シュッペルハイト号の完成 その3
次の日
ヨハンネは久々に太陽の光を浴びに外に出た。
そして、椅子に座り本を開いたが、しおりがあの時で、止まっていた。
それは、父親が死んだ日。
ヨハンネはそれを見て、少し、考え込んだが、後ろで見守るミネルヴァに悟られないように、平常心を保つ為に、息を大きく吸い、ゆっくりと吐いた。
こうして、いつもの日常を取り戻した様である。
ヨハンネの姿を後ろから見つめる彼女、ハルトはと言うと、ロベッタにこき使われていた。
ちなみに、こき使われている理由は、ミネルヴァがロベッタさんに告げ口をしたからだ。
ハルトが前にぶどうを盗もうとした事を話したのだ。
ハルトはミネルヴァが、嫌がらせしていると言ってきたが、(彼女はそんな気はないと思う……)
そんな事より、ヨハンネが気にしていたのが、ここから、見下ろせる市街地からどんよりとした空気が流れて来ていたのである。
普段は海の潮風と緑の匂いだったが今日は違った。
(ちょうど、新しい本も買わないといけないし、ついでに市街地の様子でも見に行くこうかな)
ヨハンネは持っていた本を閉じると、立ち上がった。
心の病で数日間、寝込んでいた為か、足元がおぼつかない様で、倒れそうになった。
しかし、ミネルヴァがそれを受け止めた。
「あ、ごめん」
「ご主人様。大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ。少ししたら、治るさ。これから市街地に行く」
「かしこまりました。ならハルトも連れて行きましょう」
「なんで、ハルトまで?」
「彼の役目です。いざって時には矢避けにはなりますから」
その言葉を、ヨハンネは頭の中で思い浮かべる。
「君は平気でなんて事を言うんだよ」
一時間後、行きつけの本屋に足を運んだ。
「これは、これはヨハンネの坊ちゃん。具合を良くなったのですね?」
「えぇ。まぁ」と素っ気ない返事で返した。
(カエア戦記か……)
英雄王の死後、それを支えた女騎士の話。
新しい書物だ。
なかなか、興味をひかれるものだ。
(他には、これは古文書?)
竜の生態は実に面白そうだ。
ヨハンネが本を選び始めた時は、誰からの話しかけにも、聞き流されてしまう。
ミネルヴァはそれを知っている為、背後ががら空きのヨハンネの警戒を担う。
彼女は無言で待機していた。
が、ハルトは詰まらないのか、足がだるいのか、しゃがみ込む。
ミネルヴァが何かを感じ取った様な素振りをした。
それに気がついたハルトが聞いた。
「なんかあるんか?姉さん」
「街の様子が重々しい……息が詰まります」
そう言うと、近くにある大通りから隊列を組んで、ものものしい雰囲気を出している兵士らが通り過ぎる。
「もたもたするな!敵は待ってはくれんぞ」
「全体駆け足!」と号令がかかる。
足踏みが、速まった。
先頭列を馬で進むローズ騎士団は赤いマントをまとい、口髭や顎鬚を蓄えていた。
鎧も他とは比較出来ないほど、差があった。
まさに、完全武装である。
「あれはプルクテスの国軍。鎧は鋼鉄、剣はロングソード。盾は青銅。それに続くのは守衛の重装甲兵?まるで、竜の討伐遠征にでも行くみたいだぜ」
「彼らは何処へ行くのですか?」
「さぁ。情報統制が掛かってて、プルクテスから外の情報が入って来ないからなぁ。城門も堅く閉ざされてるし、一般人の出入りも許されない。しかも、街を出て行った兵士達は二度と帰って来ない」
「帰って来ない?」と不思議な顔をしてハルトを見下ろす。
ハルトは手を顎に置き、自分の考えを言い出した。
「推測だけど、多分、帝国と大規模な戦いをしているんだろ。最近では、二級国民にも召集命令が出されてるし。劣勢なのは間違いない。兄ちゃんもそろそろ王宮から使者が来ると思うよ」
「ご主人様には闘いは無理です」と首を横に振った。
「そりゃあそうだけど……仕方ない。王の命令なんだから」
彼女は自分より、小さな子供から王の命令という言葉が出るとは思わなかったようである。
そんな話をしていると、ヨハンネが本を大量に持って近づいて来た。
「さっ帰ろう」
重たそうにするヨハンネを見かねたハルトとミネルヴァはその書籍と古文書を手に取った。
「普通、一冊とかだろ?兄ちゃん」
「そうです。荷馬車が無いんですから考えて買って下さい」
「アハハハ。ごめん、ごめん。これだけなら、自分で持てると思って」とヨハンネは後ろ頭を掻いた。
三人は仲良く並び、帰っていった。
最近、戦闘が無くて申し訳ないです。
今後、物語は急展開。
果たして、か弱い、ヨハンネは生き残る事が出来るのか?
次回をお楽しみ下さい。
レイラ
「よう!俺を主人公にしてくれ」
ミネルヴァ
「そんな事、絶対に許さない。ご主人様の邪魔する者は消えろ」
レイラ
「言ったな。黒髪。手前は俺が八つ裂きにしてやるよ」
ミネルヴァ
「貴方には私は倒せません」




