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スター誕生!(仮)  作者: ふー
プロローグ
2/7

誕生

お読みいただきありがとうございます

私の母はとても綺麗な人だった

過去形なのはもう亡くなってしまったからだ

それでも儚いほど美しくたおやかな母の姿は目に焼きついている

生まれて間もないうちに母を亡くした私を、周りの『人』達は可愛がってくれる

自分ではわからないが、母親譲りの美しさが備わっており大きくなるにつれて母をも上回っているのだそうだ


「ねえねえ、ユキちゃん。一緒に遊ばない?」

同い年のツキちゃんだ


「いいよ!遊ぼう!」


他に子供はいないのでツキちゃんとは、いつも一緒に遊んでいる

でもツキちゃんはいつも先に疲れちゃうんだよね

ほらすぐ走るのをやめちゃう

私は走るのが大好き!

耳元で風がビュウビュウ通り抜けていく

足元の草が踏まれて爽やかな匂いを撒き、時折バッタも飛び上がって逃げる

柵なんてなければもっと遠くまで走っていけるのに・・・・


「ユキちゃん!待って!早いよ!」


立ち止まってツキちゃんが来るのを待つ

走って乱れて顔にかかってきた毛を、払いのける

額ギリギリのところにつむじがあってそこの毛だけ逆に流れているので、こここの息子のかっちゃんのお気に入りの漫画の主人公のように“アホ毛”が立っているのだ

煩わしいけどみんなはこれ()チャームポイントと褒めてくれるので我慢している


ツキちゃんの後ろから、牧羊犬のヨーゼフも駆けてくる

「ユキ!クマが最近出始めているから、柵の内側でもあまり遠くに行くなよ!」


今は5月

北海道では一斉に草木が芽吹き、花が咲き乱れる美しい季節だ

食べるものはあるはずだが、冬眠明けのクマはお腹を減らしている上に、子連れもいるので秋と同じく油断はできない

ヨーゼフは今年生まれたユキはそのことを知らないので、追いかけて注意をしに来たのだ


「つまんないの。じゃあヨーゼフ兄ちゃん。鬼ごっこしよう!」


「俺はこれから仕事。わかったらさっさと戻れよ。」

そういうと黒いフサフサの尻尾をひと振りして帰っていく


「いいなあ。あのフサフサのシッポ。」


「ユキちゃんだって白くて綺麗な尻尾があるよ。」

ツキちゃんが後ろに回ってゆらゆら揺れているユキの尻尾を見る

「本当にユキちゃんは綺麗だよね。」


真っ白でシミ一つない体

細い絹糸のような白い髪

空の青のような瞳

気品がある顔立ちに一点ちょこんと出るアホ毛がアクセントだ


「ツキちゃんだって、可愛いよ。」


額に月の形の星があるのでツキと呼ばれている

ツキはちょっとコロンとした体つきで柔らかな栗毛でお母さんそっくり

牧場のお父さんが、ツキちゃんはお父さんの血よりお母さんの血の方が強く出たと言っていたっけ


ちなみに私は体の色と目の色以外はお父さんにそっくりだそうだ

お父さんはテレビにも出たことがある“でんどういり”して誰でも知っているほど有名だそうだ

そんなお父さんに似ているって、ちょっと自慢

でも一度もあったことがないのよね

そういうのは当たり前のようでツキちゃんも同じ


ツキちゃんと一緒に歩いておうちの近くまで帰ってくるといつもと違う匂いが、風に乗って運ばれてくる

時々来るおじさんの“タバコ”の匂い


「ユキちゃん!甘いものがもらえるかもよ!」

私たちは出されたものはなんでも食べるが、やっぱり甘いものは好きだ

この間おじさんに、もらったことは忘れていない!


「うん。急ごう。走るよ!」


「待って!ユキちゃん置いていかないで!」


「先に行って足止めしておくよ。」


「そうか!じゃあお願い!」


GOサインが出たので今日一番のスピードを出しておじさんが乗ってきたと思われる“車”へと向かう

ああ、やっぱり走るのって気持ちいい


【side B】

うちは大手の馬産牧場ではない

従ってあの“神の鉄槌”と呼ばれて世代を代表した馬をうちの馬に付けるにあたっては、種付け料は本当に痛かった

血統からしてうまくいきそうなのは、オヤジの趣味で残しておいた白馬のスノーホワイトだった

体質の弱さからレースに出せずに登録を抹消した馬だ

賭けである

だがもともと裏付けがあったとしても種付けは賭けなのだ

子供ができていなくても種付け料は払わなければいけない格のオスを付ける以上、まずその段階から賭が始まる

最近では色々と考慮されては来ているが、遺伝という神の領域では何が起こるか予想がつかない


幸い第一段階の賭けには勝った


スノーホワイトは見事に子供を産んだ

例え初乳をかろうじて上げられたものの死んでしまったが、彼女は見事に自分の血を残した

メスであったがそれはさほどのことではない

それは生まれながらにして気品を持つ馬だった

輝くような白い馬体

競走馬に生まれなくとも神馬として立派にやっていけそうなくらいだ

しかしここは競走馬を育てる牧場だ

走れなければ話にならない


第二の賭けにも勝ったようだ


生まれた仔馬は母の美しさのみを受け継ぎ、弱い体質を受け継がなかったようだ

そして“神の鉄槌”のバネの強さとスピードを受け継いでいる・・・と思える特徴もある

ともかく元気いっぱいの子供だ

目が離せないほど、おてんばで

油断できないほど、頭がいい

母親の名からとって牧場ではユキと呼んでいる

呼ばれると自分の名だとわかっているらしく反応する

人懐っこく美しい馬なので、皆彼女の世話をしたがった

休み時間も彼女の馬房へやの前でするのが恒例になるほどだ

特に春から夏にかけては牧場に、畜産系の学校に行っているアルバイトが来ているので賑やかだ


第三の賭けはこれからだ


うちのような零細の牧場にもコーディネーターは来ることがある

その機を逃さず売り込まなくてはならない

本当に綺麗で可憐でスター性のある子なのだ

できれば中央の芝(ぜんこく)でデビューさせてやりたい

こちらが入れ込んでしまうほどの魅力がある子なのだ


そのためにはまずこの男にユキを撮ってもらおう



この仕事を長くしているよ『うちの馬はいい馬なんですよ。是非見に来てください』とよく誘われる

行ってみると大抵が失望する

しかし十のうちイチいや三十のうちイチには、これぞという()に出会える

そういうを撮ってコーディネーターや馬主つないでご飯を食べているので出向かざるを得ない

だからこそ足を運んだわけだが、いい産駒が本当にいるのかというくらい小さな牧場だ

さぞなけなしの金を払って“神の鉄槌”の子供を作ったのだろうな

ハズレかな

脳裏をよぎる

帰りはジンギスカン鍋でもつついて帰ろうかと頭が切り替わった


「来ました。あの子です。」


つけようとして加えたタバコが落ちる


「あれは」


白い馬体が宙を駆けるようにこちらへ・・・・いや違う

ちゃんと走っている

多くの子馬(スターのたまご)を見ているからわかるが、こちらに駆けてくる子は持っている(・・・・・)


「綺麗ですね。」

かろうじてその言葉がでる


「綺麗です。でもそれだけではありません。欲目でしょうが“逸材”です。」


言いすぎだろうと笑いたくなるが、近づいてきたその姿を見ると否定しきれない

ずっと駆け回っていたのだろう

血の気が上がった桜色の肌が透けて見えて、うっすらとピンクに見える

『汗血馬』というのが中国の話に出てくるが、こういうことを言うのだろう

まだ馴致もしていないはずなのに綺麗な歩様だ


ちよっと手前で立ち止まりこちらを伺っている

なんだ!

あの額にちょん!と出ている毛は!!!!

キュートすぎる!

そして!

そんなに見ないでくれ!

俺は、俺は、汚い大人なんだ!!!!

・・・・しっかりしろ!

何をやっているんだ

気を取り直して美少女こうまばたいを見直す

・・・・

・・・・・

・・・・・・

牧場主の欲目ではないかもしれない


「写真撮らせてもらいます。」


「是非いい馬主に紹介してください。」


「芝ですよね。」

撮りながら念を押す


「ダートで汚したくないというのもありますが、適正はあると思います。」


「確かに・・・汚したくない。」

俺は初めて《馬に》恋をした


馴致

プレ調教のこと

鞍をつけたり人を乗せたりハミを噛ませることに・・・つまり人を乗せれるように訓練することです

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