室長の謎
車の中では小野がブツブツ独り言を唱え始めた
「佐々木さん、小野置いてきた方が良かったんじゃないんですか?精神的にまいっちゃってますよ」
「俺らと離れたらすぐに連れて行かれるに決まってるだろ。室長の、あの話し方からすると警察関係すべてに流れてるはずだしな…下手すると一般家庭にも流れてるかもしれないぞ」
「ですかね。私達と居る方が辛そうなんでつい…。一般家庭に流れてれば私達もまずいんじゃ…」
「後藤。今更だろ。この際、最後まで付き合おうぜ!」
「そうですね。」
内心、家族の事を考えると踏み入りたくない気持ちもあった
自分に何かあれば家族が大変な思いをするかもしれない
後藤は迷い初めていた
そんな中、斎藤が口を開いた
「佐々木、ここから先は俺達だけで行かないか?」
「えっ?何言ってるんだ!今、後藤にも話したよな?」
「だからこそだ、これ以上は俺達だけにしておこう。何が起きるか分からないんだから。近くに車止めてあるから後藤と小野には帰ってもらって俺達だけで室長と話し合おう。」
「……。分かったよ…、お前がそこまで言うなら…」
シュミレーション室近くの駐車場に二人を下ろして佐々木、斎藤だけでシュミレーション室に向かった
シュミレーション室に近付くに連れ段々辺りの雰囲気が一変した
「おい。さっき来た時もこんな感じだったのか?」
「いや、さっきと全然違う…さっきから気になってたんだが…」
「なんだ?」
「室長の言葉だよ。シュミレーションをかけるにはシュミレーション室に行かなきゃいけないはずなのに死んだり精神に異常をきたしたりとか…無理じゃないのか?」
「技術者なんだから作り替えたんじゃないのか?」
「そんな短時間で出来る訳ないだろ。それか元々ついてたのか…」
「ありえる話しだよな……。もう少しで着くぞ。」
「あぁ。奴らまだ居るだろうな」
ライトを消し少し離れた所から歩き始めた
辺りは薄暗く人の気配すらしなかった
「なんか変じゃないか?静かすぎる……」
「あれみてみろ。あいつら全員倒れてるぞ!」
「……!!」
よく周りを見渡すと警視庁の人々が倒れていた
急いで駆け寄り声をかけた
「おい!大丈夫か?」
返事はなくグッタリしている
呼吸と脈を確認する
「呼吸はしているみたいだな…良かった…斎藤そっちはどうだ?」
「呼吸はあるが意識がない…。何があったんだ…」
「室長の所に急ごう…」
二人はシュミレーション室に着いた
入り口は鍵がかかっていて入れそうになく裏口へ周り犯察のメンバーだけが知る秘密の入り口から中に入った
「電気が消されてるな…懐中電灯持ってるか?」
「少し小さいがあるぞ。室長はどの部屋にいるんだろうな?」
「一つ、一つ探していくしかないな…」
「あぁ」
二人は次々、部屋の中を確認して回った
そして最後の部屋の前に着く
「最後はここだな。居てくれればいいが…」
「そうだな…」
ドアノブを掴む手が心なしか震えていた
「佐々木?大丈夫か?」
「あぁ、ちょっとな」
そう言って佐々木は両手をこすりあわせ、ドアノブを掴んだ
その時、中から悲鳴が聞こえてきた
『ぎゃーー』
二人は顔を見合わせてドアノブを勢いよく引いた
二人が見たのは室長と浅見だった
浅見は悲鳴をあげながら這いつくばっていた
「神崎!何やってるんだ!」
「お前たちも来てくれたのか…最後の仕事をしているだけさ…犯罪者は皆、死ぬべきだ…お前たちもそう思うだろ?犯罪を犯そうと企てるものには精神的苦痛を、犯罪者には死を……」
「………。神崎…。浅見をどうするつもりだ?警視庁の奴らが刑務所に連れて行ったはずだろ?」
「……。来た時に連行しようとしてたから返してもらったんだ。反応を見ようと思ってな…テレビの電波を使って日本中にシュミレーションを作動させたんだ…大丈夫、携帯の電波も同様だから効かない人間はいないよ」
「初めから、こうするつもりだったのか?!俺達はお前に使われてただけなのかよ…。」
泣き崩れた佐々木を斎藤が優しく背中をさすり
「お前の気持ちは分かってるから落ち着け。」
そう優しく声をかけた
泣き崩れた佐々木は急に倒れ込んだ
「佐々木!!佐々木!!」
「あぁ精神的に参ったんだろうな…ただ眠っているだけだから大丈夫だよ。斎藤はやはり精神が強いな…だから選んだんだけどな…」
「神崎…どうするつもりなんだ…?」
「この腐りきった世の中を正すだけだ…斎藤なら解ってくれるよな?あの絶望は死に等しい…。」
斎藤は黙って神崎を見つめていた
浅見は静かに息絶えた
神崎は浅見の死を確認すると落ち着いた様子で話し始めた
「娘を失った日から私はなんのために刑事になったのか分からなくなっていた…自分の家族も守れず市民を守る事なんて出来ない……そう思ったんだ……そんな時、上の人間から呼び出しがありシュミレーションを開発しないかっと言われたんだ…初めは迷ったが色々考えてやる事にした。でも集められた人間は使い物にならない程度で私の知り合いを呼んで手伝ってもらって一年かけて完成したんだ。まぁ天才ばかりだから普通の人間より早く完成したんだがな。出来上がりの完成度を観るために上山 透って言う死刑判決を受けた人間を使って試したんだ。」
「……上山…」
「お前も知ってる奴だろ?実験は大成功で、シュミレーション専門の科を作る事になった。それが犯察だ。そして技術者でもある私が最高責任者になった訳なんだ…そして、ここからがアイツらの知らない話しだ。私が最高責任者に推されてすぐに一緒に完成させた仲間達を呼んで作り替えたんだ、衛星を使って遠くに飛ばせるように。もしも、すぐに犯察が消されるような事があった場合に備えて……まっ初めから解っていた事だったんだけどな……思っていたより早くに消されたな…小野と後藤は私の仲間達が保護したから安心しろ。これから全員の記憶を塗り替える…犯察のメンバーも死刑にかけた人間も…」
「そんな事出来る訳ないだろ?!さっきの話しに出てきた上山って俺の娘に危害を加えた奴だよな?」
「出来るんだよ私には。上山は、お前の娘に危害を加えた人間だ。余罪がありすぎて死刑判決になったんだよ。それで斎藤お前の事も知ったんだ。」
「だから探しても見つからなかったのか………」
「この事は公に出来ない決まりだったから話せなかったんだ、すまない。お前が探しているのも知っていたんだが…」
「いや…話してくれてありがとう…そっか奴は死んだのか……」
「まだ死んではないぞ。施設の中に居るんだ。ついてこい!」
斎藤は佐々木が心配でその場を動かなかった
それを見ていた神崎は徐に何かのスイッチを押した
その瞬間、佐々木の身体が浮き上がり神崎の方へと運ばれた
「佐々木も連れて行くから着いてこいよ。」
佐々木の身体は浮いた状態で神崎の後ろに付いて行ってるように見えた
「ああ。それどうなってるんだ?」
「この施設の中にはまだまだ色々な機能が付いてるんだ。これは人間を無重力にする機械だ、使っても害はないから安心しろ。」
「そうなのか。俺達が知らないだけで色々あったんだな…」
「まぁな…シュミレーション室の機械も本当はなんの意味もないんだけどな…脳内に色々作用して身体に現れる物だからな…まっ説明するのも難しいからな。ここから地下に行くんだよ。」
「!?地下なんてあるのか?」
「地下三階まであるんだが上の人間のペットが紛れ込んでたら困るから言わなかったんだ…。ここの一番奥の部屋に奴はいるんだ」
エレベーターを降り2人は奥の部屋へと向かって行った
斎藤の顔が強張り始めていた
憎しみが湧き上がってきているように…




