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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語Ⅰ  作者: 飯塚ヒロアキ
第一章 黒髪の少女との出会い
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極東の魔王 その4

この国は奴隷がいて、それを支配する人がいる。


単純に考えれば、弱者と強者の関係だ。


彼らは死ぬまで虐げられ、ヨハンネたち富裕層や貴族が、彼らを虐げ続ける。


それは誰が決める?


(僕よりも小さい子供が奴隷の扱い受けるのは正しいのか?それとも間違っているのか?)


わからない。


ヨハンネは頭を抱えた。


そして、ある事を思い出した。


本棚を探し始める。


(確か、曾祖父の残した書物があるはず……)


ヨハンネは思い出した。


曾祖父は冒険家であり学者だった事を。


床に書物を無造作に投げ、彼は夢中で探し続けた。


奥深くに眠る一つの書物を見つけ、彼は手に取った。


題名には“王の都”と書かれていた。


それを迷うことなく開き、黙読する。


読み進んでいくと彼の目がある部分で止まった。


―――――――遥か古の時代、王の都であるシェール国は自由の国として富を生み、栄えていた。そして国の定めとして国民の生きる権利と平等が保証され、奴隷などの野蛮な制度を廃止した。また、農奴を無し、新に農夫とした。農作物の生産は自由な形をとっており、納税額も最低限に抑えられていた。よってこの国の王ガランハルは国民に愛され、尊敬されていた―――――――


ヨハンネの心が揺らいだ。


自分の国はやっぱり、むちゃくちゃだとわかった。


この国の制度は3世紀も前のもの。


世の中と共に制度も変わっていったのに、ここだけ、発展が止まっている。


プルクテスでは身分が低いほど、重い納税を払わされ、農奴は一年に納める作物量を決められている。


奴隷は平等など存在しない。


人間以下の扱いを受けている。


犬や猫と同じだ。


(ぼ、僕は今まで教え込まれた学問、歴史はすべて間違っていたんだ。曾祖父がこの事実を追究した結果……何者かにより暗殺されている)


そうやって、ジャバ王家はこの国に君臨し続けていたのか…


自分を危うくする者は消し去る。


ヨハンネは唇を噛み締めた。


例え、この国が間違っているとしても彼には何も出来ない。


国を変える事など出来ない。


奴隷制を廃止など国にとっては利益にならないし、今更変えられない。


無理に変えようものなら政治犯として、死罪か追放されるからだ。


それくらい、ヨハンネにもわかっていた。


(ならば、せめて目に留まる者だけでも……助ける事は出来ないだろうか?)


ヨハンネは椅子に座り込み、窓から市街地を眺めた。


近くに、サルサット闘技場がある。


そこでふと思った。


(そう言えば、黒髪の少女があの闘技場で闘っていた。もしも、彼女だけでも……)


ヨハンネは黒髪の少女に妙に肩入れしているようだ。


それは自分でも不思議に思えたのだ。




==========================================================================




その頃、その黒髪の少女は闘技場の食堂にて―――――――


「黒髪?おめぇ名はないのか」と隣で食事をしていた大柄の剣奴隷が黒髪に話しかけた。


見た目は怖そうで顎鬚を蓄えているようだ。


筋肉も凄く盛り上がっていて、まさに屈強な戦士と言える。


大柄の男の問いかけに反応した黒髪の少女は首を傾げた。


「名前?私にですか」


大男が頷く。


「……ないです」


「そうか。俺の名はゲルマンって言うんだ。よろしくな」と手を差し出し握手を求めた。


それに応えるように彼女も手を差し出した。


「それより、おめぇ、筋肉も無いのにどこからあんな馬鹿力がでるだぁ?」と彼女の手の平をジッと不思議そうに見つめる。


ゲルマンは戦争捕虜としてここに連れてこられた。


彼はある部族の長だった。


その為、たくさんの戦士をその眼球で焼き付けており、戦地へ送っていった。


戦士は鍛錬をする内に豆が出来たり、手の皮膚が厚くなる事がある。


しかし、彼女の手は嘘のように綺麗だった。


「不思議な事があるものだな……」


「はい?」


「いや。独り言だよ」


すると、ゲルマンの近くにあった鉄格子の窓から、ザーッという音が聞えた。


ゲルマンがそれに視線を送ると、なぜか胸を撫で下ろした。


「…今日は雨だな」


「えぇ。そのようですね」


ゲルマンの強面な顔が緩む。


「雨の日は良い。誰も死なずに済むからな。いっそうのこと永遠に雨が降ればよいのに」


柄には似合わない弱気な台詞だった。


そして寂しい顔をした。


彼女は、首を左右に振る。


「それは無理です」


「確かにそうだな」とため息をつく。


少し、間をあけて、ゲルマンが言葉を続ける。


「――――――戦士、守るべき者を見つけた時、真の力を引き出す。死に直面する戦士は敗れたとしても、再び鼓動が高鳴り、息を吹き返す。そして痛みが消えるのだ。そして真の力を発揮する」


「守るべき者?真の力……?」


彼女はなんて返せばよいのかわからなかった。


「ハハ。すまぬ。俺は昔、通過儀礼を行なう見届け人だったのだ。ついお前のような若い戦士を見ると、この言葉が勝手に出てきてしまうんだ。気にするな」


少女がボソッと言った。


「…雨、止まないで欲しいですね」


「あぁ」

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