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魔王と呼ばれた女剣闘士を買った少年の物語Ⅰ  作者: 飯塚ヒロアキ
第二章 アレー・ソリスの登場
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シュッペルハイト号の完成 その5

――――――――――話はヨハンネに戻る。


 ヨハンネが自分の部屋の扉を開けようとすると、ダマスが待ってましたと、部屋から飛び出てきた。


「おぉ元気になったようだな!!!ヨハンネ!アハハハハッ」


 上機嫌にヨハンネの肩を何度も叩く。


「い、痛いって」


 廊下に乾いた音が何度も響いた。本当に痛かったのか、ダマスを両手で押し退ける。


「おぉすまん、すまん。ついな」


 と悪びれる様子もなく、ダマスは言葉を続ける。


「それより、良い話があるんだ」


 そう言って怪しい笑みを見せる。ヨハンネは何の事か見当がつかず、眉を顰めた。


「…本当に?」

「あぁ。立ち話しもあれだ。中に入ろうぜ」

「ここ、僕の部屋なんだけど……」


 ヨハンネは苦笑いしてつぶやくと、自室の中へと入った。ダマスがお気に入りの腰掛がある横長の椅子に深々と腰を下ろしてから話し出す。


「あ―――――で、早速だが、脱出用船が完成したぞ」

「おぉす、凄いよッ!!こんな短時間で?!!」

「たりゃめぇだろ。俺は貴族だぜ?」


 ダマスが自慢げに胸を張った。


(―――――――――ここはスルーして……)


 スルーしたことに文句を言われる前にヨハンネから質問する。


「で、名前とかあるの?」

「あ、あぁ船名は“シュッペルハイト号って命名した。この大陸の初代英雄王の名だ」

「初代英雄王!!?その人って、太古の聖戦で勇猛果敢に戦い、魔王を自らの手で打ち倒し、立ったまま力尽きたって伝説を残したってやつ?うわぁああ凄いなぁ。あぁロマンを感じるよ」


 ヨハンネは目を輝かしてダマスに迫る。


「お、おぅ。流石は本マニアだなぁ……よく知ってる。てか、顔が近いってッ!とりあえず落ち着け」


 ダマスはヨハンネを手で突き放した。ヨハンネは肩をすくめ、苦笑いしながら、ごめん、と誤る。


「それでだ。来週にはここを出るぞ」

「…もう?流石に早くないかい?」

「バカ!本当なら今日でも逃げたいくらいだ。だが、今は海が荒れている。今のうちに荷をまとめるんだ。相当な長旅になる。どこに行くのかもわからない。つまり、未開の地に踏み入れることになる。わかるな意味は?」

「アンルスタンの大冒険だね!失われた財宝に、幻の島に、まだ見ぬ古の遺跡、そしてミネルヴァの故郷。凄い!早く行きたいなぁ。アハハハ」


 座っていた椅子からヨハンネが高く飛び跳ねて喜んだ。まるで、子供のように。それにダマスは思わず頭を抱えてため息を吐いた。


「はぁ…やべぇ。妄想スイッチが入ったようだ……」


 喜んでいるヨハンネに構わず、声音を強めにして、言葉を続けた。


「いいか!この紙に書いている指定地に来週、必ず来いよ。来なかったら、お前でも置いて行くからな」


 ヨハンネは目を輝かせながら、うん、うんと、頷く。


「いいな!来週だぞ」

「了解しました!船長」


 今度はピシりと敬礼した。調子が狂いそうになったダマスは天井を仰ぐ。


「ダメだこりゃ……。凄い不安になるわ…」







 月が黒い雲に覆われて、真っ暗な闇が広まる真夜中、静まり返った街に火が灯された。それも数え切れないほどの火が灯る。その火の明かりは列をなし、街の中央に集まっていく。


 この異常に誰も気がつかなかった。


 何故なら、街を監視するプルクテス守備隊の半数がゴロドム・ヘルムに増援として、向かい、そのおかげで治安が悪くなった為、街の家々の窓は板で隙間なく塞がれていたからである。その火は松明に灯されたものだった。松明を持つ彼らは憤怒の形相で誰かを待っていた。今にも爆発しそうな勢いで、ある場所を見つめている。


そこには小さな登壇があった。


 数分後、その登壇に一人の若者が立った。彼は周りを見渡し、息を大きく吸う。


「時は来たり!我らが同士達よ」


 演説が突然始まった。その場に集まった人々は真剣な眼差しで見つめていた。そこには全体として、女、子供も混じっていたんである。


「覚えているだろうか?三年前のスロペルス城建築計画を」


 スロペルス城とは、前にも話した離れ島に壮大に立ち尽くす、ジャバ王の居城の事である。その言葉に何人かが頷く。


「奴らには、季節と言う言葉は関係なかった。雨が降ろうと、嵐になろうと、雪が振ろうと、我々が身につける服は変わらなかった。それを何年も強制的に働かした。永遠に思えた作業に我々が狩りだされたのだ」


 陸地と離れ島を繋ぐ橋造りは困難を極めた。橋の基礎は波に飲まれ、途中で石橋が崩れたりもした。


「たった一人の独裁者により、我々の家族は枯れ木の様に力尽きていった。その動かなくなった家族を我々の手で穴を掘り、埋めいった。自分の妹も、この手で埋めたのである」


 途中、何処かから、すすり泣きが聞えた。


「かぁちゃん……かぁちゃん。寂しいよ。僕、寂しいよ」

「我が一人娘よ……何故、死んだ。どうして、まだ六歳だったんだぞ。どうしてなんだ」

「母さんのかわいいリンク……お願い。帰っておいで。私の愛しい子よ」

「貴族共め、富裕層共、許さん。許さんぞ」


 今まで、蓋をしていた物が溢れ出るように憎悪がこみ上げてきている。松明の火が黒く揺れる。


「その時、自分は誓った。スロペルス城を、奴らの血で赤く染めると。諸君らの自由を奪ったこの国は腐敗している」


 男たちが賛意する。


「俺達の自由は誰にも否定する事は出来ない」

「ここにある食糧は全て私たちが作ったのよ」

「そして、城が完成したら今度は、大切な家族が奴隷商人に連れて行かれた。時には我々の目の前で言葉に出来ないほどの事までされた。しかし、それを黙ってみるしかなかった。自分の母は涙を流しながら死んでいった。それでも我々は奴隷監視委員に睨まれ、何も言えなかった。抗う力が無かった。導くべき英雄がいなかったからだ。更には市民の味方と唱えるローズ騎士団さえ、目を合わせようともしなかった」


人々が拳を握り、歯を噛み締める。時には歯軋りをする者も居た。


「だが、時は来た。同士達よ!思い出せ。家族の無念を!果せなかった誓いを今、ここですべきなのだ!!!」


 登壇の机上を三度ほど、激しく叩くと感情的になったアレーは思わず吼えた。


「自由を求め、生きる希望を持て、戦え!抗え!反逆の時だッ!!!一斉蜂起せよ。あらゆる物を用いて、己の武器として、国軍に立ち向かえッ!!!」

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