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sinner  作者: 月島裕
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偽りの中の優しさ

「………おい!斎藤聞いてるのか!」

斎藤は大きな呼び声にも反応しなくなっていた

やはり精神的苦痛は大きかったようだ

神崎は内ポケットに閉まっていた銃の様な物を取り出し斎藤目掛け打ち込んだ

《バンっ》

斎藤は床に倒れ込んだ

「斎藤…もう大丈夫だからな…すべて忘れろ…」

倒れた斎藤に優しく話しかける神崎

佐々木同様に斎藤も身体を浮かせコントロール室へと運んだ

コントロール室には部屋が何個もあり2人はそれぞれの部屋に寝かせられた

斎藤は手の傷がひどかったため治療器具を付けられた


通信機で外の仲間へと連絡を取り始めた

「こちら神崎。斎藤、佐々木2人とも精神的に参ってしまい今眠っている状況だ。そっちはどうだ?」

『後藤、小野は無事保護して今もう一つのシミュレーション室にいた所だ。小野は相当参ってるみたいだが鎮静剤打ったら落ち着いた。この後は予定通りに進めるのか?』

「斎藤が思っていたよりダメージが強くてな…記憶消去したんだ。人格が変わったり、結構前の記憶から消えてたりした事例もあるからなぁ……。斎藤が起きてから考えよう」

『了解!こっちもそっちと合流するか?』

「いや、とりあえずはまだバラバラの方がいいだろ。もしものために。」

『そうだな……。気をつけろよ神崎!』

「了解。」


通信機を切り斎藤、佐々木の様子を見に行く

斎藤が目を開けていた

「おぅ!斎藤、気分はどうだ?」

「…………。ここどこだ…。」

「ここはコントロール室だ。お前も佐々木も倒れるから運ぶのに苦労したぞ。」

「そうだったんだ……。すみません……。」

「ここに来た事覚えてるか?」

「あぁ…いや…わかんない…。なんか大切な事があったような…頭がズキズキする……。」

「倒れた拍子に頭ぶつけたのかもしれないから頭の画像撮ってみるか。薬もあるから無理せず飲めよ。」

「すみません。じゃ薬下さい。」

神崎は痛み止めと一緒に精神安定剤も混ぜて渡した

「ありがとう。なんか迷惑かけてごめんな。」

「何言ってるんだよ!俺らの中じゃないか!」

「いや、本当にありがとう助かった。」

「また少し寝とけよ!薬飲んだんだから。」

「ありがとう。そうするよ。」

そう言って斎藤はまた眠りについた

上山の事を忘れているようだった

次に起きた時に探りをいれようと神崎は考えていた

どこからどこまでが消されているかを…

次に佐々木の様子を見に行くとまだ眠っているようだった

そこからモニター室に移動して外の様子を確認するとシュミレーション室の周りには警視庁の人々が包囲していた

何か話しているようでマイクの音量をあげた

『神崎!お前らはもう包囲されている!無駄な抵抗をせず出てこい!出て来なければ強硬手段に出るまでだ!』

叫んでいる様子を見ながら神崎は薄ら笑いを浮かべた

「馬鹿どもが…すぐに消えてなくなるがいい…」

そう言ってシュミレーションを作動させた

一分後…警視庁から派遣された人々はなんでここにいたのか分からなくなり帰って行った

シュミレーションに関わった犯察のメンバーと神崎の仲間以外の人間が記憶を失った

「これで誰も覚えていないだろう…」

「神崎…」

部屋から佐々木が出てきた

「具合は大丈夫か?」

「あぁ…少し頭が痛いぐらいだ…。神崎…俺たちは、これからどうなるんだ…家族は…みんなは…」

「もう大丈夫だぞ。全員記憶を消した。だから心配しなくても今まで通りだ。犯察にくる前に戻るだけだ。」

「……。そんな事出来るのか?」

「あぁ。出来るさ。」

「なら俺の記憶も消してくれないか………。」

「あぁ…分かった。佐々木、今までありがとうな。元気でな。」

そう言って神崎は佐々木の記憶を消した

佐々木は床に倒れ込んだ

「ごめんな。辛い思いさせてしまって…俺のエゴだったのかもしれないな…」

神崎は優しく佐々木の頭を撫でて、さっきまで居た部屋へ佐々木を移動させた

そして通信機を使い仲間達へ連絡した

「こちら神崎。悪いがこっちに来てくれないか?」

『分かった。何かあったのか?』

「佐々木に頼まれて記憶を消した。警視庁の連中も記憶を消したから今は居ない。あと、後藤と小野にどうしたいか聞いてくれるか?」

『了解。向かいながら聞いてみる。佐々木はどうするんだ?自宅に戻すか?』

「そうしてくれると助かる。それでは後で。」

『了解。』

通信機を切った後、神崎は犯察のメンバーで撮った写真を見つめていた

「初めは楽しかったな…みんなで色々悩みながら答えを出し合ったり…」

そう言ってうっすら涙を浮かべていた

30分後、みんなが到着した

「神崎、大丈夫か?」

「あぁ大丈夫だ。小野と後藤は?」

「2人の様子を見に行ってる。小野は記憶消去を望んでいる…後藤はここに残ってお前の役に立ちたいと言っている…」

「分かった。向井、お前たちには悪いが書類には犯察メンバーとして名前が残っているんだ。記憶は消せても書類は残ってしまうから結成当時から書き換えてあったんだ…」

「神崎、そんな事気にするなよ!俺らは最後まで付き合う気でいるんだから!」

「ありがとう…すまない…」

神崎の仲間達は、向井、佐藤、菊池、二階堂

メンバーの人数を少なくしたのも仲間の数と同じにしたかったのもあった

神崎は初めから予測して書類をすべて書き換えていた

「神崎、小野の記憶消去が終わり次第。佐々木と小野は俺と菊池で送り届ける。その間、佐藤、二階堂はモニターと警視庁の様子を確認してもらう。小野の記憶消去が終わり次第、後藤と話しをしろ。」

「分かった。」

神崎は佐々木の部屋に居る小野の所へ

ドアを開けると泣きながら小野が走って来た

「室長…」

小野は神崎に抱きついてきた

「すまなかったな。小野ちゃんと話しもしてやれなくて…」

「室長…俺こそすみませんでした…」

「今までありがとうな。元気でな小野。」

小野に優しく話しかけ記憶を消した

「辛い思いさせてしまってごめんな。」

小野の頭を撫でながら神崎は泣いていた

ドアの側に居た向井は神崎が落ち着くのを待ってドアを開けた

「神崎、終わったか?」

「あぁ…。すまない…2人を宜しく頼む…」

神崎は向井に深々と頭を下げた

「なんだよ。改まって…ちゃんと送って来るから心配するな!」

「ありがとう…」

神崎の肩を叩き向井と菊池は出て行った

神崎は斎藤の部屋に居る後藤の所へ行き斎藤が寝ているのを確認して後藤を違う部屋へと移動させた

「後藤、お前は俺たちについてくるのか?」

「はい。私は室長の意志に賛同しています。ここに来るまでの間、倒れている人や死んでいる人を見ました…でも犯罪がなくなれば本当にいいと思っているんです…初めは迷いもありましたが…今は日本を犯罪のない住み良い国にしたいと思っているんです。」

「………。そうか…でも俺たちは世界を変えたいんだ…規模はデカいが日本を守るにはすべての国を変えなければダメだと思っているんだ…それでも付いて来てくれるのか?」

「はい!」

「そうか…宜しく頼む。」

神崎は後藤に手を差し伸べ握手した

次の瞬間、後藤が床に倒れ込んだ

「ごめんな。後藤、お前たちにこれ以上迷惑はかけられない…」

ドアが開き向井が入ってきた

「終わったか?」

「あぁ…すまないが頼む…」

「了解。斎藤は当分起きそうにないから先に3人送ってくるな。」

「宜しく頼む。」

佐々木、小野、後藤は記憶を消され犯察との繋がりは全てなくなった

神崎の最後の優しさであった

これから起こる事を察しての事だった

斎藤を最後まで手放さない理由…それは神崎にしか分からない事だった



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