四千は濁流からの生き残りで泥だらけの裸同然、残るは川岸から隊列など関係なしに逃げ延びて来た者なのだ、武器を放り出してきた者もいて、背後を突かれての迎撃など出来よう筈がない。

 北側からリンデマン部隊六千に圧しまくられた帝国軍一万三千は、まだ氾濫するディスアニア河に押し戻されていく。

 後ろからは敵軍、前には濁流。

 追い詰められた帝国軍の兵士達の多くが乱れた統率を回復するよりも当然、個人の命の無事を選び西か東に統率のない逃亡を始めた。

 リンデマンは圧力を与える為、ある程度面の広い陣形で帝国軍に迫りつつも、西と東という二ヶ所の逃げ路はやや広めに開けていた。 


「窮鼠なんとやら、逃げ場が無くて腹を括られてはもいけないし、そこに偶然集まった集団での組織的抵抗を復活させる優秀な指揮官もいるかもしれないからね、私のやりやすいようにバラけてもうよ」


 戦いの先頭に立ち、指揮を取りながらリンデマンは副官にそう言って鼻で笑う。

 しかし、二ヶ所から逃れた敵軍部隊を見逃すつもりは全くない。

 逃げ遅れた帝国軍を濁流に叩き落とすか、討ち取るかをしてしまうと、リンデマン部隊は二手に別れて旋回し、西と東に逃れた組織の呈をなしていない帝国軍を徹底的に追撃したのだ。

 まだ兵力は万以上はいる筈の帝国軍が、半数の敵を相手に壊走を始めてしまう。

 この時点でタミカス・アイオリアは押し合いへし合いに巻き込まれ、泥に埋もれた所を踏みつけられ窒息死していたという。

 東に逃げた帝国軍を追ったのはリンデマンの同期であるアリス・グルタニア中佐。

 一見は亜麻色の短いソバージュカットに理知的な美人を思わせる彼女だったが、戦場では積極的な攻勢策をとる指揮官だ。


「まったく……ああいう奇人は一旦は人を安心させてから地獄を見せる、性格悪いっ!」


 同期であるからリンデマンはよく知ってるし、士官学校同期の首席であった頃から彼女はリンデマンを色気のないベクトルで意識していた。

 今は部下として従軍する複雑さはあるが、アリス中佐はそれらの感情は口にするに留めて、鋭く速く力強い追撃戦を展開し、逃げる帝国軍に痛撃を与えていく。

 戦いの帰鄒は決した。

 後は帝国軍にどれだけの痛手を与えられるかが違ってくる追撃戦、アリス中佐がほぼ完璧にそれをこなす中で、西に敗走する帝国軍を追ったリンデマンは思わぬ障害に舌打ちをみせた。 


「予定が狂ったな」


 千ほどの帝国軍集団が組織的な抵抗力を回復して、逃げる味方の殿役をしていたのだ。

 リンデマンの手勢は半数をアリスに預けた為に三千程で、押し返されはしないが他の部隊が逃亡する時間稼ぎをされていたのだ。


「強行突破しますか?」


 焦れた様子の副官の問いに、リンデマンはさっきまでしていた舌打ちを止め、腰に手を当てて息をつく。


「いや組織的な抵抗力を回復した指揮官を讃えてやろうか、混乱した中で建て直し可能で有効に動ける部隊だけを最大限に利用している、適度な圧力を与え続けるだけに留めろ」


 口にはしなかったが、引き時だとリンデマンは判断した。

 少ない兵士で多数に勝った時はより慎重にならなければいけない。

 一日経って敵軍が態勢を建て直したら立場はすぐに逆転してしまうのだ。


「アリス中佐はうまくやったようだが、彼女に伝令を出せ、北ディスアニア城までは決して追いかけるなとな」

「惜しいですな、この大勝は北ディスアニア城すら落とせる勢いですぞ」 

 

 大勝に乗り、一気に北ディスアニア城まで制圧しようかという若い旅団参謀にリンデマンはこう答えたという。


「君はギャンブルが下手だろうな、一度圧勝したからといって勢いで次に望めば必ず捲土重来を計る相手の巻き返しを受ける物、我々は所詮は旅団、この勝利で勝手に北ディスアニア城が門を開いてくれるという不条理は起きんだろうよ」


 リンデマンは氾濫した河の周辺の整備を命じて戦いを収める。

 ちなみに大敗の中で混成しながらも部隊を建て直しリンデマンの追撃から西側から逃げた帝国軍を救ったのは、当時大尉であったシア・バイエルラインという女性士官である。

 ここに第五次ディスアニア会戦は終結した。

 帝国軍は兵士約六千と皇族の司令官であるタミカス・アイオリア以下五名の将官を失うという大損害に対して、南部諸州連合軍のそれは千にも満たない兵士に留まり、濁流に流された防御陣を守っていた数百の兵士達も予め後方に下がる準備を整えていた為に損害は無かった。



 この結果に帝国は震撼し、南部諸州連合軍は沸き返った。

 帝国は皇帝の甥に当たるタミカスの葬儀を盛大に行って復讐を強く誓い、南部諸州連合軍は戦勝を各州の都市で派手に祝い、リンデマンを中将に昇進させる。

 敵味方問わず双方の国民に名前は知れ渡り、軍人としての実績と名声を得て、再び軍部内の中央に返り咲くだろう見られたリンデマンであったが、その予想を裏切り、第五次ディスアニア会戦の二ヶ月後、彼は退役を願い出たのであった。

 


                                          続く

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