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白い世界へ


 俺はエルネスに付き従い建物の中をひた走るならぬ、ひた歩く。エルネスの話しではこの建物はどうやら魔王城の中らしい、何となくそうじゃないかと思ったが中身は結構まともなもんで、別におどろおどろしい意味不明な物とかは無かった。強いて挙げるとすれば、魔物メイドが居た……。エプロンドレスを着ていたが、着ていたのが蛇女とか馬女や、あと色んな羽とか翼の生えたメイドが居た。眩暈がするほどファンタジック……、実際膝が笑ってヤバかったんだよ、本当ビビってさ……。それに擦れ違う度睨まれるんだぜ?俺って魔王の勇者じゃないのかよっ!?




「それで、さ、今どうゆう状況なわけさ?」


 現在地はまず解った、魔王城内だ。なら次は、何でこんな急いでるかって事だ。


「今から大魔王に会いに行きます」


 大 魔 王 !


「もしかして、大魔王様にご挨拶に行くとか? いや、緊張するなー!」


 大魔王ってどんなんだろ、やっぱ角とか生えてたり高笑いとかするするのかな?やっぱ三回くらい変身して戦ったりもすんのかなー?



「はい、お別れのご挨拶に行きます」


 あぁ、……お別れ、ね。


 ……やっぱり、何か良くないことが起きてたのか。ま、最初っから何かおかしかったよな、いきなり旅仕度だし。


「何か悪いことしたの?」


 俺はもうビビってた事も忘れてテンションだだ下がり、声のトーンも低く落ちて通常運転モード驀地(まっしぐら)


 エルネスは俺の変化に気付いたのか何なのか、立ち止まりこちらに振り返った。その顔は初めて出会った頃と変わらず穏やかで、別段何か気にしている様子は感じられなかった。


「どうやら私が勝手に貴方と遣いの印を交わしてしまったことが大魔王の逆鱗に触れてしまったみたいで」


 急に重要な事実が発覚した。


「あーえっと、それってつまり……、俺がコッチに来るのは想定外?」


「はい」


「もしかしてこうなる事は想定内?」


「はい」


「大魔王はもう敵とかだったり?」


「味方では無いですかね」


「エルネスはもう魔王じゃ無かったり?」


「元魔王ですかね」


「エルネスの今の立場は?」


「大魔王であるオーグル・ロウル・アクシマと親子の縁を切られた、ただのエルネスです」


「……俺って、魔王の勇者……?」


「私の勇者です」




「……はぁ、ファンタジーって、何でも有りなのね……」


 何事も有り過ぎるのは困りものだよな……。


「大丈夫です、何とかなりますから」


 エルネスは言いながら事もなげに微笑むけども……。俺にはあんたしかいないんだよ、頼むぜ……。



 エルネスは俺の反応を納得と判断したかは知らないが、また前を向き直り歩きはじめた。大魔王の下へと。




―――――◇―――――



 はい、やって来ました大魔王の御前、謁見の間だよ。大魔王の前に来た途端俺に何やら殺意的で殺人的な視線ビームが飛んで来てますよ!?全面的に俺の所為じゃ無いですよ大魔王様!


「……っ!!」


 今スッゲー睨まれた!目が見開いてたよ血走ってたよ血の気が引いたぞっ!



 でもまぁ……、大魔王って割には、随分人間っぽい形してるんだなーと。ガタイは確かにがっしりしてるけど、角は無いし羽は無いし目とか二つだし手足二本づつだし肌の色とか不気味じゃないし。ってそっか、エルネスの父親だったんだよな、エルネスと大差あるわけないっか。そっかそっか。


「貴様が異世界人か」


「はっは! はい……」


 脳を揺さ振られる強大な声が俺に降り注ぐ、つーかなにこれ、心臓も若干痛いんですけど……!?命握られてんの俺!?


「彼の名は“斉智・葉岾”、私の勇者です大魔王様」


 不甲斐無い俺に代わって横にいたエルネスが前に出て言葉を継いでくれた、サンキューエルネス。俺は出来るだけ黙ってるか。


「見た所、大して強くも無い様だが」


 大魔王様の声はさっきより落ち着いていて心臓が痛いなんて事も無くなったが、その目付きは相も変わらず身が竦む程の睨みっぷりでまともに目も合わせられない。

 つか悪かったな一般人で、別世界に来て狂乱しないだけ凄いと思ってくれ。


「彼とは遣いの印を結びました。それに斉智は私が納得して見付けた私だけの勇者です、大魔王様には関係ありません」


 エルネスは毅然とした態度で自分の父親に、しかも大魔王様に真っ向から対立する。

 そのエルネスの言葉を聞いた大魔王様は俺から視線を外し、エルネスを見詰める。大魔王様は感情を消したような、読めない表情をしてエルネスと視線を交わしている。火花が散ってる感じではないな。


 それにしても、関係ありませんって。互いにもう割り切ってる感じだし、縁を切ったってのは冗談とかじゃ無い訳ね。大魔王様が冷めてるのか大魔王だからなのか、エルネスが突き抜けてるのか何なのか、俺には解らんけども。


 そんなこんなだが俺が黙ってからは大した会話は無く、形式ぶった堅い別れの言葉を交わして俺とエルネスは魔王城を去ることになった。あっさり塩味もビックリな幕切れだな。



 大魔王と会ってから会話が無いまま玄関、と言うか雰囲気的にエントランスの様な場所まで来ていた俺は先を行くエルネスに声を掛けることにした。


「エルネスさん、ちょっと、いいかな?」



 俺の呼び掛けに反応して緩やかに振り返ったエルネスは、相も変わらず穏やかな様子。大魔王と対峙していた時は流石に毅然としていたけど、それ以外では常に穏やかで若干恐くもあるが。まぁまだ彼女を知らないので置いておくとして……、そろそろいいか?


「いい加減、これからどうするかをちゃんと聞いておきたいんだが」


 俺が頼りにしていた魔王という肩書は既に無いものになっていて、魔王の勇者として呼ばれたと思ったらエルネス個人の勇者だったわけで、そもそも勇者ってわりに大魔王からは大した事ないとか言われて。色々と雲行き怪しい、というか最早出だしから雨降っている。

 どうなるんですかねぇ……。


 エルネスはエルネスで不安を微塵も感じていない様子で、何故か余裕すら感じる。意味わからん。

「そうですね」


 そんなエルネスは漸く今後のことについて話す気になったようで、ゆったりとした口調で話し出した。


「これからの事、ですが。まずは城下街に行ってこれからの旅に足らない物を買いましょう、それから宿を取って、翌日にはここから出て一先ず近くの町まで行こうと思います。そこから先はまた別の町に行って……そうですね、居心地の良い場所を見付けたら仕事を探すのも良いかも知れませんね。その先は、またその時になったらお話します」


 ざっとだがエルネスは予定を話してくれた、どうやら明日から異世界での長い旅が始まるらしい。全く以って心が躍らない、不安不安に続く不安で情けないがやっぱり不安。


 まぁ、でもとりあえず。



「ふぅ、ここに来て、また覚悟を決めなきゃならないわけね。幸先悪いけど、もうどうしようもないし、契約に同意しちゃった後だし。どうにでもなってくれだ」


 不安を押し殺す、と言うより後回しにする。正直不安はあれど後悔はしてないし、結局俺一人じゃ何にも出来ないし。かわいい女の子と二人旅、いいじゃんそれで、今はそうやって難しく考えないようにしよう。


「……ありがとう」


 エルネスは微笑みながらそう言った。このエルネスを前にすると心が軽くなる気がする。


「んじゃ、ここから出ますか」


 俺は若干の気恥ずかしさからエルネスの先を行き、その先にある大きな扉に手を掛ける。

 とにかく心機一転、第二の人生、第二の葉岾斉智の物語の幕開けだ。明るく楽しいものにして行こうじゃないか。よっし、行こうぜ俺!



 そうして俺は扉を開け放つ、目の前は俺の旅路を祝福するかのように白く輝いて――。








「って、寒い!?」


 白くて当たり前じゃねぇか! 雪降ってんだよ! 何のための重装備だよ、目茶苦茶油断してたわ……!


 目の前に広がる銀世界、と言えば聞こえは良いが、体感するとそんな情緒は何処へやらである。

 つーか城の中あったけーな、どんな技術だ?


「さぁ、まずはお買い物をしましょう。どうしたのですか、斉智?」


 ハッとなってエルネスの姿を確認すると、エルネスはいつの間にか俺を追い越して外へ出ている。流石現地民、ものともしないな。


「あっ、ああ。何でもない」


 俺は慌ててエルネスの側に着く、エルネスも一瞬不思議そうな顔をしたけどまたすぐにいつもの穏やかな顔に戻った。



 見上げてみた空は日が落ちてきたのか雲間から差し込む光はオレンジ色で、こっちの夕焼けも向こうと変わらないんだと、ちょっと安心した。






次話投稿は、かなり間が開くと思います。


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