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白い部屋から

プロットもまともに組めない素人ですが、よろしくお願いします。



 日も完全に落ちきった夜、一定間隔で置かれている街灯は周囲を明るく照らしてコンクリートロードの道標として毎夜熱心に働いている。


 俺は家路を急いでいた、急かされているわけではなく単にアルバイトで疲れていただけ。今日は客足が絶えなかった、と言うか特に今日は、である。忙殺、読んで字の如く忙しさに殺されるかと思うほどだったが、明日は日曜日で休日、アルバイトも高校も予定も何も無い純粋な休み。

 週に一度のこの休みの日は、決まって俺は一人で過ごす。人気の無い所を狙って散歩したり散歩したり散歩したり、近所には山も海もあるが人気の無い場所はそんなにあるもんじゃないのでパターンは決まってくるが俺にとってはライフワークの一つ、リフレッシュ出来ればそれでいい。


 別にそれ以外することが無いわけじゃ無いぞ、俺は静かな男なんだ、うん。



 そんな誰に話しているのか解らない説明に俺はバカバカしくなって内心苦笑いしながらも、「明日があるさ!」と若さを盾にして過去を振り返らない事を小さく誓った。



 そんなこんな葛藤を振り切って帰宅した俺は風呂へ直行、ゆっくりして疲れをとった後は遅い夕飯を食べて布団に包まった。




 布団に入り布団に包まり目を閉じた。と思ったら起きていた。いや、寝たなら起きるだろとかじゃなくて、えーと、多分、夢だと思う、だってここ俺の部屋とは思えないし。それに俺、高校の詰め襟制服着てるし。



 その夢の世界は真っ白な四角い部屋で、天井は高く天窓から光が燦燦と降り注ぎ、白い部屋が尚白く映る。その白い部屋を見渡すと白いドアが一つだけあった、開くかと思い一歩近づくとドアが独りでに開いた。俺は思わず身構える。


 身構えながらドアが開いていくのを見ていると、人が現れた。


「お、女……の子?」


 ドアを開けた先にいたのは女の子。

 濃紺の腰まであるような豊かで艶やかな髪と澄んだ紫の瞳で整った目鼻立ちの、所謂美少女というやつだった。ついでに服装は濃い赤色のドレス、貴族っぽい。


「こんばんは、それとも今は起きているのだから、おはようございます、でしょうか?」


 でしょうか? って聞かれても夢なんだからよくわかんないって言うか、……俺の妄想力すげぇな、こんなクオリティの高い美少女を生み出せるとは。自慢じゃ無いが女性と関わる機会なんて生まれてこのかたそうそうなかった俺に、よくこんな妄想が出来たもんだ。


 まぁ何はともあれ彼女が俺の無言さに困ってるみたいだし、話しでもしてみましょうか。


「えと取り敢えず、こんちは」


「あ、はい! こんにちは。よかった、魔法の展開に不備があったのかと思いましたけど、大丈夫みたいですね」


「え?」


 今なんか、品の良さそうな口調と落ち着いた声に紛れて、「魔法」がどうとか言ってなかったか……?


「あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね」


 そう言った彼女は姿勢を正し、一礼。


「わたしの名前は“エルネス・ロウル・アクシマ”、大魔王オーグル・ロウル・アクシマの娘で魔王を勤めています」


 おいおい随分ファンタジーな話しだな、大魔王さんの娘さんとかすごい人来ちゃったし、それに魔王を勤めるとか。夢だからって自由過ぎだろこれ。


「はぁ、俺は“葉岾(ハヤマ) 斉智(サイチ)”です。高校二年生やってます」


 流れに身を任せて自己紹介をしてみたものの、やけにハッキリとした夢だなこれ。ここまで自覚できる夢ってのは初めてだ。


「それでは早速本題です」


 本当に早速だな。


 彼女、エルネスは顔付きを真剣なものに変えしっかりとした口調で言葉を紡ぎだした。




「実は、私は貴方に決めたのです」




 ……?



「なにが?」


「この度、貴方は私の勇者として選ばれたのです!」


 彼女の中では円滑に事が進んでいるようでその喋り口は自信満々、俺の心情も察してくれ。


「あの、俺ってば勇者に選ばれるような事、一切してきた覚えの無い一般庶民なんだけど、さ」


「私が決めたのですから大丈夫です、私の力を貴方に分け与えることも出来ますから」


 と、彼女は何も問題ありませんと落ち着いた様子で話す。嘘を言っている様には感じない、俺の庶民センサーが問題無いと告げている。


「でも、俺が勇者になるって、どうするんだ?」


「それには貴方の覚悟が必要です」


 覚悟……。


「今まで生きてきた世界を捨て、私の元へと来る覚悟。夢ではない別世界で生きる覚悟」


 夢ではない。


 そこで俺はふと思い立って自分の頬を抓ってみた。


「い……、いた……い?」


 痛い、あれ? 痛いってことは?


「ここは夢の世界ではありません、ここは私と貴方の世界を結び、契約を果たすための精神の間です」


 彼女は当たり前の事を言うように、滑らかにそう口にした。


 おいおいおい、おい、夢じゃないって、なんだよこれ! ファンタジーかよ!


「もし断るのであれば、安心してください、また目覚めるときには今の記憶は消え、新たな一日を元の世界で迎えられます」


 そう言った彼女の顔は、やはり真面目で、そして落ち着いていて、不思議と俺の心は静かになっていた。


「そ、そうか」


 リセットしてまた日常に戻れるのなら、真面目に冷静に考えてみるか。俺が勇者になる話しを。


 考える、今まで生きてきた世界での俺を。ハッキリ言って俺は今まで生きてるから生きてきた人間だ、将来の展望も夢も希望も気にしないでただ生きてきた。友達に親しい奴はいないと断言出来るし、親だってもう記憶の彼方で、生きちゃいない。


 俺って一体何なんだって疑問は、誰にだってあると思うし、その答えが高校二年生の俺に出せる訳もないってのも解る。


 でもここに、俺には今ここに、一つの可能性が示されてる。


「悩んでいるのであれば、断った方が――」


「いや」


 だったら俺は、このわかりやす岐路を選ぶ。


「俺はこの転機に賭けたい」


 この先の可能性を見てみたい、自分自身を生かしたい。


 彼女の顔を窺ってみると、真面目な表情が少し緩んで見えた。


「でしたら、右手をこちらに」


 求めに応じ、俺は右手を前に出す。俺の前まで来た彼女は俺の右手をその両の手で包み込んだ。



 今さらなんだが、この子、魔王なんだっけ? つーことは俺、所謂人類の敵になるってことか? つか、俺って一体どこに行くんだ? 地球じゃないんだよな、魔王がいるくらいだし。



 ……まぁ、何とかなるさ。


「覚悟は揺らぎませんか?」


 俺の内心を察知したのか顔に出ていたのか、彼女が最後と思われる確認を求めてきた。それに俺は揺らがないと答える、大丈夫、魔王が味方なんだから。


「では……、汝斉智は私エルネスの勇者になることを遣いの印のもとに誓いますか?」


 ん? 遣いの印? そういう契約の名前かな。


「ああ、誓います」


 俺が滞りなく誓いを口にすると彼女の両手が淡く光だした、微かに温もりを感じる。これが魔法ってやつか……。


「今ここに、遣いの印が交わされました」


 先程まで光っていた俺達の手は元に戻り、俺の手を包んでいた彼女の両手は解かれた。


「なんだこれ」


 その包まれていた手を見てみると、ちょうど五本の指の付け根部分に白いリングが巻き付いていた。触ってみるが指にピッタリ馴染んで取れる気配が無い。


「それが印、契約が完了した証です」


 そう言う彼女の左手にも、俺の右手同様に白いリングが五本の指全部に巻き付いていた。


「これが……」


 俺が不思議そうにリングを眺めていると、彼女の方は満足したのか笑顔が見えた。その穏やかな笑顔にちょっと見蕩れたのはここだけの秘密で。


「私の名前はエルネスです、忘れないで下さいね斉智。それでは、また後程」


 そう言い残し、エルネスは入ってきたドアから出て行ってしまった。残された俺だが、ドアが閉まると直ぐに目の前が真っ白になり、その白に飲み込まれ意識を手放していた。



………………


…………


……






「うぅ…………、んぅ……?」


 眩しい……、朝か?


 閉じた瞼を通して感じる眩しさに刺激され頭が覚めたが、ホント眠いな……、全然眠れた気がしない。そういや今日は休みだし、二度寝でもするか……。


 俺は睡魔の導きに応じて布団を深く頭に被り眩しさ遮断し、二度寝しようと意識を沈ませる。




 ん? 何か違和感が。


 違和感、寝心地が何か、何か変と言うか、自分のじゃない匂いがして、……いつもの布団の感じじゃない?


 その違和感に身体が反応して頭が一気に覚める、目も覚める。目を開き身体を起こしてみると一目瞭然だった、そこはまさに。



「どこだここ……」



 見知らぬ洋風建築的な部屋だった。

 天井は高く何やら豪華な装飾が部屋を彩り、幾つかある窓から見える外は真っ白。雪が積もっていた。


 えっとつまり、これはその、なんだ。


「俺って勇者?」


 ん? と思い出して右手を見ると、そこには白い指輪が五つ親指から小指に一つずつ嵌められていた。


 遣いの……印、だっけ?


 あ、そう言えばどうやって勇者になるか聞いてなかったな。


 てか何より、別世界に来ちゃったって事、か……。


「唐突過ぎて感情が停止してんのかな、驚けないなんて」


 さようなら、俺の日常。



 その後しばらく放心状態が続き、どこかまだ夢なんじゃないかと半信半疑な俺。しかし部屋のドアが開き入って来た人物を見て確信に変わる。


「あら? 斉智、お目覚めになりましたか」


「……あんた、エ……エルネス……?」


 入って来たのはあの白い部屋、精神の間とかで契約したエルネスだった。濃紺の綺麗な髪は変わってないけど、服装はドレスではなくコートの様な服にマントを羽織った、今から外に出かけるといった出で立ちをしてる。


「覚えていてくれたのですね、嬉しいです。ですが今はゆっくりお話をしているわけにはいかなくなってしまいました、急がなくてはなりません」


 穏やかな口調のままエルネスは俺を急かす。

 エルネスは手にしていた袋を床に置き中身を俺に寄越した、それは膝まであるようなシンプルで頑丈そうな一組のブーツ。エルネスが履いてと促したのでベッドから抜け出して立つ、とここで気づく、何故か高校の制服だった詰め襟の学ランを着て、裸足になっていた。何故かとエルネスに問いたかったが、俺の空気センサーが警告を出したため、とにかくブーツを履くことにした。幸いブーツは紐で絞める単純な履き方だったし、サイズも何だかピッタリだった。


 俺はエルネスに履いたぞと視線を送ると、今度はエルネスが着ている様なコートとマント、それに中身の詰まった肩掛けバッグの様なものが用意されていて、それらを身に付けてと言ってきた。俺はまた言われるがままにコートを着込みバッグを肩に掛けマントを羽織った。


 随分準備万端な格好に仕上がったけど、何なんだ?



「では、参りましょうか」


 エルネスはそう言って入って来たドアから出て行こうとする。そりゃないぜ……。


「いや参りましょうかって! どうなってるんだ? 何で急いでるんだよ? つかここはどこなんだ? 一体、何なんだ?」


 早い流れに耐え切れず俺はついに思っていたことを口にした。はっきり言って不安だった、俺は別の世界に来たんだろうが何も解ってない、意味が解らない。


「……それは道中お話します、今は私について来てください」


 エルネスは穏やかさを崩さぬまま、しかし強い力の篭った声で俺に言った。正直な話、理不尽だと思った想定外だった訳が解らなかった。


 だけど思ったのは、今頼れるのはエルネスしかいないって、そういう事だった。


 それに何故だか、俺はエルネスの言葉に逆らえないかの様に、素直に従う様に、それ以上口出しはしなかった。


 不思議な感覚だ。





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