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sinner  作者: 月島裕
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軽視

室長からの召集がかかり珍しく全員が揃った


「集まてもらったのは他でもない新しい犯罪者のリストが回ってきた。今回の犯人は死刑囚ではない。上の連中からの要請で内の課で受け持つ事になった。今回は斎藤と佐々木にやってもらう。シュミレーターを3日間行ってもらい、経過を報告してくれ!」

「はい!」


ファイルナンバー007849

佐藤 昇«さとう のぼる»20才

援助交際あっせん・二人の少女を自殺に追い込んだ



「斎藤さん、宜しくお願いします。まだ、犯察に来て事件受け持った事ないので色々と迷惑かけるかもしれませんが宜しくお願いします!」

「頼むぞ、佐々木」

「はい!」

「被疑者を連行しに行くぞ。」

「はい。」

「刑務所に着くまで事件の内容を確認したい。読み上げてくれ。」

「はい。佐藤昇20才、2017年7月にインターネットで知り合った当時15才の少女に援助交際させ、自殺に追い込んだ模様です。その半月前にも同様に自殺した少女がいました。取り調べの結果二人の少女に対し援助交際をあっせんしたと供述しています。その際に受け取った金は生活費に使ったとの事です。

亡くなった少女の携帯電話の履歴から詳細な内容が残っていました。」

「そうか…。最低な人間だな…」

「そうですねぇ…。斎藤さんシュミレーターとはどの様な物なんですか?」

「犯人が犯した罪を被害者側の視点から追体験する装置だ。今回の犯人には精神的苦痛も付け加えるがな。」

「精神的苦痛とは?」

「佐藤昇は、精神疾患を装っている可能性が高い。だから、本当に精神疾患になってもらおうじゃないか。夜な夜な現れる被害者の姿を見て正気で居られる人間なんて、そうそういるまい。」

「そうなんですか…。」

「精神疾患患者だと刑が軽減される可能性がある。それで今回、我々が担当する事になったんだ。」

「奴が精神疾患じゃない事を証明すればいいんですね?!」

「そうだ。頼んだぞ!」

「はい!」

刑務所に着き裏口から中に入り被疑者と対面

「佐藤昇だな。君の身柄は我々、犯罪撲滅課で預かる事になった。歩きなさい。」

佐藤昇は無言のまま俯いていた

その時、隣にいた警官を吹っ飛ばし逃げようともがき始めた

斎藤の鉄拳が飛ぶ

「うぅ…いてぇ…」

「余計な体力使わせるな!おまえ等もだらしないぞ!ちゃんと被疑者を抑えとけ!」

「申し訳ありませんでした。」

「さぁ来い!」

殴られた顔を押さえて痛がる佐藤を引きずり護送車に乗せシュミレーター室に移動


「佐々木。今回みたいな事は稀にある、逃走されないように気をつけろよ!」

「はい!勉強になりました!」

「シュミレーター室に着いたら、すぐに装置を付けシュミレーター開始する。くれぐれも気をつけろよ!」

「はい!」

シュミレーター室に到着

斎藤の指示で佐藤昇を下ろし、すぐにシュミレーターが始まった

佐々木にとって初めてのシュミレーター室

犯人の様子を見つめていた

急に叫び声を上げ始めた

「斎藤さん大丈夫なんですか?」

「犯人特有なんだか叫ぶんだよ。気にする事はない。この後、また調書を取るから部屋を用意しとけ。」

「はい。分かりました。」

約二時間後にシュミレーター終了

佐藤昇を連れ部屋を移動

「今回、被害者の恐怖心を体験してもらった訳だが何か言いたい事はあるか?」

「………」

「何もないという事でいいな。」

「………」

「おい!佐々木、移動させてくれ。」

「はい!部屋を移動する!歩け」

「佐藤。明日も続くからな!明日も何も話さないようなら……」

「早く歩け!」

佐藤は無反応だった

部屋を移動しても何も話さなかった

夕方になり食事が運ばれてくるなり無我夢中で食べ漁っていた

食べ終わるなり横になり寝始めた

映写機を使い被害者の姿をあちこちに映し出した

泣き声も一緒に

佐藤昇は目を覚まし叫び始めた

「おい!誰かいないか!助けてくれ!」

何度も何度も叫んでいた

違う部屋から、その様子を斎藤と佐々木は食い入るように見つめていた

叫び声が消えた

部屋の端で失神している佐藤

「佐々木、今日は終了にする。帰って休んでくれ!明日は10時からシュミレーターを開始する。」

「はい!それでは失礼します。」

一日目終了



二日目の朝

佐々木より先に斎藤が来ていた

「おはようございます。早いですね。」

「気になって早めに来てみたんだ。佐藤は失神したまま寝てたみたいだな。起きた瞬間から騒ぎ出したみたいだ。今日シュミレーターした後、話すかもしれないな。」

「そうなんですか…。」

「それじゃ、少し早いがシュミレーターを開始しよう。佐藤を連れて来てくれ。」

「はい!」

勾留所に行くと佐藤の喚き声が聞こえてきた

佐々木はゆっくり中を覗いた

佐藤は壁に向かって声を荒げていた

「佐藤昇!部屋を移動する!両手を上にあげろ!」

佐々木が声をかけた瞬間に佐藤が入り口のドアの目の前に走ってきた

「刑事さん助けてくれ…助けてくれ…」

「ドアから離れなさい!」

佐藤は大人しくドアから離れて両手を上にあげて待っている

「部屋を移動する!歩け!」

手錠をかけシュミレーター室に移動した

部屋の中に入ってから佐藤は急にガタガタと震え始めた

佐々木は何も言わず黙々と椅子に固定していく

「それではシュミレーターを開始する。」

部屋のドアがガチャンと閉まり密閉された

佐々木と斎藤は違う部屋から被疑者の様子を観察している

「今日も酷い叫び声ですねぇ。ドアを開ける前も酷く怯えていましたよ。」

「ああいう人間には、それぐらいがいいんじゃないか…。明日で最終だ…。結果を出さなければいけない…」

「今日は約三時間弱を予定してます。勾留所も替えまして被害者の部屋を再現しました。ご両親から毎日どの様に過ごしていたのか聞きまして被害者の姿を映してあります。」

「そうか。どんな表情を見せるか楽しみだな…」

佐々木は斎藤の言葉を聞いて少し戸惑った

佐々木の抱いている斎藤のイメージとは違っていたからだ

「楽しみですか……」

「どんな犯罪者も自分の犯した罪の重さを解ろうとしない。だから我々、犯察が出来たんだ。本当の意味で解らなければいけないんだよ。」

「そうですね。」

佐々木は納得出来たような気がした

酷い言い回しをするのは犯人に自分の罪を解らせるためである事を…

人を自殺に追い込む人間の心理は分からないからである

「そろそろ終了の時間になりますね。」

「今日は話すだろうな…。終わり次第、調書をとるから連れてきてくれ。」

「はい。」

シュミレーター終了


佐藤を移動させるためにシュミレーター室の前まで来た佐々木だったが扉の向こうから聞こえる声に扉を開けられずにいた

悲鳴に似た叫び声が続いていた…

恐る恐る開けてみると椅子に座ってはいるが拘束ベルトを無理矢理取ろうと暴れている佐藤がいた

佐々木には気付いていないようだった

佐々木は大きな声で佐藤に呼びかける

「佐藤昇!今から部屋を移動する!ベルトを解除後、両手を上に上げ両足を開き後ろ向きになれ!」

「あぁ…あぁ…」

涙で顔がグチャグチャになっていた

声にならない声で必死に返事をしようとしている佐藤

ベルトを外し椅子から降りた佐藤は佐々木にしがみついて泣き始めた

「離れなさい!」

何度言っても離れなかった

佐々木は仕方ないので斎藤に連絡して来てもらった

「佐々木!何をやってるんだ!」

その声を聞いた佐藤はビクッと身震いし走って部屋の隅へ逃げていった

そんな佐藤を追いかけて斎藤が手錠をかけた   

「面倒をおこすんじゃない!部屋を移動するぞ!」

佐藤はカタカタ震えながら歩き始めた

「斎藤さん、すみませんでした。」

「しっかりしろ!」

「はい。」

取り調べ室に入り佐藤を椅子に座らせ固定

「佐藤、今日は話したい事はあるか?」

「は…い。」

「話してみろ。お前の言葉でいい、思った事を話してみろ。」 

「は…い。本当に…申し訳ない…事を…してしまい…ました。」

佐藤は涙声で、ゆっくり話し始めた

「始めは…あんな事させる…つもりで…いた訳…じゃなかったんです…」

「じゃ、どういうつもりで会ったんだ?」

「始めは彼女が欲しかった……でも段々…嫉妬深くなって…それが嫌で…援交してこいって言ったら…本当にしてきて……金も俺に渡してきて…でも冗談で言ったのに……本当にしてきたのが嫌で……だから別れようって言ったら死んだ……」

「それは最初の被害者の事を言ってるのか?」

「はい…。」

「次の被害者の子は、どうしてそうなった?」

「……」

「じゃ俺が説明してやろうか?!」

「……」

「始めは交際相手を探していた、次第に疎ましくなり援助交際をあっせん、そんな事を言ったら別れてくれると思ったんだろ?!しかし彼女は実際に援助交際をしてきた。そしてそこで得た金銭を君に渡した、彼女は君の事がすきだったんだろうな…行き過ぎた所はあったと思うが彼女なりの愛情表現だったんだろう。そして、君は彼女を突き放した…。彼女は悲しみのあまり自ら命を絶った。そして次の被害者、彼女に対しては完全に違ったよな?!初めから援助交際をさせるためだけに利用した。金がほしいがためだけに彼女の気持ちを弄んだ。そして自殺に追い込んだ。次の標的も決めてたみたいだな?!違うか?」

「………」

「違うのかって聞いてるんだ!!」

「……間違いありません…」

「他に話したい事はあるか?」

「ありません…」

「そうか。今日でここでの生活は終わりにする…明日には元の刑務所に戻ってもらう以上だ。佐々木!留置場に連れていけ。」

「はい!さっ歩け!」

佐藤は泣いていた

何で泣いているのか佐藤本人にも解らなかった

留置場に着いた瞬間、佐藤の足の震えが激しくなった

「刑事さん…なんですか……ここは……」

「今日、君が拘留される所です。」

「い…やです……」

「さっ入りなさい!」

「いやだぁ!誰か!助けてくれ!」

佐々木は懐に忍ばせておいた麻酔薬を使い佐藤を眠らせ留置場へと運んで寝かせた

「お前の罪だ。受け止めろ…。」

そういって佐々木が外に出た

そこは第一の被害者の部屋をそのまま再現した部屋

彼女がさっきまで居たかのような部屋だった

斎藤と佐々木は違う部屋から佐藤が目覚めるのを待った

「佐々木、よくやったな。少しは成長したようだな。」

「ありがとうございます。」

「これから、お前が率先して担当する事が増えてくると思う。まだ今回は俺達の仕事の中でも楽な方だけどな。頑張れよ!」

「はい。頑張ります。」

「今回の事件が終わったら、また死刑囚らしい。今度は後藤とペアでやってもらう事になってる。解らない事があれば聞いてくれ!」

「……。ちょっと不安ですが、頑張ってみます。」

「頑張ってくれ。佐藤が起きたようだな…」

「なんだか挙動不審ですね…」

「さぁ、どんな行動をとるか…。」

辺りを見渡す佐藤

何度も後ろを振り返り窓のある方を見ていた

その直後、映写機を使い被害者の姿を映し出す

「ぎゃー!」

カタカタ震えながら何度も何度も謝罪の言葉を述べている

「このまま明日の朝まで様子をみるぞ。」

「はい。」

「朝になったら移動させる。その頃には精神的に参ってるはずだ。室長には俺から報告しておいた、1日早いが奴に充分だろう…。」

「そうですね…。」


次の朝、佐藤の部屋に行き刑務所へと連行しに行った

佐藤の変わりように佐々木は驚いた

あんなに普通に話していた佐藤は無口になり外をみるたびにビクつくようになっていたからだ

佐々木の仕事は佐藤を送り届ける事で終わった



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