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銀色のアイオリア  作者: 天羽八島
第二章「悩める英雄姫」
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第三十九話「ザ・バトル・オヴ・ヴァイオレット ー中央街道戦線ー」

 タイガーリリィ戦線の二日目。

 一日目の大勝に乗り、帝国軍第一軍団は新たな師団をゲート・タイガーリリィに迫らせた。

 マクマホン中将率いる第六師団一万七千。

 対する連合軍は野戦での迎撃は行わず、タイガーリリィの関門で迎え撃つ。

 バリスタと呼ばれる一度に何本もの矢を飛ばせる防衛兵器、投石機や壁を登る相手に熱湯を浴びせる巨大な釜まで備えた防衛機能は、ガイアヴァーナ大陸全土でも確実に五本の指に入る防御力を持つと言われる。

 備え付けられた櫓から防衛の直接指揮を執るのはもちろんリンデマン。

 マクマホン中将と帝国第六師団も壁に梯子をかけたり、弓を射かける。

 いくつかの攻城兵器も動員して奮戦したが、流石に一日でゲート・タイガーリリィに重大な損害を与える事は出来ず、退却をしていく。


「ふぅ、やっと諦めたか、しつこかったな」

「こちらを」


 数時間に渡る防御戦の指揮をひとまず終え、息をつくリンデマン、ヴェロニカがコーヒーと小さなパンを二つ、トレイに用意して差し出す。


「うむ」

「今日は勝てましたか?」


 パンをつまんで食べ、コーヒーを一口飲む主人にヴェロニカが訊くと、


「勝つというより追い返せた程度だ、自然を利用した関門で攻撃正面は狭く、詰めても一度に攻めてこれるのは二個師団が限界、これだけ有利な地形を占めているのだ、一回の攻撃でどうにかなるなんて相手も考えてはいないさ」


 リンデマンはつまらなそうに答えた。

 特別な策や戦術はあまり挟む余地のない攻城戦でリンデマンの指揮は極めて手堅く、マクマホン中将に隙を付かせなかった。


「明日はアレキサンダー皇太子は出てくるでしょうか?」

「取りあえずはどうかな、相手には四個師団がいる、まだ戦ってない師団が二つあるからな、一個師団ずつ間髪入れずに明日と明後日に攻めてくるかもしれないし、明日は一個師団ずつではラチがあかないと二個師団一度に攻めてくるかもしれんな、取りあえずは攻城戦なら直接に戦う機会は無いな」

「そうですか」


 ヴェロニカはそれだけ答えると、大人しくリンデマンがパンを食べ終え、コーヒーを飲み終わるまで待っている。


「そう言えば、他の戦線の報告はまだ入ってきていないか?」


 リンデマンは思い出した様に、ヴェロニカの更に後ろに控えていた幕僚達に訊ねた。


「いえ、まだ入っていません、しかし、もうすぐ中央街道は一報が届くでしょう」


 参謀の一人が答える。

 三つの戦線の舞台は全てが一つの州内ではあるが、南部諸州連合領の東部の全てを占めるヴァイオレット州は広大で、他の戦線の情報を得るのも時間がかかる。

 常に最新の情報を得る為、早馬だけでなく、狼煙や伝書鳩、果ては近距離ならば調教を施した犬までも情報伝達に使われてもいるが中々上手くはいかない。


「中央のアリス、海岸沿いのパウエル中将、どちらも上手くやっていて欲しいものだな」

 

 リンデマンがそう呟いた一時間後。

 早馬が伝えてきた一報はヴァイオレット州中央街道における南部諸州連合の敗北を伝える物であった。



         ***


 

 ヴァイオレット州中央街道戦線の帝国軍はマグネッセン大将率いる第三軍の四個師団。

 対する連合軍はアリス中将の第十七師団とリキュエール准将の第一州兵団であった。

 北から南に伸びる中央街道を塞ぐように陣を張った連合軍に、第三軍は兵力を活かして正面から攻撃をかけた。 

 アリス中将率いる第十七師団の張った堅陣はよく敵を防いでいたが、開戦から四時間が経った頃、ジャルドゥネ伯率いる一万の兵に陣の一部が破られると、リキュエール准将の第一州兵団の支援を受け、南方に撤退したのである。

 素早い撤退で連合軍は約千程の被害を出しながらも帝国軍を振り切り、国境より更に三十キロほど南のラーランド農場まで撤退して、陣を張り直し、意気上がる第三軍は執拗な追撃で農場に迫っている、という戦況だ。


「案外に貴族もやるわね、攻勢にはかなり圧力があったわ」


 住民が避難したラーランド農場館を接収し、次の防御拠点に定めたアリスは牧場内に建てた幕舎で地図を見ながら舌打ちすると、


「敵軍も陣を強引に突破するのに損害は受けている筈ですが……とにかく損害度外視の突撃を打ってきます、気をつけないといけませんね」


 リキュエールもやや困惑気味に頷く。

 そこに駆け足でやって来た情報参謀が二人に敬礼の後、報告を始めた。


「敵軍が追って来ました、もう通常行軍で二時間の距離まで敵軍は迫っています! 先鋒隊は二万ほど、偵察隊によると帝国貴族のマコーミック候の軍です、旗を大量に立てて行軍してきます」

「ご苦労様、すぐに指示を出すわ」

「はっ、了解しました」


 アリスは答えて立ち上がると、情報参謀は下がっていく。


「まったく貴族っていうのはせっかちね、マコーミック候? 知らないわよ、今度はどこのワガママ坊っちゃんか、お金持ちのお爺ちゃまかしらね?」

「マコーミック候は去年に爵位を継いだばかりの二十代の男子です」

「そんな事どこで?」

「相手を知るのも戦略の何とやらと思いまして、敵の第三軍の貴族は指揮官クラスは覚えましたよ」

「さっすが……」


 リキュエールに対し、アリスは一旦はオオッといった顔を見せたが、


「今回、リンデマンの奴の作戦に大人しく従わなきゃいけない事を考えると……バカ貴族の顔なんて一人も覚えたく無くなるのよね」


 と、ため息をつく。


「まぁ……それには同感です」


 アリスの態度にリキュエールが苦笑して同意した数時間後……連合軍第十七師団と第一州兵団はマコーミック候率いる一万六千の私兵団の突撃を受け、ラーランド農場の陣を突破され、更に中央街道を南に退却した。


 

                    続く

 

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