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銀色のアイオリア  作者: 天羽八島
第二章「悩める英雄姫」
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第四十五話「ザ・バトル・オヴ・ヴァイオレット ー第三軍包囲さるー」

 経過を説明する。

 奪回されたエクラシーズにダーウィシュとパセラーは二個師団計二万六千を率いて意気揚々に急行した。

 待ち構えたのは連合軍第十一師団。

 一万八千の師団であり、数の上では不利だが師団長のウィリアム・スコット中将は、


「南ではアリス中将が活躍したようだが、貴族の坊主相手にチマチマと小細工なんぞ打っていられるか、正面決戦で奴等に自分達がいかに愚かなのかを教育しないといかん!」


 と、自ら先頭に立ち、エクラシーズから撃って出て、正面から二個師団にぶつかった。

 面喰らったのは二人の若い貴族師団長だ。

 攻めるつもりで進撃していた所に、第十一師団から積極的に突進してきたせいで、思わぬ防御戦になってしまったのである。


「メチャクチャな突撃をしてきやがって!」

「数が少ないくせに突進してくるなんて、バカじゃないのか!?」


 二人の貴族師団長は、今まで自分達がしてきた事を棚に上げて文句を言いながら、二個師団を有効的に連携させて第十一師団を防ごうと試みるが、それは叶わない。

 大きな理由は二つ。

 スコット師団長に率いられた正規軍である第十一師団の突撃は私兵集団の突撃とは突撃速度、破壊力がまるで違った事。

 只でさえ防御戦自体の経験がない二人の貴族師団長が防御戦の真っ最中に有効に連携するなど、到底不可能であったからだ。

 化けの皮は呆気なく剥がれる。

 第十一師団は鋒矢陣で、陣形を定める事にすら苦労する二個師団を何度も突き刺す。

 突き抜けては旋回して突撃、また突き抜けては旋回して突撃。

 慌てて対応をしようと命令を下させば下すほどに、二個師団は混乱してしまい、やがてバラバラに引き裂かれていく。


「だ、ダメだ……我々が一旦は離脱した方が整理がつく、離脱だ! 頼むぞ、パセラー!」

「退却! 味方同士混乱している、こちらは退いて、ここはダーウィシュに任せる!」


 ここで奇跡が起きた。

 防御戦では全く息が合わず、混乱を招いた二人の貴族師団長だったが、無理矢理な理由をつけ、戦場を互いに押しつけて退却するタイミングだけはピッタリと合ってしまったのだ。


「な……なぜ逃げる!?」


 誰も知る由も無いが、離れていた筈のダーウィシュとパセラーは同時に相手を罵る。

 もちろん、それを見逃すスコット中将ではなく、逃げ出す背後に突撃を命じ、多大な損害を与えたのである。



 南のラフィン平地に向かったマセイン子爵は流石にアリスをバカにまでして敗れた前の二人とは違い、十分な警戒をしてハンスバウワー伯の閉じ籠る森へ向かうが、警戒したからといって彼がアリスから見れば甘えん坊の貴族である事は変わらなかった。

 慎重に進んでくるマセイン師団とアリスの第十七師団は戦闘状態に入る。

 ほぼ同数同士の戦闘は初めは一進一退の戦いが続いたが、勝敗を決めたのは、戦闘開始一時間ほどを見計らい、アリスが徐々に自軍の中央部を後退させVの字陣形を築き、マセイン師団の中核部隊を引きずり込み包囲する事に成功したからであった。

 指揮官の経験と能力の差がハッキリと出た。

 ここからは連合軍の圧倒的な優勢に切り替わり、更に一時間後にはマセイン師団は第十七師団の包囲を受ける。

 ここからは殲滅戦だと思いがちだが、アリスは包囲の北側をわざと開ける。


「完全に包囲すると相手が死に物狂いで戦ってくるからね、一部でも開いてれば相手は必死に戦うよりも必死に逃げてくれるから、そこの背後を襲えばいいのよ」


 この狙いは当たる。

 マセインを始めとする帝国軍は、戦うよりも開いた逃げ道に向かうのに兵が夢中になってしまい、第十七師団にロクな反撃も出来ずに逃げる背中を討たれてしまったのだ。

 これが第三軍が形勢を逆転された一連の戦いであった。




「情けない、情けない、情けない!」


 幕僚達が揃った席で、マグネッセン公は肘掛けを何度も叩く。


「お前達はワシに勝利を約束したではないか、なのになぜ簡単に敗北して、尚且つおめおめと生き延びて帰ってきた?」


 頭を垂れて並ぶ三人の若輩貴族。


「約束した勝利を上げられなかった貴様らのせいで、不利になってしまった! 極刑は免れぬと覚悟して沙汰を待てっ」


 三人を指差すマグネッセン。


「軍司令官閣下、敗戦を責めて罰を与えていては、戦う者が居なくなってしまいます、勝敗は兵家の常と言います、極刑はせめてお止めください!」


 慌てたシアが進言するが、


「うるさいっ! 余は約束破りが一番の罪と思っておるっ! 奴等は勝利の約束を真逆で返しおった、極刑は変えぬ!」


 と、マグネッセンは大声を張り上げ、作戦会議室を退出してしまったのである。

 その晩である。

 部屋で休んでいたシアに衝撃的な報せが舞い込んできた。



 首なしのマグネッセン公らしき死体が発見され、ダーウィシュ、パセラー、マセインの三人が姿をくらませ、更に東から連合軍の第一州兵団が、北からは第十一師団、南からは第十七師団がこの街に迫っているという、内と外からの凶報であった。


「と、とにかく副司令のランセア中将に指揮権を引き継いでいただいて戦闘配置を整え、脱走を厳しく警戒するようにと伝えてください!」


 数日前までこの街には五個師団が駐屯していたが、連敗により二個師団まで減っている。

 元々が私兵集団で揺るぎやすい士気はここに来て、眼に見えて低下していた。

 報告してきた副官にそう伝えると、シアは軍服の上着を羽織り廊下に走り出す。


「遂に包囲に来たわね……主導権は完全に向こうに渡った訳か」


 もちろん予想はついていた。

 だが、この遠征が始まってから悪い予想ばかり立ってしまうし、その予想がことごとく的中してしまう。


「この性格、どうにかならないかしら」


 一人首を振りながら、シアは自分の性分に思わずため息をつくのだった。

 



                    続く


 

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