表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/67

調査報告 その5

キンブレイト邸の夕食にて。


いつもの食卓に場違いな者が居た。


その者は椅子には座らず、ジッと対象者を見つめていた。


メイドらがその者の目の前を横切り、食卓に豪華な料理を並べ始めた。


「七面鳥の丸焼きにございます」


「ポテトとレタス、そしてサーモンの盛り付けです」


「失礼します。こちらはドラゴマ国から輸入した豚料理です」と料理人が丁寧に説明した。


ドラゴマ国とは、プルクテスからリーデル海を越えた島国の事である。


「ほぉ。最近、どうした事かドラゴマからの物が多いな」とグレイゴスが不思議な顔をした。


「はい。当主様。実はシェール国とドラゴマ国が戦争を始めたそうで……」


「何?王の都と言われたシェールがか?」


「父上、僕もそれは初耳でした」とヨハンネが言った。


そんな時、その場違いな者が一歩前に出て得意げに話し始めた。


「グレイゴス殿。その事ですが現在、シェール国軍はドラゴマ軍対してに各地で敗走中。理由は指揮官の不在によるものと多勢に無勢と言った所です」


「……うむ。流石は王宮の使いだのう」とヨハンネとグレイゴスが顔を向けた。


「そうですね。父上」とヨハンネは上品に豚肉を口に入れた。


「で、……なぜ監視委員会が来ているんだ?まさか、お前のミネルヴァを奪いに来たのではないだろうな」とヨハンネに体を傾けて、小さく囁いた。


「まーいろいろですよ。でも安心してください。明日には王宮に帰るそうですから」


「ほう。それなら良いのだが……あの小娘の一人ぐらい、始末しても良いのだぞ」


「ご、ご冗談を」とヨハンネは顔が引き釣り、苦笑いした。


それを聞いていたジュリエンタがクスクスと笑い始める。


「まぁあなた、酷い顔ですわよ。まるで悪人です」


「ヌアッハハハハハハ。そうか!それは愉快愉快」と腹を叩いて笑う。


「父上。ワインの飲みすぎです」


ヨハンネが呆れた顔で水を飲んだ。


(あれ?なんでグレイゴス殿は大笑いしているんだろう?)


「おい。対象者。何で笑っているかわかるか」とミネルヴァに近づき、他には聞えない様に話しかける。


それにミネルヴァも小さく囁く。


「では教えてあげましょう。貴方がこれ以上、ここに居座るのであればこの世から消すそうです」


その言葉に青ざめたグラリスはグレイゴスをチラッと見た。


(だから、あんな悪人の顔をしているのか?もしや、私は暗黙の了解に手を出してしまったのか……いいや違う。これは隊長殿の命令だ。それとも、なにか、目の上のたんこぶを排除する為か)


グラリスは優秀ではあったが、産まれた親が厄介だった。


それは、プルクテスが建国される前に住んでいた先住民族のカカ人とプルクテス人のハーフだったからだ。


カカ族はほとんどが迫害を受けているが、グラリスの父親が子爵だった為、迫害は避けることが出来ていた。


しかし、その父親が死んでから、風当たりが変わっていたのである。


(私はこんな事で屈するか。昇進して、隊長になって弟を楽させるんだ)


「さてと。わしは先に寝るぞ」と残ったワインを一気に飲み立ち上がった。


「あら今日は早いです事」


「明日は工房に行くからのう」


「父上?いよいよ、新作のワインの生産ですね」


「うむ。明日が楽しみだわい。おぉそうだ。新作のワインはミネルヴァが一番に飲んではみないか」


「私がですか?」


「そうだ。お前はここに来てから、ヨハンネを助けてもらってばかり。今回はそのお礼を兼ねて、わしからの労いだよ」


「あー父上?ミネルヴァにはまだ、早いんではありませんか」


「ヨハンネ?お前は知らんのか」とニヤリと笑う。


「何をですか」


「ミネルヴァはもうわしの酒仲間なんだぞ」


「え?!」とヨハンネがミネルヴァの方へ目を向ける。


それにミネルヴァが小さく頷き言った。


「この前に、ワインを飲ませて頂きました」


「い、いつの間に?!」


グラリスはそんな会話を聞いているうちに、あることを思い出した。


(父さんと母さん、それに弟と、あんな風に一緒に楽しく暮らしたかったなぁ……)


グラリスはゆっくりと、外に張ってあるテントへ帰り、報告書の続きを書き始めた。


蝋燭の明かりを頼りに、ペンにインクを付ける。


私は、対象者の事がどうしても、理解出来ない。


と言うより、対象者は奴隷であるのに、それを感じさせない……


キンブレイト家に溶け込み、彼らの雰囲気は和んでいる。


(私は……この報告書を書いて、提出する必要性があるのだろうか?)


その時、頭によぎった。


同僚が奴隷を気に食わない時に嘘、でっちあげの書文を書いていた事を思い出した。


グラリスもそれをしようと、ロール状の紙に手を伸ばした。


しかし……


その手が、まるで何かに防がれたかの様に動かなくなった。


(私は……彼らの家族を……壊したくない……私には出来ないよ……あんなに、忠誠な奴隷なんて、見たことない……奴隷を頼る主人なんて見たことない……)


グラリスは伸ばした手を下ろした。


そして、決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ