苦痛とは
二日目の朝が来た
後藤が武藤を確認しにいくと彼は廃人のようにブツブツと独り言を呟いていた
「……武藤浩輝!部屋を移動する。後ろを向き手を上に上げろ。」
その声にも反応を示さない
後藤が近付いて行くと奇声を上げた
「ギャー!」
「おい!話しを聞け!」
カタカタ震え、またブツブツと独り言を繰り返す
後藤は他の警官を呼び運び出す事にした
その間も、ずっと独り言を言い暴れていた
部屋を移り椅子に固定して二日目が始まった
「…やめてくれ!近づくな!助けてくれ!」
昨日の様子を見てナイフは使用せず電流を使う事になった
使用した凶器は6日目に使う事が決定した
「後藤。様子はどうだ?」
「あっ、斎藤さんお疲れ様です。やはり正気ではいられなかったみたいです。昨日の奴とは別人のようになってます。」
「そうか……。今日は二番目の被害者だったな。犯行の内容は?」
「顔面を殴打、被害者が失神してから強制わいせつし首をナイフで二度刺し、被害者が死亡したにも関わらず腹部を数十回刺しています。」
「……そうか…。」
斎藤は、それ以上話す事なく被疑者を見つめていた
四時間後、機械が止まった
「今日の分終わったようですね。」
「そうだな。後藤、悪いが後は頼んだ。」
「はい。」
隣の部屋に行ってみると昨日よりも酷い臭いがした
皮膚がただれて血と液が出ていた
「係員!悪いが医療班を連れてきてくれ。」
「はい!」
大急処置をして留置場に移動させた
武藤は話す事もしなくなり、ただグッタリとしていた
留置場に移動してからは横になった状態でビクともしなかった
その様子を見て後藤は室長に連絡をいれ来てもらった
「お呼びして申し訳ありません。武藤浩輝なんですが…。」
「お前はどうしたいんだ?」
後藤がすべて話し終わる前に諭され逆に質問された
「……。このままでは身体がもたないと思います。なので、明日で全て終わりにしようと思いまして……」
「………。でも決定事項だからな…。お前は何故そうしたいんだ?」
「やはり、身体に負担がありすぎますし…皮膚の様子を見ても……。彼は重い罪を犯しました。けれど……」
「人を人とも思ってない人間に情は必要ないと思うがな…。決定事項だと始めに言ったはずだ…。お前が耐えられないというのであれば担当を変えるまでだ。」
「………」
「はっきりしろ!我々の仕事はなんだ!そんな甘ったるい事じゃないのは解ってたよな!」
「……申し訳ありません。予定通りに…」
「分かった。もう一度同じような事があれば、お前を違う課に飛ばすからな!肝に銘じておけ!」
「はい。」
後藤は心の優し過ぎる警官だった
殺人犯と解っていても苦しむ姿を見て心を痛めていた
「あと4日間これを見続けなきゃならないんだな…」
後藤は武藤の姿を見てポツリと呟いた
「後藤!室長から聞いたぞ。どうした?」
「斎藤さん……。凶悪犯だと解ってるんですが……。人の苦しむ姿を見てると……」
「そうだよな……。俺も交代でやるから!それなら少しは気分も楽になるだろう?」
「ありがとうございます。すいません。」
「俺もお前に任せてばかりだったのも悪かったんだよな…。ごめんな。」
「申し訳ありません。自分が不甲斐ないばかりに…」
「また頑張っていこうな!」
「はい。」
二日目終了
三日目の朝がきた
「武藤浩輝、時間だ起きろ!」
返事がない…
近付いて行きうつ伏せの身体をひっくり返してみた
「……」
息は途切れ途切れ
いつ死んでもおかしくない状態になっていた
「おい!意識はあるのか?」
頬を叩きながら声をかけたが無反応
「医療班!すぐに来てくれ!」
医療班が直ちに治療を始めた
「斎藤さん、もう無理かと…」
「分かった。もう下がっていいぞ。」
「はい。失礼します。」
斎藤は直ぐに室長と後藤を呼んだ
「奴はもう保ちません…後藤の提案通りに今日で全てを終わらせます。」
室長は何も言わず何かを考えてるようだった
室長が話し出すのを二人はただジッと待っていた
「分かった。後藤の提案通りにする。現場のお前らで決めた事に従おう……ただ一つだけしてもらわなければならない事がある……他の全てを省いてくれて構わない…」
「……それは?」
「最後の被害者…腹部を刺されてはいたが即死ではなかったんだ……生きたまま焼かれてるんだ…もし全てやって奴が死んでしまったら意味がない…」
「分かりました。それでは焼却処分にします。それで宜しいですか?」
「あぁ。」
すぐに火葬場に連絡をし、武藤浩輝を移動させた
関係者以外の立ち入りを制御した
死刑執行
武藤浩輝は抵抗する力もなく、声を上げる事も出来ず火葬された
焼かれた遺体を見てみると首を抑えるように両手がそえられていた
遺骨を骨壺にいれ犯察まで帰って来た
「室長!失礼します!」
「無事終わったか?」
「はい。武藤浩輝の遺骨を持って帰ってきました。」
「遺骨は母親に連絡をして持って帰って貰いなさい。最後の奴の様子はどうだった?」
「叫びもせず抵抗もせず……」
「そうか。それでは死刑執行をした事をご遺族に説明してやってくれ!それが終われば、この事件は終わりだ!」
「はい!それでは連絡して参ります。今回の資料はすべて倉庫に移しておきます。」
「頼んだぞ!」
一瞬、室長の顔が泣いてるように見えた
後藤も斎藤も何も言えずに立ち去った
後藤も斎藤も知らない真実…
最後の被害者、神崎 由美は室長の三女であった
調べれば解る事実ではあるがあえて調べなかった斎藤
室長の気持ちを悟り、すぐに火葬させた
後藤がこの話しを知るのはずっと後の事である
「斎藤さん、なぜ室長は最後の被害者にこだわったんですか?」
「……さぁ。残忍な犯行と同時に2人の命を奪ったからじゃないか。」
「そうなんでしょうか…。室長泣いてた様に見えたんですが…」
「…そうだったか?俺には見えなかったぞ。」
「でも……」
「この話しは終わりだ。犯人は死刑執行されたんだ。」
「そうですねぇ。」
「次の被疑者の資料が明日来るらしいから、今日は帰って休め!」
「はい。失礼します。」