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銀色のアイオリア  作者: 天羽八島
第七章「逆襲の英雄姫」
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第百九十八話「問答無用という仲」

 ステラアリッサムに残り、再編成を終えたセフィーナとクルサードの両師団に初め入ってきたのは連合第一軍本隊を追撃中のマリア・リン・マリナの親衛遊撃軍第四師団の前に連合軍第五師団が追撃阻止の為に現れたという報であった。


「シアか······予想していたよりも早い」


 ポツリと呟きながら口元を隠すように手をあてるセフィーナ。

 どこかで出てくると思っていたが予想を越える早い来援に切れ長の瞳が鋭くなる。

 セフィーナがリンデマンを撃破、帝国親衛遊撃軍と連合軍第一軍の戦いの天秤は大きく帝国側に傾いた。

 だが、まだ勝利した訳ではない。

 シアとマリア・リン・マリナの戦いの結果次第ではその天秤はまた大きく傾き、混沌や膠着を産み出す可能性があるのだ。

 メイヤがセフィーナを覗き込む。


「焦るなよ、こっちもほとんど再編成を終えたんだからこれから駆けつけてやればいいじゃん」

「べ、別に焦ってる訳じゃない!」

「へいへい」


 見透かされムキになって振り返るセフィーナ。

 メイヤは舌を出して向こうを向く。

 幼馴染みの眼は誤魔化せない。

 セフィーナは焦り、不安に襲われた。

 シア・バイエルラインとマリア・リン・マリナ。

 この二人を将として比べてみた時、セフィーナの中では後者の勝ち目が薄いという結論が出たのだ。

 マリアが親衛遊撃軍に加わったのはヨヘン・ハルパーが二代目総司令として親衛遊撃軍を率いていた時であり、セフィーナはマリアの戦場での手腕をほぼ知らない。

 過去の思い出にある「三列侯家とは思えない野暮ったい娘」という各種礼典での印象の方が強かった。


「独特で面白い戦術眼をお持ちになられてます、堅実な参謀長か副司令官を付ければ大きな戦果も期待できますよ」


 彼女を用いて強敵であったユージィ王女率いる精鋭サラセナ軍を撃破したヨヘンから話は聞いていたので、信用はしてはいたが······それがかってのシアやヨヘンの二人に優るという訳では決してなかった。

 やはりマリアだけを追撃に出したのは早計だったか?

 背筋にザワッとした寒気が走る。


「ルーベンス!」

「は······はいっ!!」


 セフィーナの鋭い声に他の者との打ち合わせをしていた彼もそれを放って、何事かとセフィーナの元に駆け寄る。


「再編成は済んでいるな!?」

「はいっ、クルサード中将の師団もほぼ終了したと!」

「なら進軍を開始する! クルサードにもマリアに追い付くつもりで行くから、と伝えよ!」

「そ、それはどういう······?」

「急ぐという意味だ! そんな事もわからないのか!」

「り、了解しましたっ! すぐに伝えさせます!」


 焦れたセフィーナに怒鳴られ、形の良い敬礼を素早く決めたルーベンスはセフィーナの前から退散する。


「あ~、あ~、ルーベンスかわいそうだなぁ、セフィーナがまたいじめたよ、アイツにその気がなかったら絶対にセフィーナの副官なんて勤まってなかったな」

「······どうでもいいが急ぐからな?」


 にやけ顔のメイヤを睨むセフィーナであったが······出撃直前にルーベンスが報せてきた続報に思わず目を見張った。



「我、ルイ・ラージュにて連合軍第五師団と戦闘、これに壊滅的損害を与え撃破せり、我々の被害は軽微であり引き続き連合軍第一軍本隊を追って追撃を再開す、なお連合軍第五師団の残存兵力はルイ・ラージュ東の牧場地に退却した模様、モルトック准将指揮の部隊を配置し包囲警戒中である」


 その内容が伝えるのはセフィーナの危惧とは全くの正反対の真実であった。

 前の報から僅か数時間。

 こんな間にマリア・リン・マリナはシアを相手にリンデマンへの追撃を更に続けられる程に完勝してしまったのである。

 誤報か策略ではない。

 続けて何人もの伝令が同じ事実を、更に詳しく伝える。

 敗走、四散した連合軍第五師団はおそらく百に満たない残存兵力でルイ・ラージュ東のロッカという牧場に閉じ籠り、逃げてきた牧童の証言によると、それを率いるのは傷を負いながらも黒髪美麗の女性司令官であったという。


「シアだ······」


 唇を噛むセフィーナ。

 己の見解が外れた事はもうどうでも良くなっていた。

 戦況はこれで帝国軍に更に有利になっている。

 だが······しかし、セフィーナの不安は別の方向に大きく揺さぶられていた。

 一体······どうすればいい?


「セフィーナ!」


 強い調子の呼びつけ。

 滅多にこんな調子では呼ばないが、この場に自分をこう呼べる者は一人しかいない。

 振り返ると、そこにはメイヤがクレッサを後ろに乗せて馬に跨がっていた。


「メイヤ······」

「今度は焦れ」


 幼馴染みと交わす視線。

 細かい問答は要らない。

 言葉も交わせない頃からの仲。


「勿論!」


 セフィーナは近くにいた愛馬に飛び乗ると、二人のやり取りに慌てるルーベンスに、


「クルサードにここの全部隊を率いて通常行軍で南下せよ、と伝えるんだ!」


 と、言いつけ、クレッサを乗せたメイヤと二騎で有無を言う間もなく南に走り出した。

 



 

続く


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