虐待
犯察に戻ってきた斎藤と佐々木
室長に無事終了した事を報告
「斎藤、佐々木ご苦労だった。斎藤は結婚詐欺の被疑者が次回の仕事だ。宜しく頼んだぞ。」
「はい。それでは調書など確認したいので失礼致します。」
「頼んだぞ!佐々木は残ってくれ。もう少しで後藤が到着する、それから今回の事件について話しをする」
「はい!」
後藤が戻ってくるまでの間に先ほどの書類の整理をしに佐々木は自分の机についた
佐藤の時は自分の不甲斐なさが原因で斎藤に迷惑をかけてしまった事を振り返り、同じ過ちを繰り返さないために調書を読み返していた
その時、室長から連絡
「後藤が戻った。すぐ来てくれ。」
「はい!」
急いで書類を片付け室長室へ走った
「なんだ、走ってきたのか!?」
「はい。遅れては申し訳ないと思いまして…」
「佐々木らしいな。じゃ早速、今回の事件の内容を説明する。児童虐待、犯人は父親だ。詳しい事は調書を確認してくれ。」
「はい!」
「室長、母親はシロだったんですか?」
「そのようだな。何かわかり次第連絡してくれ。」
「はい。」
室長室を後にして車に乗り込んだ
「後藤さん、宜しくお願いします。」
「宜しくな。」
「自分、前回の事件で失敗ばかりしてしまって…今回は失敗しないように頑張ります。」
「俺も似たようなもんだからな……失敗があって成長があるんじゃないか?!お互い頑張ろう」
「はい!」
後藤の優しい一言に佐々木は救われた
変に緊張して、失敗しないようにはどうするべきか…そればかりを何度も何度も考えていたからだ
「後藤さん、調書読み上げますか?」
「そうだな。確認しておきたいし、頼むよ!」
「はい!斉藤 龍24才2017年7月に長男(当時4才)を日常的に殴る蹴るの暴行を加え死亡、当初虐待が確認出来ないとの事で事件にはなりませんでした。
その後の2018年1月に長女(当時2才)に対し顔面を強打し死亡させた罪で逮捕されました。逮捕後、長男にも暴行していたとの供述をして再逮捕されました。以上です。」
「嫁は居なかったのか?」
「その半年前に亡くなっているようです。奥さんが居たときは子供が可愛くて仕方なかったようですが、亡くなってから自分の言うことを聞かない子供達に対して怒りを感じるようになったようです。」
「嫁さんの忘れ形見になんて事するんだろうな…。
シュミレーター室と合併して違う方も進める。そこで様子を見て結果を出そう。」
「違う方ですか?」
「まっ、俺に任せておけ!」
「はぁ…」
「着いたぞ。」
刑務所に到着後、裏口から斉藤の身柄を受け取りシュミレーター施設に移動
「斉藤 龍、君は児童虐待、殺害の罪で逮捕されたな。これからシュミレーター室に入ってもらう。その後、調書をもう一番取り直す以上。」
斉藤はただ黙ったまま頷いた
斉藤の手は傷だらけだった
「斉藤 龍、今からシュミレーターを始めます。椅子に座りなさい。」
斉藤は大人しく椅子に座った
佐々木が警戒しながら拘束ベルトを固定した
ベルト着用後、後藤に合図をしてシュミレーター開始
後藤の居る部屋に移動し経過を観察
「後藤さん、前回の犯人と違うんですね…」
「何がだ?」
「叫び声とか聞こえないです。」
「罪の意識が強いんだろう…。子供達の姿を見て嬉しいやら悲しいやらなんだろう。」
「理解出来ません…。だって自分で殺したんですよ!」
「犯人の気持ちなんて解らないよ。俺らは奴じゃないしな…。理解しなくていいと思うぞ。考えても解らないから。」
「………」
「そろそろ終わりそうだな。俺は隣の部屋に行ってるから斉藤を連れて来てくれ。」
「はい。」
シュミレーター室の前についた佐々木は中から静かにすすり泣く声に気付いた
扉を開けてみると涙をボロボロ流しながら俯いている斉藤がいた
「斉藤 龍、今から調書をとる。拘束ベルトを解除後、両手を上に上げ両足を開きなさい。」
静かに頷き黙ったまま言われた通りに行動する斉藤
佐々木に連れられ後藤の居る部屋に移動した
移動中も声を殺して泣いている斉藤を見て佐々木は言葉に出来ない程の気持ちを覚えた
部屋に入り椅子に固定
「斉藤 龍、シュミレーターを使い被害者の痛みを感じてもらった訳だが、何か言いたい事はあるか?」
「……殺して…下さい。」
「?…。どういう意味だ?」
「俺は生きてる価値のない…人間です…。あの子たちは何も悪い事…してないのに…俺は…俺は………」
そう言った直後、声を上げて泣き始めた
後藤は、その姿を見て係員を呼び部屋の用意を頼んだ
「佐々木、部屋の用意が出来たら移動させるぞ。少しこのまま泣かせておいてやれ…。俺は部屋の様子を見てくるから、斉藤を見ててくれ。」
「はい。分かりました。」
佐々木は呆然と斉藤の姿を見つめていた
斉藤が供述してから二十分が経過していた
その時間、斉藤は泣き続けるばかり
「佐々木!斉藤を移動させるぞ!」
「はい。」
「斉藤、今から部屋を移動する。立ちなさい!」
椅子から立つも床に泣き崩れた
「斉藤!立ちなさい!」
その声に反応するも一向に立ち上がろうとしない
「佐々木、これは無理だな…。2人で運ぶぞ。」
「えっ…あっはい。」
斉藤の身体を2人で持ち上げ拘留所まで運んだ
その間も泣き続ける斉藤
拘留所に付き部屋に運び入れ手錠を外し扉を閉め違う部屋から様子を観察する
「斉藤は死にたいと言ってましたね…。彼は死刑囚なんですか?」
「死刑囚ではない。でも望むのであれば叶えてやれない事もない。」
「えっ……」
「奴は自分の過ちと向き合っているんだろう…。でもな、人は忘れてしまうんだよ…時が経つと……。悲しいよな…どんなに反省して二度と繰り返さないと約束しても繰り返す人間の方が多い…。奴は、どんなに大切な存在だったか今になって気付いたのかもしれないな…」
「気付くの遅いですよね…。だって、あんなに小さい子が言うことを訊かないのは仕方ないじゃないですか?!それを殴ったり蹴ったり……。奥さんがお腹を痛めて産んだ子供達に……。その奥さんが亡くなって…。それで虐待したとか…絶対、変です!あんなに泣くのも変です!」
「まぁな。でも、今日この部屋で奴の姿が解るかもしれないぞ。とりあえず少し様子を観てから今日は終わりにしよう。お前は帰って休んだ方がいいぞ。」
「はい…。すみません変な事言ってしまって。」
「疑問を持つ気持ちは分からなくもないがな。でも言ったはずだぞ。理解しなくていいと。」
「はい。」
少し様子を観てから佐々木が帰って行った
後藤は、その後も斉藤の姿を見つめていた
泣き疲れ床に横になっている斉藤にマイクで後藤が話かける
「斉藤、違う部屋でお前の様子を観させてもらってる。今から質問する事にYESなら頷けNOなら動くな、分かったら頷け。」
横になりながら静かに頷いた
「お前は死刑になりたいのか?」
静かに頷く
「その旨を上に伝える。今日はもう休みなさい。」
また静かに頷いた
後藤は、直ぐに室長室に向かった
「室長お話があります。」
「何かあったのか?」
「斉藤 龍の件ですが…。死刑を求めてます。」
「…そうか…。お前はどう思う?」
「生きて罪を償わせる事も出来ますが…やはり2人も殺めてる訳ですから…奴が望むのであれば実行に移してもいいかと…」
「うーん。彼は死刑囚ではないんだぞ。シュミレーターをして、どうだったんだ?」
「泣き崩れ立てないほどになりました。現在も泣き疲れ床に倒れています。」
「それなら、生きて罪を償わせる方がいいんじゃないのか?」
「泣き方が異常なんです。佐々木が、その姿を見ておかしいと言っていました。申し訳ありませんが明日、斎藤さんに来てもらいたいのですが…」
「そうか…。あの佐々木が…。分かった!明日の朝、斎藤を向かわせる!」
「ありがとうございます!」
「今日は帰って休んでくれ!」
「はい!それでは失礼します!」
シュミレーター二日目
朝から斎藤、後藤が話し合いをしていた
佐々木には昨日の時点で休みを言い渡していた
「斎藤さん朝からすみません。」
「何か気になる事があって呼んだんだろ?この部屋の作りは自宅か?」
「はい。奥さんが亡くなる前の部屋を再現しました。お呼びしたのは斉藤 龍の事なんです。」
「昨日の時点で室長から話は聞いている。確認してほしいんだよな?」
「はい。私では理解出来ない面もありまして…。佐々木にも問いただされのですが…」
「そうか…。とりあえずシュミレーターをしてみよう!斉藤龍を連れてきてくれ!」
「はい。」
床に横になってる斉藤を起こし手錠をかけシュミレーター室へと運び椅子に座らせ拘束ベルトを固定した
その間も斉藤は何も話さなかった
「準備完了しました。シュミレーター開始します。」
「あぁ…。大人しい奴なんだな…。」
「はい。こちらに運ばれて来た時から、ずっとあの調子です。」
「まっ様子を見てみるとするか…」
「はい。」
斉藤は静かに涙を流し震えていた
「後藤!司法解剖の検診の資料持ってこい!」
「えっ?あっはい!」
「室長に言えば、すぐ取り寄せられるから行って来い!」
「すみません。すぐ行って来ます!」
後藤は斎藤に言われた通り急いで室長に資料を取り寄せてもらい斎藤の元へと急いで戻った
「斎藤さん、すみません少し時間かかってしまいました。これが例の資料です。」
「ありがとう。」
そういって斎藤は即座に読み始めた
読み始めて、直ぐに斎藤はニヤリと笑い
「後藤、シュミレーターを家族の風景に切り替えろ。解る事があるぞ。」
「はい。直ぐに切り替えてきます。」
後藤は訳も分からず切り替えを行い監視室に戻った
「切り替え完了しました。」
「すまないな。説明せずに頼んでしまって。」
「何か分かったんですか?」
「お前はまだ気付かないのか?」
「えっ?」
「斉藤の様子が変だと気付いたのは佐々木だったよな?お前も変だと思わなかったのか?」
「思いましたけど自供もしてますし……。」
「奴はシロだ。家族を失ったのは自分の不甲斐なさが原因だと思い嘘の供述をしているだけだ。だから違和感を抱いたんだろう。」
「ですが…。子ども達に暴行を加えたとなっていますが…?それも司法解剖で証明されていますよね?!」
「ちゃんと全部読んだのか?!ここに物による打撲となっているだろ。長男は母親を亡くし食事がまともにとれなくなっていた、それは父親の斉藤龍も一緒だった。気付いてあげられなかった自分を呪っていた直後、長女も横転して亡くなった。警察に聞かれて虐待したと言ってしまったんだろう。死にたかったのかもしれないな…」
「……。すみません、ちゃんと確認していませんでした。」
「彼にはシュミレーター終了後、精神科施設に移動してもらい彼の親族を交え話し合いをしてもらう。罪を犯してない人間は裁けないからな。」
「えっ?裁判をやり直すんですか?」
「いや、我々の一声で変わる。だからこそ重要なんだ。死刑囚じゃなくても死刑に出来る。だから資料は、ちゃんと読み返しておけ!」
「はい。申し訳ありませんでした。」
シュミレーター終了後、斉藤龍は無罪を言い渡され精神科施設へと移動させられた