恋色
「失礼します!無事終わりました。」
「事件のあらすじは斎藤から聞いた。後藤、もう少し頑張ってくれ。」
「申し訳ありませんでした。まだまだ自分は半人前のようです…。斎藤さんと、しばらく組ませてもらえませんか?」
「次の事件には佐々木と斎藤に組ませる。斎藤には負担になってしまうかもしれないが…その後に、結婚詐欺・殺人事件が入る。お前と斎藤にするから資料に目を通しておけ!」
「ありがとうございます!」
後藤は、すぐに次の事件の資料を読み始めた
室長は斎藤と佐々木に召集をかけた
すぐに佐々木が現れた
「失礼します。」
「佐々木、ご苦労だったな。前回の事件のあらすじはもう聞いたか?」
「はい。斎藤さんから連絡頂きまして…。すみませんでした。もっと、資料確認していれば…」
「そうだな。今度からは資料確認を徹底してくれ!」
「はい!」
斎藤が現れた
「お疲れ様です。おぅ、佐々木!体調はどうだ?」
「お疲れ様です。大丈夫です!」
「2人揃った事だ。始める、今回の被疑者は虐待死・死体遺棄だ。分からない事は斎藤に確認をしてくれ!」
「室長、結婚詐欺ではなかったんですか?」
「こっちをはじめにやってくれとの事で、結婚詐欺の事件は次に回された。すまない。」
「分かりました。それでは行ってまいります。」
「斎藤!頼んだぞ!」
「分かりました!」
ファイルナンバー005413
藍川 里美 27才
虐待死・死体遺棄
長女・次女・長男殺害
室長室を出てすぐに車に乗り込み刑務所へと向かった
「佐々木、資料確認しておけ!」
「はい。調書読み上げますか?」
「そうだな。確認するために読み上げてくれ。」
「はい。藍川 里美27才、2017年5月長女(当時5歳)を壁に叩きつけて殺害、遺体は自宅の庭に遺棄。
同年6月次女(当時4歳)を床に叩きつけて熱湯をかけ殺害、遺体は床下に遺棄。同年6月長男(当時2歳)を絞殺し殺害、遺体は自宅の庭に遺棄。同年8月性別不明(新生児)を口を塞ぎ窒息死、遺体は床下に遺棄。新生児を含む4人を殺害。父親は全員違うとの事です。」
「未婚だったんだよな?」
「はい。一度も結婚はしていなかったようです。」
「……。この女は危ないな…。気をつけて接しろよ。」
「?何をですか?」
「男なれしているから。接する時はワンクッションおく形でいけよ。」
「はい。」
刑務所に到着
藍川里美の身柄を引き取りシュミレーター室へと移動
藍川は子供を殺したとは思えないほど大人しい礼儀正しい女だった
佐々木は、調書を読んで犯人像を膨らましていただけに拍子抜けしていた
シュミレーター室に到着後すぐにシュミレーターを開始する事になった
「藍川里美、今からシュミレーターを開始する。被害者が味わったであろう苦しみ痛みを体感してもらう以上だ。佐々木、固定しろ。」
「はい。椅子に座りなさい!」
黙ったまま椅子に座った
佐々木は急いで拘束ベルトを固定した
斎藤に合図を送りシュミレーター開始
「斎藤さん、疑問なんですが何故シュミレーターなんですか?普通シミュレーターですよね?」
「さぁ、作った奴が決めたからな。他の奴に聞くなよ!」
「あっすみません。」
シュミレーター開始してから五分後
悲鳴が聞こえ始めた
「すごい声ですねぇ…」
「今日は第一の被害者の痛みを味わってもらってる。調書をとる時の移動には気をつけろよ!」
「あっはい。でも大人しい人ですよね…?」
「だから、お前はダメなんだよ。人を…自分の子供を平気で次々殺す様な人間だ。変貌する可能性があるんだよ!」
「あっ…すみません。」
「拘束ベルトを外す前に手錠をしろ。そして絶対、後ろを向くな!分かったか?!」
「はい!分かりました。」
「そろそろシュミレーターが終了する。気をつけて連れてこいよ!」
「はい!」
シュミレーター室の前で深く息をして気合いを入れ部屋へ入った
そこには口からよだれを垂らし天井を見つめている藍川がいた
佐々木は斎藤に言われた通りにベルトを外す前に手錠をした
「藍川里美!部屋を移動する!拘束ベルトを解除後、後ろを向きなさい。」
その言葉に藍川は恨めしそうな顔で佐々木を見ていた
拘束ベルトを外し手錠をかけ、一安心した佐々木
その直後、藍川が佐々木の腕に噛みついてきた
「ぎゃー!」
あまりの痛さに佐々木が大声で叫んだ
その声を聞いて斎藤が直ぐに現れ藍川の顔面を平手打ちした
藍川は、そのまま床に倒れこんだ
「佐々木!!大丈夫か?!」
「は…い。」
佐々木の腕を見て斎藤は絶句した
肉が少し噛みちぎられていたからだ
「……。医療班!直ぐ来てくれ!」
その声で、医療チームが直ぐに来て佐々木を治療室へと運んでいった
一方、藍川は斎藤に殴られた衝撃で気絶していた
「おい!起きろ。起きろよ!」
頬を軽く叩き藍川を起こした
斎藤は藍川の胸ぐらを掴む
「お前、今度こんなマネしたら殴るだけじゃ済ませないからな!」
藍川はビクッとして、何度も頷いた
「調書をとるつもりだったが、そんな気になれないから。拘留所に移す。」
乱暴な手つきで拘留所まで運び扉を開けて藍川を投げこんだ
「明日も朝からシュミレーターをする。」
それだけ言うと斎藤はいなくなった
斎藤は佐々木の怪我が心配で治療室へと急いだ
「あっ斎藤さん。すみませんでした…」
「なんで、こうなった?」
「手錠をかけて、連行しようとしたら急に後ろを振り返ってきて噛まれました…。」
「色々な状況を想像して今度からはもっと気持ちを引き締めてやれ!」
「はい。申し訳ありませんでした。」
医療班に怪我の具合を聞くと一部を噛みちぎられていた
全治三週間
「今日は、とりあえず終了だ。室長に言って後藤に替わってもらう事にする。しばらく休め!」
「ですが……」
「ダメだ!」
「はい…分かりました。」
一日目終了
「お疲れ様です。室長、佐々木が被疑者により怪我をしてしまったので後藤と交換して下さい。」
「怪我の具合は?」
「全治三週間です。手の一部をえぐられてしまっています。」
「そうか…。後藤には連絡を入れておく。これ以上けが人を出さないように気をつけてくれ。」
「はい。すみませんでした。」
「斎藤が謝る事じゃない。被疑者には、佐々木の痛みも加えておけ…。明日のシュミレーターでな。」
「了解しました。失礼します。」
二日目開始
「斎藤さん、宜しくお願いします。」
「悪いな着てもらって。」
「佐々木は大丈夫なんですか?!」
「なんとかな。仕事を続けられるかは分からないけどな…。」
「えっ?!」
「どんな仕事でもそうだが一度、恐怖心を持ってしまうと中々な…」
「それなら大丈夫ですよ。佐々木はあぁ見えてガッツがある奴なんで!バカ正直な面は治さないとですけどね。」
「そうだな。」
留置場に着いて中を確認してみると藍川が壁に向かってブツブツ呟いていた
斎藤が声を張り上げ名前を呼ぶ
「藍川!シュミレーター室に移動する!出てこい!」
斎藤の声を聞いて藍川は部屋の隅に逃げた
「早く出てこい!」
荒々しく藍川の腕を掴むとシュミレーター室へと引きずって行った
その光景を見ていた後藤は驚きを隠せなかった
荒々しく被疑者を引きずる事は今までなかったからだ
それほどに佐々木の事で感情が高ぶっているのが分かった
「斎藤さん、俺が連れて行きますよ。」
「いや、俺が連れて行くからモニター室に行って準備してろ。」
後藤は言われるままモニター室へ行った
シュミレーター室の中を見ていた
やはり斎藤は被疑者に対する態度が明らかに酷かった
椅子に固定する際、暴れた被疑者の顔面を殴った
痛みで泣き出す被疑者に対して暴言を吐いた
「斎藤さん……」
そんな斎藤に何も言えない後藤
斎藤からの合図をうけシュミレーターを開始
モニター室に斎藤が入ってきた
「暴れやがった…。今日で全部やるぞ!死刑執行だ。」
「斎藤さん落ち着いて下さい!」
「アイツは仲間に怪我をさせたんだぞ!自分の罪を反省する所か…そんな奴に同情出来るか…」
「ですが…相手も人間です。怪我をさせたのはよくないですが…相手にも感情はあります。そして、自分たちの気持ち一つで殺す事は殺人犯と変わりません。被疑者に殺されてしまった人間の痛み、苦しみを理解させるために作られた機械です。」
「……」
「斎藤さん、少し休んできて下さい。今日は俺一人で大丈夫ですから。」
「……だが、また何かあったら困る…。」
「大丈夫です!俺も刑事ですから!今日だけでも休んで下さい。この事件が終わっても次がありますし…」
「…お前が、そういうなら今日は帰るとする…。頼んだぞ…」
「はい!」
斎藤は渋々、帰って行った